第26話 メティズヒリ、徹底制覇(4)ツルギ視点
【ツルギ視点・三人称】
「たぶんだけど、ランクB++くらいだよ、ここ」
なぜかやたらとダンジョンに詳しい友人、ノブナガの予想。それが、ケーブルのなかでツルギが聞いた最後のことばだった。
聞き返そうとしたとき ―― ふいに何者かに腕を引っ張られるような感覚があった。
振り払えないほど強い力……
(腕がもげたら、口にペンくわえて1から画の練習ッ!?)
頭をよぎった考えが怖すぎて、ツルギはさして抵抗もせず、何者かに引きずられるままに暗闇に落ちていったのだった。
「はっ…… ここ、どこッ!?」
次にツルギが気づいたのは。広場のような場所。
星の輝きをまとう金属ボディーの人たちに取り囲まれている ―― 人間みたいだけど、目がない。
一緒に引きずられたらしいミウとサエリが、おびえて身を寄せた。
「なんなの!?」 「…… 金属人間……?」
「いえ、人じゃないですよね?」 とツッコむのは、ケーブルの車掌さんだ。
年齢は30歳くらいか。これまでツルギが聞いてきた車内アナウンスからは、穏やかで忍耐強い人柄がうかがい知れていた…… けど間近でよく見ると、目元はキリッと力強い。
車掌さんは、ツルギたちを守ろうとするかのように、立ち上がって両腕を広げていた。もっとも、握りしめた拳は少し震えている…… 本音ではこわいんだろうに、さすが大人だ。
「表面を見てください。金属が液体みたいに流れているでしょう?」
「つまりッ!?」
「モンスター? ですかね…… 僕は今年になるまでダンジョンに巻き込まれたことなかったので、詳しくないですが」
「まっ、普通は巻き込まれたらッ、生きて帰れないもんねッ」
「そうです、そうです。この前のも、
うんうんとうなずく車掌さんにツルギは申し訳なさを覚えた ――
今年に入ってこの車掌さん、短期間に続けて突発ダンジョンに遭遇している。つまりそれは、明らかにツルギとノブナガの、異様に高い突発ダンジョン遭遇率のせいなのだ。
「まッ、今回も俺らが、なんとかしゃあすっから!」
「よろしくお願いします」
「まかせてちょッ!」
ツルギは罪悪感にうずく胸をどんっと叩き、明るく笑ってみせた。
その間にも、頭は忙しく回転している。
―― ここはどこなのか。
周囲の流動金属ボディーの人たちはいったい、なにものなのか。
(とりあえず 『
なぜ、ツルギたち4人だけがここに送られたのか ――
「俺たち、ダンジョンの罠にかかちゃったッ、てとこかなッ」
「冗談じゃないわよ!」
「ノブと
ミウが激昂するかたわらでは、サエリがしごくまっとうな意見を述べている ―― だが。
車掌さんが、さらにまっとうな意見を述べた。
「このモンスター? たち…… どうしましょうかね?」
「…… たおす……」
すっ、とサエリが立ち上がり、地面をける。
大きな跳躍 ――
だが。
その
普段なら、強力なレーザービームが放たれ、敵を焼きつくすはずなのに。
「……?」
サエリは動きを止め、不思議そうに足元を見る。
そして今度は、きれいな回転を決めた…… が、やはり
「いま気づいたんだけど……」
ミウが指先で、自分のモノクル・マイクをとんとん、と叩く。
モノクル・マイクはダンジョン攻略動画配信に必須のアイテム。配信動画を確認し、マイクを通じて視聴者にこちらの声を届けることができる。
視聴者からもらった
だが、いま。
「これって画像、止まってるわよね?」
「つまりッ!?」
「…… 電波が途絶えて…… 動画配信ができない…… 感動エネルギー、使えない…… 攻撃、できない……」
「そのとおりッ!」
「なんでそこで拍手できるのよバカなの!?」
サエリの解答にツルギが拍手したのは、ミウの声が震えていたからだ。
恐怖心やパニックは、非常時においては害にしかならない。だからツルギはいま、ひたすら仲間の緊張を解くために動いている。
ミウのツッコミに、これなら大丈夫、と判断し、ツルギはへらっと笑ってみせた。
「まあまあまあッ! ほら、向こうもそんなにッ、攻撃してくる感じじゃないしッ」
そう ―― 周囲の
ならば、戦いより、理解を求めたほうがよさそうだ ――
ツルギは
電波が途絶えているからフェアリー召喚はできないが、普通のペンタブとしてももちろん使えるのだ。
―― 最初のイラストは、移動中の自分たち。
いきなり周囲が暗くなり、気づいたらここにいた、といった内容を4コマ漫画の要領で描いていく。
「よし、できたッ…… おーいッ! そこの素敵にキレイな
いきなりツルギに話しかけられて、
「ラッキーッ! 聴覚はあるねッ! あと目はないけど視覚もあるッ、と! じゃあッ、こっちに注目ッ! 注目ぅッ」
ツルギの派手な身振りで、
ツルギはイラストをひとつずつ指しながら説明していった。
「俺たちは、仲間とはぐれて、いきなりここにきたんだけど! 仲間を探したいので、出口を教えてほしいです! 以上!」
「ζ∃Φ ∃∈∀∉∃∮ υ∆υζυ?」 「Π∀∫∆υ ∃ΠΓ∮ ζ∀Φ∃∉∃?」 「ΓΦ∉∃∃Φ∀ βΓ∫∀∉ζ∃∮ υ∆υζυ∃?」
だがその意味は、ツルギにはサッパリわからない ――
「うーんッ、そっかなッ……!? あーッ たぶんッ!?」
相手に敵意はないようだと判断したツルギは、適当にうなずきながら愛想笑いを浮かべた。
―― やがて、ひとりの小柄な…… ミウよりも少し背の低い
「ΓΦ∉∃∃Φ∀ βΓ∫∀∉ζ∃∮ υ∆υζυ∃?」
ペンタブのイラストを指さしながら尋ねてくるところを見ると、どうやら 「出口を探しているのか?」 と聞いてくれているようだ……
ツルギはとりあえず、うなずいた。
「うんうんッ うんッ?」
「σ∫∀≤∀ π∅ΦΓ ∫∀Γ∫∃Π∀ ∃ζ∀ζυ……」
「うんッ!? なんてッ!?」
小柄なメタル人はツルギのペンタブを指さし、しきりに同じセリフを繰り返す。
それまで黙っていた車掌さんが、ツルギにささやいた。
「どうも、そのペンタブを貸してほしいようですよ。出口までの道を描いてくれるつもりかもしれません」
「あッ、そっかッ…… うーんッ」
ツルギは一瞬迷ったものの 「ま、いっかッ」 とペンタブを
もし
ということは、きっと
「このペン使ってッ! こうッ!」
ツルギが使い方を教えると、小柄な
「やッ! ありがとッ! ありがとッ!」 「あっ、ありがとう」 「恩人……」 「いや、おかげさまで助かりました!」
ツルギたちは
描いてもらった地図を頼りに、出口まで進む。
白みがかった紫色の鉱石でできた岩盤をくりぬいて作られた街は、迷宮というほどの複雑さもない。
しばらく歩くと、行く手に出口が現れた。出口のすぐそばには、停まったままのケーブルカーが見える ―― 一同の顔に、ほっとしたものが浮かんだ。
「やっと…… 合流できそう……」 と、サエリ。
「ノブたち、おとなしく待ってるかしら!?」 と、ミウが首をかしげる。
「合流したらッ、さっそく攻略の作戦会議だねッ」
ツルギが片目をつぶりサムズアップしてみせた、そのとき。
「あっ……」
車掌さんが声を上げた。
一瞬後 ――
ぐにゃりと、空間が歪んだ。
ミウが、サエリが、車掌さんが。
驚きに目を見開いたまま、
最初と同じ、腕がもぎとられそうなほどの強い力で引っ張られ、暗闇のなかに落ちていく ――
目を開けたとき、ツルギたちは再び、
―― 戻ってきてしまったのか……?
「あッ、どーもッ!」
ツルギが
なかに、先ほど出口までの地図を描いてくれた小柄な
「ごめん! せっかく出口教えてもらったのにッ! なんか、戻ってきちゃったッ!」
「∃ζ ζ∀Γ∉υ∉ υ∉ζ∀Πυ∉ζ∃∮……」
だが、相手はおびえたように後ずさり、なにかつぶやく。ツルギとは目を合わせようともしない。
「きみッ!? さっきの子でしょッ? 俺俺ッ、俺だよッ」
「…… 詐欺師みたい……」
サエリのことばに、ミウがくすりと笑った。
「確実に嫌われたわね、ツルギ」
「えッ、なんでッ!? 俺、なんかしたッ!?」
割かし本気でショックを受けるツルギ ―― 軽薄と思われることはあっても、そこまで嫌われたりはしない、という自信だけはあったのに。
「もしかしてッ、さっき、お礼が足りなかったとかッ……!?」
「いえ…… 違うかも、しれません」
ここで、車掌さんが困惑したような声を上げる ――
彼はポケットから取り出した業務用の懐中時計をツルギたちに見せつつ、こめかみを押さえた。
「さっきここに来たとき、16時25分だったんですが…… 時計は正常に動いてるのに、また、16時25分です……」
ツルギたちは思わず時計を凝視した。
「…… ループ?」 「そんな!」 「まさかねッ…… って、言いたいけどねッ」
そうは全然、言い切れない ――
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