第28話 メティズヒリ、徹底制覇(6)

【主人公(ノブ)視点・一人称】


「【鬼魂食拝】 いただきます ―― ごちそうさまでした」


 ダンジョン 『メティズアメジストのヒリ』 の神殿を目指し進むあいだ ――

 スキルによりアメジスト・ゴーレムの物理耐性と魔法耐性、そして高出力のパワーを身につけた垣崎先生マリリンは、まさに無双状態だった。

 それも次々とアメジスト・ゴーレムを捕食し栄養としていくから、無双が途切れることがない。

 問題があるとすれば、簡単すぎてコメント欄が退屈することくらい ―― いや。

 

 >> めっちゃ食うなw

 >> まだギブしないのかw

 >> ガチで無限の胃袋

 >> みてて気持ちいい


 コメント欄は、ダンジョン攻略というよりは爆食大会のノリになってきてる。

 この流れ、ぼくも乗ったほうがいいねが入りやすくなるんじゃ…… いや、でも。

 ぼくが得たい新技 【序破急】 の構成的にはどうなんだろう?

 ―― さっき、ぼくは 『このダンジョンでぼくが 【序破急新技】 を会得する物語』 を序破急であらわす、と決めたばかりだ。

 なのに、ここで 『垣崎先生マリリンのモンスター爆食大会実況』 を加えるのは、ストーリー的に無駄じゃないだろうか?

 ぼくが予定していた物語とは、あまりに無関係すぎる ――


 >> おっ、次きた!

 >> おかわり!

 >> おかわりだ!


 ―― いや。違う。

 どう考えても、この場で無駄なのは、ぼくの新技序破急会得のほうだ。

 たしかにあれは、ぼくにとってすごく重要なことだけど……

 視聴者の興味の対象とはまったく思えないことが、問題なんだよな。

 さて、新技をとるか、いいねをとるか ―― 悩んでるあいだにも、ぼくたちの前にはまた、次のゴーレムが立ちふさがる。

 

 >> 次もいくか!?

 >> わくわく

 

 ―― そうだ。

 ぼくがやってるのは、ダンジョン攻略実況だった。

 たしかにそれが、構成的にもバッチリ決まれば、より面白くはなるだろうけど。

 それよりももっと大切なのは、いま、視聴者さんの心を動かせるポイントを逃さない、ってことのほう ――


 こんなに盛り上がってる 『垣崎先生マリリン無双・ゴーレム爆食大会』 に乗らずに 【序破急】 を極めたって、そんなのは単なる自己満足だ。

 ―― よし。

 思いきって、いったん 【序破急】 は忘れよう。

 それより、革の本専用D E Wの力でこのモンスター爆食大会をもっと盛り上げ、少しでも多くいいね・コメントを稼いで感動エネルギーをチャージする……!


 ぼくは革の本専用D E Wのページをめくりつつ、わざと、垣崎先生にきいてみた。


「垣崎先生! モンスター、もう28体めですけど、大丈夫なんですか?」


「もちろん。余裕ですよ?」


 >> うおおお! さすがマリリン!

 >> いっけええええ!

 >> 食いつくせ!


 やっぱり。

 構成の完璧さよりも、視聴者のみなさんを巻き込むことを意識したほうが、ぼくの実況は盛り上がるみたいだ。

 そのためには、構成上は無駄と思えるも、ある程度は入れたほうがいい。それが視聴者のみなさんが実況に入り込めるなんだ ――

 よし、この方向で、どんどん革の本専用D E Wに書いていってみよう。


 『神殿が近いせいだろうか ――

 ぼくたちの前に立ちふさがったアメジスト・ゴーレムは、いままでの倍の大きさだった。

 これ…… 大きすぎて、垣崎先生マリリンのスキルでも完食できるか、わからなくない?』


 >> なに言ってるんだノブちん!

 >> 完食できるわ当然だろ!


『コメント欄が激しくツッコんでくるけど、やはり、いままでどおりには食べられないと、ぼくは思う。なにごとにも、限界はあるんだ』


 >> そこまで言うか

 >> いやマリリンならやってくれる

 >> 完食に5000エネチャージ

 >> よっしゃ、わいも

 >> ワイ、10000エネ。

 >> 30000エネ

 >> 金持ちやなみんな

 >> 安心しろみんなそう思ってるw


『コメント欄のみなさんが、見当違いの賭けを始めてしまった…… 大金賭けちゃったみなさん、もし垣崎先生マリリンが食べ残しちゃったら、どうする気なんだろう』


 >> そんなことさせん! ☆1000エネ 注入しました☆

 >> マリリンがんばえ! ☆3000エネ 注入しました☆


『応援のエネ注入が、たくさん…… けど、垣崎先生マリリンのは固有スキルで、専用D E Wじゃない。

 エネ注入してくれた視聴者のみなさん、ありがたいけど実はそのエネ、垣崎先生マリリンには使えません! ごめんなさい』


 >> ノブがその本で後押しすればいいだろ

 >> そのための記録係

 >> そのためのエネチャージ


「えっ、ぼくがエネ使っていいんですか?」


 >> くどいww

 >> さっさと書けww


「ありがとうございます……!」


 ぼくは思わず、頭を下げていた。

 ―― 革の本専用D E Wにわざと危機感をあおるようなことを書いてみたのは、視聴者のみなさんの気持ちを動かして、より興味をひくためだった。

 うまくいった、と言えそうだけど、言えない。

 なんというか、視聴者のみなさんが動いてくれたのは、そんな小手先の技術のせいじゃない気がするから……

 そうじゃなくて、ぼくの意識がではなく自分たちのほうを向いたのを、視聴者のみなさんは、目ざとく感じとってくれたんだと思う。

 ―― ならば、この闘いのクライマックスは……

 視聴者のみなさんが喜んでくれるよう、なるべく派手に仕上げてみよう。


「捕縛之糸舞」


 垣崎先生のきれいな髪が、しゅるしゅるとゴーレムに向かってのびていく ――

 いまの垣崎先生なら、ぼくがサポートするまでもなく、勝利できる。

 だからぼくは、この闘いを視覚的にも盛り上がるように革の本専用D E Wで誘導する……!


垣崎先生マリリンの薄茶色の髪はさぁっと広がると、アメジスト・ゴーレムに向かって高速で伸びていく。

 強靭な無数の糸が、舞うようにゴーレムの手足に絡みつく。

 数瞬後にはゴーレムは、手足の自由をすっかり奪われ、空中に持ち上げられていた ―― いつもどおり、いや、それ以上。

 ゴーレムの大きさはまったく問題にならない。それどころか大きければ大きいほど、垣崎先生マリリンの闘志をかきたてて戦闘力を増しているように見受けられる』


 革の本専用D E Wがぼんやりした光を放ち、現実干渉に成功したことを教えてくれる ―― よっしゃ。

 ぼくは無言でガッツポーズをした。


 >> ガッツポーズて最近の子もするのか

 >> 動画で見るんだろうな

 >> 今の子わりかし昔のこと知ってるぞw


 ぼくは、そろそろと手をおろす。

 垣崎先生はもう、次のスキルを発動させている ――


「【鬼魂食拝】 ―― いただきます」


 垣崎先生がゴーレムに向かって手を合わせる。

 すかさず、ぼくも革の本専用D E Wに望ましい一瞬後の未来を記入していく。 

 

垣崎先生マリリンの頭上に現れた唇は、ゴーレムの大きさに合わせたらしい。縦も横も、いつもの倍の大きさだ ―― これ、ひとのみ確定?』


 >> 確定!

 >> さすがに無理やろ

 >> わい2口に5000エネ

 >> じゃワイはひとくちに10000エネ

 >> どうでもいいがあんたら、エネチャージの現金は返却不可だから賭けるの無理なんだがw

 >> いやそれこそどうでもいいww

 >> ドヤ顔で語るにわかおるww

 

「あっ、ぼくは! 賭けても賭けなくても、エネチャージ嬉しいです! ほんとです!」


 >> そんなん知ってるわww


 ―― 危なかった……

 ほっとくとコメント欄、炎上してたよな。

 鎮火できたみたいで良かった (ほっ)


『ゴーレムは、垣崎先生の頭上高く、空中に浮かぶ巨大唇の真上に持ち上げられる ―― ほぼ同時に唇が、ぱくっと開いた。

 なかからのぞく、白く輝く歯もピンク色の舌……

 すべてが、とにかくでかい。

 これは ―― ひとくちで、いくつもりか?

 次の瞬間。


 ぱさっ……


 髪の毛の戒めが、いっせいに解かれる ――

 巨大ゴーレムは、さらに巨大な口のなかに吸い込まれるように消えていった…… ひとくちだ。

 唇が閉じられ、むぐむぐと上下に動く。食べ物をゆっくりと噛みしめ、よく味わっているかのようだ』


 >> うまそう

 >> また腹が減ってきた……

 >> ちっひとくちか、しゃーないな ☆5000エネ 注入しました☆

 >> 有言実行かよ

 >> しびれる

 >> ちっしゃーないな ☆10000エネ 注入しました☆

 >> 丶(・ω・`) エライエライ


「…… ごちそうさまでした」


『―― 28体め、完食!』


 >> よっしゃ!

 >> さすが、マリリン!

 >> ノブちんも、よくやった!


「みなさんのおかげです」 「ありがとうございます! 応援、すごく力になりました!」


 配信画面に向かって頭をさげる垣崎先生マリリンとぼくの前には、扉の形の彫刻をほどこされた巨大な岩がたたずんでいる ―― 下のほうに、出入り口らしき穴。

 入ってすぐのところから地下へと続く階段がみえている。


「垣崎先生、これ……」


「ほかの出入り口とは、違いますね」


ボス部屋神殿ですかね?」


「わかりませんけど…… とりあえず、いってみませんか?」


「そうですね」


 ぼくと垣崎先生は、立派なレリーフの下の穴に、そろそろと足を踏み入れた ――



◆◆◯◯◆◆

【ツルギ視点・三人称】


「このひとたちは、誘拐なんてしないと、約束してくれました!」


「口先だけなら、なんとでも言える!」 「人間が信用できるわけがないだろう!」 「ルディネさま、騙されないでください!」 「どうか道をあけてください!」


 ツルギ、ミウ、サエリ、そしてケーブルカーの車掌、エイジ ―― 4人をかばうようにして立つ鉱魔族の姫の前には、数人の鉱魔族のおとなが迫っていた。


 時空の歪みに巻き込まれて、実に49回目のループ ―― 牢に泊まったのちの急な襲撃をなんとか避けて全員生き残る方法を、ツルギたちはやっと見つけたところである。

(まあつまりは、鉱魔族の姫、ルディネの協力を得てガードするという結論でしかなかったのだが)

 しかし翌朝にはもう、別の危険ループ要因が迫ってきた。

 ルディネがツルギたちをかばったおかげで襲撃がうまくいかなかった鉱魔族の有志が、当然のごとくキレたのだ。

 彼らはルディネに、ツルギたちを引き渡すよう要求してきている ―― もしルディネが要求をのめば、ツルギたちはほどなく追放されるか殺されるかして、50回目のループを繰り返すことになるだろう。やってられない。


 だが、そのとき ――


「姫さま! 大変です!」


 さらさらと楽器のような声が、あたりに響き渡った。


「人間の大軍が、攻めてきます!」


 ツルギたちは、互いに顔を見合せた ―― 

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