第3話 ヨシャロの町内放送

母が買い物に行く小さな田舎町はヨシャロという町。風力発電だ。一度母と町のはずれにあるその発電所を見に行った。草むらがサワサワと揺れて、白いプロペラの機械が花のように回っていた。


ヨシャロの町からはたまに町内放送が聞こえてくる。でも段ボールで塞いだ廃屋の中では、放送の内容までは聞き取れない。女の人の声で何かを言っているんだ、ということだけがわかる。僕は二日前に母が町で買ってきた小さなドーナツの袋に手を入れながらそれを聞いた。


「食べ物から変なにおいがしなければ食べていい」


と母親は言っていた。ドーナツは普通に美味しい。母親はランタンの灯りをつけて、ウォカテで使っていた作業着を布切れにバラし、それを懸命に縫い合わせている。冬用の僕の長ズボンにするんだそうだ。


「レダは元気かな」


と母に聞く。


「レダは元気よ。あの子は頭がいいし要領がいいからどこでも逞しくやっていけるわ。パパはあと七年で街の外に出てくるわね。パパは服役が終わった後どうするのかしら。私たちがここにいることを知らせないで来ちゃったから」


チクチクと針を動かしながら母が言う。レダは大丈夫。僕もそう思う。彼はすごく頭がいい。都市の偉い人が「どうしてもこの子が欲しい」とわざわざ家まで来て親を説得し、学習寮に入れたのだから。レダの誕生日は秋。


「ポルタは?」


僕は朝からポルタがいないので母親に聞いた。母親は手を止める。


「朝からいないわね。散歩かしら。あの子は自由なのよ」


僕は「そうか」と頷いた。廃屋の外から鳥の声が聞こえる。鳥も自由なんだ。羽があるから。レダも頭がよくて、要領がいいからウォカテでうまくやっていける。


「パパが七年後出てきたら、一緒にここで住む?」


僕は目をキラキラさせて言った。母親は布切れに目を落とす。


「知らない」


とだけ答えた。


「できたわ。ちょっと丈が足りないかも。でもごめんなさいね、布が無いんだから。今年の冬はこれを着て」


僕は母親から手渡された手作りの長ズボンを受け取る。すごく素敵だ。嬉しくて早速足を通した。ウォカテの工場で母親が着ていた作業着。それが僕の、冬の長ズボンになったんだ。


「ありがとう、ズボンになってくれて」


僕は布をさすって言った。ものすごく薄い布だけれど半ズボンより暖かい。母親が一針一針縫って作ってくれたのだからすごく温かい。大切に着る。僕は今日からこの長ズボンで過ごす。


「ありがとう、ママ」


母親は何も言わず僕をしっかりと柔らかく抱きしめた。

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