第31話 メティズヒリ、徹底制覇(9)

【主人公(ノブ)視点・一人称】


「ええッ!? ほんとのラスボスって、ノブッ!?」


「なんで、ぼくがラスボスなんだよ、ツルギ」


「いや、俺らはさッ、とりあえずループの発生源壊したら、それで終わりかなッて思ってたら、ノブがでてきたからッ」


 >> おっ身内同士のバトルか!?

 >> あり寄りのあり

 >> 正座待機


「いやごめんなさい。なし寄りのなしでお願いします」


 ツルギの発言に反応して変な方向に行こうとする視聴者のみなさんに釘をさし、ぼくは、さっきまで鉤爪イソギンチャクが暴れていたところを見た。ぼくがたったいま壊したばかりの、時空魔法の跡だ。

 ―― もしこれが普通のモンスターならば、魔王の力で消し去れば、それでおしまい。

 けど今回は違う。

 ぼくが壊したのは、あくまで時空の歪みそのものであって、ラスボスではないのだ。


 ―― 一般に、時空魔法というのは、時を加速させたり巻き戻したりして、対象を消す魔法だと思われがちだ。

 たしかにそのとおりだけど、実はそれ、事象をから見た解釈であるにすぎない。言い方を変えれば、からみているものは、ただの残像でしかないのだ。

 なぜなら、そもそも時空魔法の本質は、対象を時間の流れから切り離し、別の次元 ―― 一般には 【時空の歪み】 と呼ばれるスポットに孤立させることにあるのだから。

 このスポットに囚われてしまった対象は、以後、永遠に同じ時をループする。物理的に塵となり、消えてしまうその時まで、ずっと ――


 ぼくはさっき、そのスポット時空の歪みを魔王の力で壊し、囚われていた人々を解放した。

 ツルギとミウとサエリと、ケーブルカーの車掌さん。

 それから、気の遠くなるほどの時間、ループを繰り返してきたこの街メティズヒリの鉱魔族たちを ―― 

 いや、彼らのからだは無限ともいえるループのなかでとっくに風化している。

 ここに残されているのは、記憶と思念だけ。

 それらが、これまで街を覆っていた時空魔法のエネルギーと完全に結びついて生まれたのが、ぼくたちの目の前にいる、真のラスボスなんだろう。

 強さや凶悪さというより、悲しみさえ感じさせるような ―― 夢のように美しく、星のような光を放つ、青みがかったボディー。

 さらさらとした楽器のような声。


どうしてガッティ…… 許さないエ・ォレスト…… どうしてガッティ…… 許さないエ・ォレスト……〗


 ―― いつ攻撃がきても、おかしくない……!


 垣崎先生マリリンが頭から三角巾をとってスキル発動にそなえ、ぼくは革の本専用 D E Wをかまえなおす。


「車掌さん、どっかその辺に隠れていてください」


「わかりました。みなさんのご武運を祈ります!」


 ケーブルの車掌さんは敬礼すると螺旋階段を降りていった。

 ここから先は、戦闘スキルもD指向性EエネルギーW兵器も持っていない車掌さんでは足手まといになるだけ ―― 真のラスボスの危険を察知したからこその、素早い対応だ。 

 ―― けど、ツルギとサエリ、ミウの3人は、そうはいかないみたいだった。

 困惑したようにお互いに顔を見合わせている。


「えッ、ラスボスって! ルディネじゃんッ」


「…… ルディネ…… 優しいのに……」

 

「そんなの、嘘でしょ!?」


 いつもは戦闘的なサエリも、ミウも…… 信じたくない、といった口ぶりだ。

 どうやらこのラスボス、ツルギたち3人がループのなかで出会った鉱魔族と同じ姿をしているみたいだ。

 残っている記憶がそうさせているのだろうけど…… 厄介なことになっちゃったな、というのが、ぼくの正直な感想だったりする。


「それ、ルディネっていうひとと似てるかもしれないけど、別人みたいなもんだから…… ツルギ、やめろ!」


 ぼくが3人に説明しようとしたとき。

 ツルギが、ラスボスに近づいた。

 一応、召喚用ペンタブ専用D E Wは持っているとはいえ、そこになにかを描いているわけではない ―― つまり、無防備だ。


「ツルギ! 近づくと危ない」


「大丈夫だッて!」


 ツルギはぼくに向かって片目をつむってみせたあと、ラスボスの顔をのぞきこむ。

 

「ルディネッ!? 俺、俺ッ! 俺だよッ! わかんないッ?」


人間イツァ…… 裏切ったアイジォナッ…… 許さないエ・ォレスト…… どうしてガッティ……〗


 目には見えない時空魔法のエネルギーが、急激に膨れ上がる気配 ――


「ツルギさん!」 〖許さないぃぃぃエ・ォレストっ!〗


 垣崎先生マリリンの髪の毛がツルギを突き飛ばすのとほぼ同時に、ルディネから攻撃が放たれる。


 ざんっ……


 透明なエネルギーの塊が空間の一部を歪め、垣崎先生の髪の毛をもぎとり、消した。


 >> マリリン!

 >> やば!敵つええ!

 >> てか、いまのなにがあった!?


 コメント欄が騒ぐ気持ちは、ぼくもわかる。

 これまで何十体ものアメジスト・ゴーレムをとらえほふってきた、垣崎先生マリリンの無敵の髪が、あっというまに持ってかれたんだから。


「垣崎先生! 大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。手や足じゃなくて、良かったです…… けど」


「いまは闘えませんね」


「はい。すみません」


 申し訳なさそうに肩をすぼめる垣崎先生マリリンに、ぼくはとりあえず 「大丈夫ですよ」 と言ってみる。

 ―― いや、ほんとうはめちゃくちゃ、ピンチだと思うんだけど!


 >> ちょ、ツルギ! 

 >> いつのまにか急接近してやがる!


 ―― え?


 ぼくが顔をあげると、コメント欄の言うとおりだった。

 ツルギは、いつの間にかルディネの背後に立ち、彼女の肩を抱きかかえるようにしていた。

 ―― いや、たしかにそこなら攻撃は向けられないし、ラスボス相手にそれできるの、すごいとも思うけど……


「ツルギ!」


 ぼくの呼びかけは、ツルギの耳には入ってないみたいだ。

 ツルギは、この期に及んでまだ、ルディネを説得しようとしていた。

 

「ルディネッ! 俺らは味方ッ! 忘れたのッ!? レマノナなかまだといいねってッ、話し合ったでしょ、俺たちッ」


裏切りアイジオ…… 許さないエ・ォレスト…… どうしてガッティ…… 許さないエ・ォレスト……〗


「ツルギ…… たぶんルディネは、に人間に裏切られたんだよ」


「へ? どゆこと、ノブちんッ」


「ほら、さっきぼくが消した、時空魔法の中心陣…… あれは、この街の内部に潜入してなきゃ、描けないだろ?」


「……ッ!? ああああッ!」


 ツルギが叫んだ。


 >> なるほど

 >> 時空魔法? 中心陣?


 コメント欄のツッコミに、ぼくは、はっとする。

 ―― しまった。言いすぎた……

 この際だ。当然のこと、みたいな感じで説明してしまおう。


「えーと。この街はすごく昔に、時空魔法という、魔界ならではの時間を操る魔法で滅ぼされたみたいで。さっきぼくが消した魔法陣、あれがその中心陣だったみたいです」


 >> ええええ!?

 >> なるほどってならんわ

 >> とんでもないダンジョン引き当てたな


「ツルギたちが消えたのは、このダンジョンに残ってた、時空が歪んでループしてるスポットに巻き込まれたせいです」


 >> ファンタジーすぎて思考がついていかん

 >> ほれ ループ量子重力理論 https://w……

 >> ひも理論もあるぞ https://……

 

「えーと、科学的にはちょっと、ぼくにもわかりませんけど」


「てことはッ! 俺らッ、ルディネに 『裏切り者』 って思われちゃってるのッ!?」


 ツルギが悲痛な顔をする。

 ループのなかではツルギ、持ち前のコミュ力でルディネと仲良くなったんだろうな…… 目に浮かぶようだ。


「どっちかというとツルギたちは、過去の繰り返しループのなかで、たまたまそのポジションにいた人間、って感じだと思う」


「がーんッ…… 俺らのことなんてッ、ルディネはどーでも良かったのねッ」


「とりあえずツルギ。いい位置にいるから、そのままルディネの拘束、頼む」


 >> なにげに鬼畜

 >> ノブちんひどw

 >> 冷静と言ってあげようよ


 ―― まあ、ツルギに拘束してもらったところで、ルディネを倒せるわけじゃないんだけど……

 正直なところ現状は、詰みに近い。 

 垣崎先生はスキルが使えないし、ぼくはこのラスボスを倒す方法を思いつかない。鉱魔族は、ぼくが前世で魔王やってたころにはすでに伝説の存在になっていたから、知識が不足してるんだ。

 普段は進んでアタッカーになるサエリとミウも、この状況でどう動くか決めかねて、立ち尽くしている ――


 もし。ルディネが次々と攻撃してくるタイプなら、考えるひまもなく、避けて反撃しなければならなかっただろう。

 けど、ルディネの攻撃は、遅い。

 そのぶん、発動したときの被害は未知数だ。

 ヘタに刺激して、攻撃を誘発してしまったら…… と思うと、ぼくたちはどうしても慎重にならざるを得ない。


 >> 大丈夫か? 

 >> なんか止まってるぞ

 >> これも時空魔法なん?


 しまった…… コメント欄まで、戸惑ってる。

 ―― こっちが考えてばかりじゃ、視聴者のみなさんは退屈しちゃうんだった。

 難易度高いダンジョンだからって、それだけでいいねやコメントが増えるわけじゃない、っていうね……!

 視聴者のみなさんを飽きさせずに、考える時間をなんとか稼がないと ―― そうだ。


「ミウ、ループでなにがあったか、話してくれる?」


「そんなの! あとで、いいでしょ!?」


「いや、攻略のヒントになるかなって……」


 >> いい選択肢

 >> 説明はツルギじゃなくてミウかww

 >> ツルギはイラスト専門だからなw


「わかったわ。最初は、広間で鉱魔族に囲まれてて……」


 ミウがループのあいだに起こったことを、かいつまんで話し始める。

 幸いすぐに、視聴者のみなさんは食いついてくれたみたいだ。


 >> それきついな!

 >> 死んだらループって

 >> いや現実に死ぬよりマシやろ

 >> そもそも死ぬ事態に陥るところがマジでヤバいと思わんのかね諸君


 ―― それはほんとに、そう。


 ともかくも、ミウの話をまとめると ―― 

 ぼくの推測はだいたい、あってそうではある。

 ―― いまのルディネをラスボスたらしめているのは間違いなく、信頼した人間に裏切られ、未来を奪われたことに対する絶望と怒りと恨みだ。

 正攻法でいくなら、これらの負の感情を解き昇華させるのが一番、はやいだろう。

 問題は、できるのか、ってことだけど……


 ぼくがここまで考えたとき。

 ふいに、ルディネの持つエネルギーが高まるのを、感じた。

 次の攻撃が、くる ――!

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