第13話 bitanem

 有名人の東郷と共に過ごすことが多いクラリッサである。

 が、普段は意外と注目はされていない。

 シーラの後を追った際には露見したものの、通常は存在感が薄過ぎる為、中々なかなか認識し辛いのだ。

 それは昼食時も同じで2人が仲良く同席していても、注目されやすいのは、相棒の東郷である。

 しかし、一度認識した者は別だ。

「失礼します」

 饂飩うどんをお盆に載せたシーラがやってきた。

 勿論、取り巻きも一緒である。

「同席、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

ありがとうございますサイグラル

 微笑んだシーラは、取り巻きと共に向かい側に腰を下ろす。

 彼女達はクラリッサに会釈えしゃく後、再び東郷を見る。

「学食は、初めてですか?」

「そうですね。広いので、迷いましたが」

「迷った際には、ご相談下さい。お助けしますので」

「ご厚意、ありがとうございます」

「「「……」」」

 シーラに対する敬意が明確に表れている為、取り巻きは、嬉しそうだ。

「貴方の記事、拝読させていただきました」

「お恥ずかしい話です」

「武道のご経験があるのでしたら、武道関係の部活に入るのでしょうか?」

「いえ、何も考えていませんね」

「もし、ご都合がよろしければ、当部にどうですか?」

 シーラが目配せすると、取り巻きの1人が懐から薄い紙を取り出す。

 そして、机上に置いては、

「失礼します」

 東郷の元へスライドさせる。


『トルコ文化部

 活動日数:5日(※状況次第では変動の可能性あり)

 ご興味のある方、どなたでも大歓迎です』


 名刺並の小さなポスターだ。

 日本語以外にはトルコ語、英語も併記へいきされている。

 言語から察するにトルコ人は勿論のこと、日本人や英語圏の生徒を積極的に勧誘したいようだ。

「具体的には、どのようなご活動を?」

「我が国が誇る文化のご紹介ですね」

 スッと、取り巻きが携帯電話の画面を見せる。

 スライドショーのそれは、数々のトルコ文化が映し出されていく。


蒸風呂ハマム

 腰巻用タオルか水着で下半身を隠して、垢すり師からマッサージ等を受ける


・トルコ料理

 フランス料理、中華料理と並ぶ世界三大料理の一つ

 オスマン帝国時代、宮廷料理が発達し、世界三大料理の一つの地位を獲得

 例 

パンエキメッキ

 フランスパンのような細長い形


②ヨーグルト

 1人当たりの年間消費量(㎏)は、

 トルコ:11・9kg

 日本 :10・3kg

(出典:『みんなでつくるヨーグルト白書2023』)

 約1億人以上の日本と、約8500万人(2024年 トルコ国家統計庁)のトルコの人口比を考えた場合、いかに消費量が多いかが分かるだろうか。


紅茶チャイ

 国民的飲み物

 2段式の薬缶やかんの上段で茶葉を煮立て、下段で湯を沸かして作る


④ラク

 白濁酒

 薬草で香り付けされた葡萄の蒸留酒で、アルコール度は40~50%

 軽食メゼをお供に飲む

 軽食の事例

 ・白いチーズ

 ・メロンの薄切り

 ・クルミ入りトウガラシペースト

 ・濃い水切りヨーグルト

 ・冷たいナスのペースト状のサラダ

 ・アーティチョーク(和名:朝鮮薊チョウセンアザミ)の料理

 ・胡瓜キュウリ大蒜ニンニクのヨーグルト和え

 ・豆や野菜をオリーブオイルで炒め煮にした料理

 ・葡萄ブドウの葉やピーマン等の野菜に肉や米を詰めた料理

 ・ミートボール


 ⑤織物キリム

 ⑥絨毯

 ⑦レース編みオヤ

 ⑧ランプ

 ⑨タイル

 ⑩相撲ヤールギュレシ

 ……


「……文化のご紹介に熱心ですね?」

「愛国者ですからね」

 自信満々にシーラは応える。

 そして、付け加えることも忘れない。

「もう一つの理由は、そろそろ我が国の国内問題が解決しますので。外国の方々には、平和になった我が国に沢山来て頂きたいのです」

「なるほど」

 文脈から東郷は察する。

 彼女の言う「国内問題」というのは、恐らくトルコ国内の独立派による武装闘争のことだろう。

 トルコ国内には、世界最大の難民とされるクルド人が多数存在する。

 人口比で言えば、トルコの人口の約2割を占めているとされ、その過激派は独立国家を目指してトルコ政府と激しく対立しているのだ。

 武装闘争が開始してから約40年。

 両者の関係は、以前と比べると改善傾向になり、《渡り鳥のガン》内部でも「近日中に過激派が武装解除予定」という話が出ている。

 平和が実現したあかつきには、トルコは「平和」を諸外国に主張アピールすることが出来る為、観光客の誘致を図っているのだろう。

「文化部、もし、ご興味があれば、どうですか?」

「ありがとうございます。幾つか質問しても?」

「はい。何でも」

「ラクは、お酒ですよね? 校内で大丈夫なのでしょうか?」

 日本では20歳以上が法的に飲酒が可能な年齢である。

 しかし、ここは未成年者が主体の学校。

 流石に校内に酒があるのは、倫理的に問題だろう。

 シーラは、微笑む。

「それは既に学校側に許可を取っています。当部は日本の法律に従い、飲酒は20歳以上と厳しくしています。部内で飲んでいるのは、顧問や成人の大学生や院生に限られています」

「分かりました」

 違法の可能性が低いことに東郷は、安心する。

 上流階級出身者が多い彼らだが、問題を起こせば内容次第であるが、1発退学。

 外国籍であれば、その時点で強制送還の上、今後、永久に来日は出来ない。

 その上、学校のHPに公開される為、自尊心プライドが高い生徒は、そんな目にはいたくない。

「前向きに検討させて頂きます」

 魅力的な部ではあるものの、他の部も気になる為、即決は難しい。

「よろしくお願いいたします」

 シーラは笑顔で告げる。

 しかし、その意識は別の方に向けられていた。

(明らかに敵視されているわね)

 意識しているのは、東郷の横に座るクラリッサだ。

「……」

 伏し目がちで紙コップの炭酸飲料をストローですすっているが、時折、こちらに視線を送っている。

 時機タイミングを狙っている為か、将又はたまた偶然か。

 両者の視線が合うことは無い。

 しかし、明らかに好意的ではないのは確かだ。

(……東郷君は義妹とおっしゃいましたが、別の感情を抱いているようね)

 どういう経緯で義理の兄妹になったのか。

 そもそも、本当にそのような関係なのかは分からない。

 しかし、「女の勘」というべきか。

 シーラには2人が並々ならぬ関係性のように感じられた。

(……気になるわね)

 入学式直後に助けてもらって以降、益々ますます、東郷への関心が高まっていくシーラなのであった。


[参考文献・出典]

 ウィキペディア

 ターキッシュエアラインズ&トラベル HP

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