第4話 ママのぬいぐるみ
余り布で母親が小さなぬいぐるみを作ってくれた。
「名前を考えてあげてもいいし、なくてもいい」
と、母は言う。僕は目の前の小さなぬいぐるみを凝視する。子供の頃、弟が僕をスキャンしたみたいに。ぬいぐるみの頭から爪先まで。といっても余り布に僅かなワタが詰まっているだけなので爪先っていうかプランとした心許ない足のようなものがあるだけ。僕の長ズボンと同じ生地の、この子はスモックみたいなのを着せてもらっている。とりあえずベッドの脇に置いた。今夜からこの子と寝ることにする。
「デバイスの電源を切るか、人工知能との対話機能をオフに」
と、母親が言う。僕は言われた通りデバイスの電源を切った。
「ママの言うことを聞けてとてもいい子」
と、母親は僕の髪を撫でる。そして僕の髪に唇を寄せ、囁く。
「ママの作ったご飯を食べて、ママの作った服を着て、ママのそばで幸せに暮らしましょうね。今夜は奮発して魚を買った。美味しいお茶漬けを作るから楽しみにしていて」
母親はニッコリと笑った。
僕は小部屋に戻り、ママの作った小さなぬいぐるみを握って隙間から外を眺める。この隙間は僕と外を繋ぐ大切な窓だ。「あ、今犬と一緒に歩いている男の人がいたね」「入ってくる風が少し秋っぽい匂いするね」「外で誰かが話している会話、よく聞こえないけど今『柿』っていう言葉だけわかった」
隙間から指を少しだけ出す。小指の先がやや入る程度。僕の小部屋は毛布と、小さなぬいぐるみと、僅かな衣服、小さな棚が一つだけ。棚の上に麦わら帽子。ママの作ったひまわりのブローチが輝いている。遠くから機械のような音がしていた。あの音が何か調べたいと思ったけれど、母親がデバイスの電源を切るよう言っていたことを守りたいからそれをすることはやめた。でも、ごめんなさいママ。僕はデバイスの中にいる『僕の友達』に会いたいから、ママが寝たあときっと悪い子になる。ごめんね、ママ。
その時、少し遠くの田舎町ヨシャロではおじさんが草刈機を使っていた。
「柿の木が大きくなりすぎている!」
なぜか巨大に育っていて気味が悪い、とおじさんは言う。草もやたら生い茂って異常な育ち方をしている、と。
「ウォカテが何かやってるんじゃあないのか?」
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