第29話 メティズヒリ、徹底制覇(7)ツルギ視点⇒主人公視点

【ツルギ視点・3人称】


「ルディネッ! 俺らも協力するよッ」


 ツルギは、ルディネの手を握り、力強く宣言した。鉱魔族特有の冷たい手だ。


「ルディネは、俺らの恩人だからさッ! 一宿一飯の恩義ッてやつ!」


「牢屋よ?」 とミウがツッコみ、 「ごはん…… なかった……」 とサエリが肩を落とす。


「というか、人間と闘うのは、僕は遠慮したいです……」


 この場で唯一の大人であるエイジは、車掌の制服の腕を組んで申し訳なさそうな顔をした。


「ちょッ、みんなッ! 冷たくないッ!? ルディネは俺たちを、助けてくれたのにッ」


 ツルギは日本語で素早く付け加える。


「それに、ループッ! ゲームだと、だいたいこれ 『敵を倒すまで出られません』 ってアレよ!?」


 サエリ、ミウ、エイジは顔を見合せた。

 たしかに、それは間違ってはいないだろうが ――


「…… でも…… いまは、D志向性EエネルギーW兵器、使えない……」


 サエリのことばに、ミウもうなずく。


「わたしたち、戦いの邪魔にしか、ならないと思うわ」


「僕のスキルは戦闘向きでは、ありませんし」 と、エイジは困ったように眉を寄せた。


「だぁぁぁッ! もうッ! 無理が通れば道理は引っ込むでしょッ!? 気合いだよ気合いッ!」


 もしノブナガが聞いたら 『昭和のスポコン漫画だな』 と冷静なツッコミが入りそうだ ―― そんなことをちらっと考えながらも、ツルギはルディネの滑らかな流動金属の手を、ぎゅっと握る。


「ルディネッ! 俺らはさッ、鉱魔族アラッツァのみなさんの、味方だからッ!」


 ルディネは戸惑ったように、握られた手を見つめた。


「…… ツルギとみなさんの、気持ちは嬉しいです」


「じゃあッ」


「いえ。みなさんは、何もしないで、ここにいてください」


「ええッ!? なんでッ!?」


「みなさんは、人間なので。それに、ツルギ。あなた以外の人は、乗り気じゃないようです」


 ルディネの流動金属ボディーから放たれる光が、ゆっくりとまたたく。


「うーんッ……」


 ツルギはうなりつつも、ルディネの手を離した。


「しかたないッ! 武運を祈るッ、ルディネ姫ッ!」


「ありがとう。みなさんも、気をつけてください。また昨晩のように、殺しにくる者がいるかも、しれませんから」


「わかったッ! ありがとうッ」


 ルディネが鉱魔族の兵に早口で指示を出しながら遠ざかっていくのを、ツルギたちは牢の中から見送った。


「ツルギ、どういうつもりなの?」


 ルディネの青みがかった美しいボディーが視界から消えたあと ―― ツルギの背後から、ミウが問いかけた。


「ツルギにしては、あっさり引き下がったじゃない?」


「あッ、わかっちゃったッ!?」


 ツルギは片目をつぶりながら、仲間に手のひらを開けてみせる ――

 そこには青みがかり、星のような輝きをまとう半液体が、しずかにたゆたっていた。

 先ほどルディネの手を握りながら、ひそかにはぎとった流動金属の一部だ。

 ―― ルディネはこの牢に入るとき、手を鍵のように変形させて、扉を開けていた。

 ならば、そのボディーさえあれば、牢から抜けられるかもしれない ――

 そう考えたうえでの犯行である。


「鉱魔族ってッ、痛覚ないみたいなんだよねッ」


「…… ひとでなし……」


 サエリのつぶやきに、ミウもエイジも、深くうなずいたのだった。


「ええッ! いいアイデアって、言ってほしいな、そこはッ!」


 ツルギは手のひらに乗った半液体に向かい、ルディネが言っていたのと同じことばを唱えてみた。


〘セイ・ギルツ〙


 とたんに、流動金属はチカチカとまたたき始めた。いそがしく光りながら、複雑な鍵のような形に変化し、固まっていく ――


「やたッ! 予想どおりッ」


 牢の戸はスムーズに開いた。

 ツルギに続き、ミウ、サエリ、エイジが牢を出る。3人とも人間侵略者との戦闘に乗り気ではなかったが、このままではどうしようもないのも、わかってはいるのだ ――


 牢の外はしんと静まっており、見張りの姿ひとつ見られなかった。

 ツルギは周囲を見回し、首をひねる。


「みんな戦闘に駆り出されてるってとこかなッ?」


「状況から考えると、籠城戦の準備ですかね」


「たしかにッ」


 エイジの言うとおり ―― ここは鉱魔族の街であり、人間が襲撃をしかけるのは街の外からである。

 そしてこの街には、鉱魔族向けの食糧 (おそらく鉱石) は豊富にあるものの、人間用の食糧は一切ない。

 つまり、籠城戦が圧倒的に有利 ――

 ここまで考えて、ツルギはまたしても 「あれッ?」 と首をひねった。


「このダンジョン、廃墟っぽくなかったっけッ? 最初ッ」


「そのとおりです」 と、エイジ。


「僕が見るに、ここと、最初にいた街は、似て非なる場所でしょう…… 明らかに、こちらのほうが


「…… ループ……」


 サエリがぽそりと言うと、ミウも 「そうよ!」 とうなずく。


「DEWが使えなくなったのも、だもの」


「えーとッ、じゃあさッ、いまって、俺たち 『鉱魔族最後の日』 をループしてるのかなッ?」


「ツルギって、ときどき残酷よね」 と、ミウ。


「さいごの…… ひ……」 「ありそう」


 サエリとエイジが、同時につぶやいた。

 ツルギたちがいま、確信してること ―― それは、このループに落とされる前のダンジョンでは鉱魔族は滅んでいた、ということだ。 


「つまりさッ! ループ脱出の条件てッ、鉱魔族が滅びるの止めなきゃ、ってことだよねッ!?」


「「「…………」」」


 ミウ、サエリ、エイジは複雑な表情でだまりこむ。

 その可能性が高いとは思っても、割り切れてはいない、といったところか ――

 だが、なにもせずに待つ暇は、もうない。

 ―― いったん戦況を確認しよう、ということになり、ツルギたちは街で一番高い建物に向かった。

 神殿かなにかだろう。鐘楼らしきものがある。 

 特にとがめられることもなく、その鐘楼へと登ったツルギたち4人が見たものは ――

 街の外壁を幾重にも守る、鉱魔族の軍と、その外に押し寄せる人間の軍隊。

 だが、その軍隊はカモフラージュだと、ツルギにはひとめでわかった。

 そのさらに外側に仕掛けられているのは、大がかりな円陣 ―― 幾人もの魔道士が、それを仕上げている最中だ。


「あれは……ッ」


「なんなの?」 「……?」 「どうしたんですか?」


 ミウとサエリ、エイジが不思議そうにツルギを見る ―― そうだ。

 前世に魔界の記憶を持たない彼らには、あれがなにか、わかりようもない。

 だが、あれは……


「いそいで、ルディネに知らせなきゃッ」


 ツルギは身をひるがえし、螺旋らせん階段を全速力で駆けおりた。

 過去に鉱魔族が滅ぼされた原因、それは ――


◯◯◆◆◯◯

【主人公(ノブ)視点・一人称】


「あ、なんか魔法陣ぽいの、あった」


 ぼくは神殿の鐘楼の床を指した。なんとはなしに登ってみれば、いきなりビンゴだ。

 魔界の古代文字で描かれた円陣 ―― 対外動画配信的には 『魔法陣ぽいの』 で誤魔化したけど、どう見ても、大がかりな時空魔法の中心陣だ。

 ぼくの隣で、垣崎先生マリリンも息をのんでいる。

 ぼくはいったんマイクを切って、垣崎先生に言ってみた。


「人間がメティズヒリを滅ぼせたのは時空魔法を使ったからだって伝説、本当だったみたいですね」


「ほんとに人間って、魔力もほとんどないくせに、途方もないことをしでかしますよね……」


「良くも悪くもというか」


 ―― メティズヒリが滅ぼされたのは、人間が大掛かりな時空魔法を使ってメティズヒリの中の時間を滅亡まで進めたからだ、というのは魔界の伝説だった。

 しかし、常識で考えて 『嘘だろ』 と思われてきた話でもある。

 なぜなら、時空魔法は魔族でいうと、魔王クラスでないと使えない。そして魔王クラスでもめったに使わない。

 理由は簡単。使ったあとその土地に時空の歪みが残るからだ。巻き込まれ事故で臣民が帰ってこれなくなったら面倒でしかない。


「けど鉱魔族ののろいって…… 人間は、単純に自業自得じゃん」


「工夫して協力してできそう、ってところでだいそれたことをやっちゃうの…… いかにも、人間らしいですよねえ」


 垣崎先生マリリンの口調、なんか慈愛がこもってる ―― 日本人生活が長いせいかな。


 >> マイク!

 >> 聞こえん

 >> マイク切れてる

 >> ノブちん、マリリン!マイクつけて


「あ、すみません! 気づきませんでした」


 ぼくはコメントをくれたみなさんに頭を下げつつ、マイクのスイッチを入れた。


「もしかしたら、ツルギたちが消えたの、この魔法陣? が原因かもしれません」


 ―― まあ、ほぼ確定だろうけどね。


「じゃ、みんなを助けるために、ちょっとこれ、消してみますね」


 >> 消すってw

 >> どうやってww


「うーん…… 足で…… いや、消えないですね」


 >> そりゃ無理w

 >> 見ればわかるぞノブちんww


「じゃあ、ちょっと革の本専用D E W使ってみます!」


 ぼくは革の本に書きこむ。視聴者さんウケを意識してコミカルにしてみよう ――


『この程度の術なら。このぼくが、厨2魔王の力でなんとかしてみせる!』


 >> 厨2魔王w

 >> 期待してるぞ魔王w

 >> てか自己申告ww

 >> まあ頑張れノブちんw


 >> 3000いいね 達成しました


 ―― よし。ウケたみたいだ……!

 さて、あとは。

 どうやって魔王覚醒しないまま力だけ引き出すか、というのが問題なんだけど ――


『ぼくが魔王覚醒しなくても、ぼくの魂は魔王としての力を持っている。

 その力を、ぼくは魔法陣に注ぐ……!

 記憶のを、底のふたを少しだけずらして、傾ける ―― そんなイメージだ。

 消えよディザゴ時をティエ歪めるディストロ邪悪のクェゴス魔法よミズト!』


 革の本が、ぼんやりと光を放つ ―― だがその光は数秒後に消えてしまった。

 くそっ……

 ぼくは再び、革の本に書き込む。


『大丈夫、ぼくなら、魔王の力を使えるはずだ……!

 消えよディザゴ時をティエ歪めるディストロ邪悪のクェゴス魔法よミズト!』


 革の本から、先ほどよりも少しだけ強い光があふれてきた。

 魔法陣が、ゆらりとゆらめく…… 成功か……?


許さないエ・ォレスト……〗


 魔法陣から、さらさらと砂の流れるような声が聞こえ、青く輝く霧が立ち上る。

 これは……?


 霧が、無数の触手を持つイソギンチャクみたいな姿に変わる。触手の先端には、鋭い鉤爪かぎづめ


許さないぃぃぃっエ・ォレスト!〗


 無数の鉤爪かぎづめは、容赦なく、ぼくと垣崎先生に襲いかかってきた。

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