第8話 スクール
おなかがすいて小屋の隅でうずくまっていると、野うさぎメンバーの男の人がスープを持ってきてくれた。
「流石に一人で食べれるよな?俺はお前のママじゃないぞ」
「うん」
僕は座ったままスープを受け取り、フーフーしながらひとくちずつ味わう。コーンスープ。
「おい、エドル。食糧はまだあるな?武器もだ。昨夜誰かがこの小屋の周りを歩いていた。ただの通行人だといいが、ウォカテの人間の可能性もある。いつでも戦える状態でいたい。弾はまだあるな?」
「おう問題ないよ。食糧も、ウォカテの広場で配給されてたやつをちょっと掠め取ってきたし。バレてない。武器周りも問題なし。ちなみにウォカテの都市内はかなり警備が厳しくなってる。普通に暮らしてる住人も出歩くだけで背後にピタッとドローンがくっついてる。もはやあの街にプライバシーなんてないな」
彼らは木の机に座り、スープやパンを食べながら話す。机の上には銃。地図。何かのメモ書き。
「ウォカテの学習寮は…」
僕は口に含んだスープをごくんと飲み干して言った。話し合っていた彼らが動きを止め、僕のことをじっと見る。
「あの、街から少し離れたところに、頭のいい子ばかりが入る学習寮があるんですけど、そこに僕の弟がいるんですけど、弟は大丈夫なのかな?ぼく、心配で」
「スクールのことか。弟さんがそこにいるの?ああ、かわいそうに」
「えっ」
茶髪の男性は哀れんだ顔で目を伏せる。
「『スクール』は実質、ウォカテの上層部に行く人間を養成するための洗脳学校だよ。ただの学習寮じゃない。地獄だ、考えてみろ。朝から晩まで春から冬まで、卒業するまでひたすらウォカテのために生きる人間として調教されるんだ、心も体もな。表向きはエリート学習寮だが、中で行われてるのはただの洗脳教育。弟は何年生だ?卒業後はお偉いさんルートに行くんだろう、ウォカテのことしか考えない人間になる」
「え、いやだ!」
「弟さんを助けてあげたいところだが俺らのミッションではない。ごめんな。俺たちは二週間後に行われるウォカテの祭りの日にレジスタンスとして奴らと戦う。俺たちはウォカテがどんな街なのかをみんなに伝え、理解してもらい、そして仲間を増やしていく。そうすればいつかあの街は必ず良くなるんだ。いい街になる。本当の意味でな」
彼の言葉は全然頭に入ってこなかった。その前の話、学習寮のことで頭が真っ白になってしまったんだ。ただの学校じゃないだなんて!レダ!助けなきゃ!
「ぼくレダをたすけたいです」
「弟さん?」
「レダをたすけたい。げんきじゃないかもしれない」
「元気だよ。健康もメンタルも全部調律されるからね。管理だよ管理。だから健康…」
「こわい、はやくレダにあいたいです、ぼくが止めればよかったのかも。お兄ちゃんなんだから。いい学校に行ってすごいやって思ってた。ぼくなにもしらないで……レダ……」
気づくと僕は小屋から飛び出していた。
「おい、きみっ!」
背後で声がしたが足は止まらない。わけもわからず茂みの中を走った。レダ!どこに向かってるのかわからないのに足は止まらずに走り続ける。木にぶつかって、葉っぱで足を切った。僕は泣きじゃくりながら走った。茂みを突き抜けると整備された道路に出た。道路から遠くを見つめる。ウォカテの街がうっすらと霧の中に見える。
「ウォカテだ」
おぞましい街。肌がぶわっと青ざめる。肩で息をしながら、僕はしばらく霧の中の街を見ていた。
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