第27話 メティズヒリ、徹底制覇(5)ツルギ視点
【ツルギ視点・三人称】
「おおおいッ! みなさんッ! 俺たちは、旅行者ですがッ、道に迷ってしまいましたッ!」
きらめく流動金属ボディーの聴衆に向かって、ツルギは手を振り、覚えたばかりの
ループすること実に40回目。
何度も同じやりとりをするうちに、簡単な言葉がわかるようになった。この流動金属ボディーの人たちが 【
そして、ツルギたちがどんな方法をとろうと結局、ダンジョン入口のケーブルカーに近づくと
どうやら自分たちは時空の歪みらしきものに巻き込まれているようだ、とツルギが確信したころには、ミウもサエリもケーブルの車掌さんも、すっかり疲れて無口になっていた。
ツルギは鉱魔族の言葉と日本語をおりまぜ、聴衆に訴える。
「つきましてはッ! 一夜の宿をお願いしたいッ」
「ちょっ、ツルギ!」
ミウが慌てたようにツルギの服をひっぱる。
「こんなところに、泊まるつもり!?」
「うんッ!」
「攻略はどうするのよ!?」
「だからさッ、ほらッ! ゲームで、よくあるじゃんッ!? ミッション達成しないと出られない
「知らないわよ!」
「…… 泊まるの、賛成……」
サエリの口調は、普段よりさらにゆっくりしている。
「つかれた…… し……」
「そうですね」 と、車掌さんもうなずく。
「さきほどから時刻は変わってませんが、体感としてはもう、5、6時間は経っている気がします」
「もう! だって、こんなところで!」
ミウがさらに文句を言おうとしたとき。
鉱魔族の聴衆をかきわけ、小柄な少女が前に出てきた。
名前をルディネというのも、この40回のループでわかったこと。どのループでも真っ先にツルギたちを助けようとしてくれる、青みがかった美しいボディーを持つ彼女は、
「カルズでもいい?」
「カルズ? ちょっと描いて…… えー! 牢屋!?」
ツルギが差し出したペンタブに、ルディネが描いてみせたのは、格子のはまった小さな窓と、錠のかかる扉 ――
ツルギが思わず声をあげると、青みがかったルディネのボディーに小さなさざなみが起こった。
「ごめんなさい…… 人間は、私たちをバヒするから…… すぐに出ていくのでなければ、ここに入ってもらうしか」
「へッ!? バヒッ!?」
「そう。バヒされたら、2度と帰ってこない」
「うわッ! それはひどいねッ!」
どうやら 『バヒ = 誘拐』 であるらしい、と推測したツルギは、仲間に目でたずねた。
(ねえねえ、どうしようッ!?)
(牢屋なんて絶対イヤよ! なにされるかわからないじゃない!) とでもいうように、ミウが首を激しく横に振る。
一方で車掌さんは、肩をわずかにすくめ、うなずいた。
(しかたないですね) といったところか。
そして、サエリは。
(…………)
立ったまま目を閉じて、ウトウトしていた。ある意味、大物である。
「ごめんミウたんッ、多数決ッ」
ツルギは素早くミウにささやき、手をあげた。
「
セリフの最後は日本語になっていたため、おそらく 『信用して』 は通じていない ―― しかしツルギは 『セーフッ!』 と脳内で叫んでいた。
前世の人間の言葉でしゃべってみたりしなくて、本当に良かった。
言葉が通じないほうが明確に敵視されるより、なんぼかマシ、というものだ ――
「…… じゃ、こっち来て」
ルディネは、ツルギたちの先頭に立つと、歩き始めた。
ツルギがまずそのあとに続き、ついで目を閉じたままのサエリ。
ミウは 「いやよ!」 と後ずさったが、車掌さんに説得されてしぶしぶ、サエリのあとを歩き始めた。
車掌さんはミウの後ろ ―― しんがりをつとめてくれているのは、おとなの責任感からだろうか。
「車掌さんッ、あざまっす!」 「いえいえ」
短いやりとりを交わし、しばらく ――
疲れて重くなった足が、もう1歩も動けない、とばかりに
なかは意外と清潔で広い。ベッドはないが、4人が寝転べるくらいのスペースは余裕 ―― ひとまず、ほっとするツルギ。
サエリはすぐに壁際を占領して寝息をたてはじめた。いっぽう、ミウはイライラと 「こんなところで寝られると思ってるの!?」 と腕組みしている ――
「
ルディネの顔が、格子窓からのぞいた。
「こんなところで、ごめんなさい」
「いやいやいやッ! じゅうぶんッ!」
「ふーん…… かわってるね、あなたたち」
「そうかなッ!?」
「ここから出ていく気になったら、いつでも言ってね。早くしたほうが、いいと思うよ」
「人間の食べ物が、ないんですね?」
車掌さんの質問 ―― ルディネの流動金属の顔面から、星のようなまたたきが発せられる。
「ない。ひとつも、ないから」
「わかったッ! ありがとねッ!」
ルディネの青みがかった顔が、また、チカチカと光を放つ。
「できれば、あなたたちとは、レマノナがいいと思ってる」
「レマノナッ? 洗剤かなッ!?」
「違うと思うわよ?」 「敵意がない、といったところですかね」
ミウが呆れ顔をし、車掌さんが補足する。
「そっかッ! うんうん、俺も、レマノナいいと思うよッ! うんッ」
ツルギが何度も首を縦に振ると、呼応するかのようにルディネの身体じゅうで星の光がまたたく。
「…… きれい……」
サエリがふっと目をさまし、つぶやいて、また寝息をたてはじめる。
きっといまのルディネはほほえんでいるのと、ツルギは思った。
「じゃ、アディエゴ」
「アディエゴ? お休みなさい、かなッ?」
ツルギが聞き返したときには、ルディネはもう、窓から離れて向こうに行っていた。
「じゃあ、とりあえずッ! 寝ますかッ」
「こんなときに、こんなところで!?」 と、ミウが非難がましい目をツルギと、すでに爆睡しているサエリに向ける。
「非常時にはできることを先にするのよッ、ミウたんッ」
「いま、ここでできることは、休息しかありませんからね」
「車掌さんッ! わかってらっしゃるッ!」
「眠れないわよ!」
「うんッ、とりあえずッ、寝転ぼっかッ。ミウたんッ、サエリたんの隣ねッ」
「…………」
ミウは、しぶしぶといった感じでサエリの隣に寝転がる。女子ふたりと頭をつき合わせるような向きで、車掌さんとツルギも窓側に横になった。
むきだしの岩盤でできた床は、固いが滑らかで、直接寝ても痛くはない。
眠れない、というミウの気持ちもわかるので、ツルギは車掌さんも交え、しばらくおしゃべりをすることにした。
―― 車掌さんの名前は
車掌さん改めエイジの
「細かな異変を見逃さない、といわれるスキルです」
「あッ、だからッ!」
「ケーブルカーの車掌さんには、ぴったりね」
ミウの発言にエイジは淡々と応じる。
「まあ、たいしたスキルじゃないですけどね」
「いやいやいやッ、スキルがあるだけ、立派なもんっすよッ! 俺らから見れば、羨ましい限りッ」
「まあ、そうかもしれま…… 危ないっ」
エイジが急に、ツルギに覆いかぶさってきた。
「へッ!? なにッ!?」
エイジが、ツルギの上で動きを止める。
鉄さびのような、血の匂い。
ミウが悲鳴をあげるなか、暗転 ――
「また、振りだしに戻ったッ……!」
「どうも、メンバーのうち誰かが死亡すると最初から、ということみたいですね」
「エイジさんッ! ごめんねさっきッ! いたかったよねッ!」
「いえいえ。致命傷はかえって痛まないんですよ。神経がブロックされるから」
気にしないでください、と言われると、ツルギとしては、かえって気になってしまう。
「そんなことッ…… いやまあッ、エイジさんが無事だったから、良かったけどさあッ……!」
「それは、そのとおりよね」
ツルギと車掌さんことエイジ、そしてミウは、ひそひそと話しあった。
どうやら先ほどは、ツルギたち人間をこの街に入れることに反対する鉱魔族のしわざ ―― 格子窓のすきまから刃状のもので刺されかけたところを、たまたまエイジが気づいてかばってくれた、というわけだ。
油断しすぎた、とツルギは内心で己の首をしめたくなるほど後悔したのだが、ともかく ――
気づけばまた、ツルギたちはもとの広場で鉱魔族に囲まれていた。
41回目のループだ。
ちなみにサエリは、まだ眠っている。
「まッ、次はッ、アレはよける、ってことでッ」
「ルディネに言って、盾になるようななにか、もらいましょ」
「ミウたんッ、ナイスアイデアッ」
そこでツルギは、周りを取り囲む鉱魔族の面々に手を振り、大声を出したのだった。
「おおおいッ! みなさんッ! 俺たちは、旅行者ですがッ、道に迷ってしまいましたッ!」
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