第2話 グミ
足をぴょこぴょこする。これは僕の癖。
父も母も子供の頃から「可愛いね」と言ってくれた。ウォカテの街にいる時はお出かけの時、フラッと僕が消えることがよくあった。興味を惹かれた店にひとりで入ってしまうからだ。「オルトがいないわ!」と母親が叫ぶ。どこだどこだ、と父親が走り、店の棚の商品に手を伸ばそうとした僕を後ろから抱き上げる。ぬいぐるみみたいに。でも、そのことで叱られることは一度もなかった。
弟は冷静な目で僕を見ていた。非難もせず、ただ僕を眺めていた。そんな時、子供の頃から僕は弟にスキャンされている感覚がした。頭からつま先まで、弟の瞳にスキャンされる。弟は笑わない。笑ったところを見たことがない。順序主義で、個人的な好みは持たず物事を決める際は三秒以内に決定していた。レストランのメニューも、服も、全てのことを。
「個人的な意思を排すると自由だよ」
と、彼が言っていた。弟は九歳で都市郊外の学習寮へ。通信は繋がってるけど、彼からメッセージがくることはない。
小腹が空いたのでキッチンへ行く。母親はもう寝ている。工場で働いていた時のお金を少しずつ使って離れた小さな田舎町まで行き、そこで野菜やお菓子を買ってきてくれている。だから小さな食料棚の中は、わりと食べ物が入っているんだ。
「何を食べようかな」
僕はパジャマ姿で棚の前にしゃがんだ。中を開けてストックされた食べ物を見る。ニャア、と声がしてポルタがやってきた。
「ポルタ!お前もおなかがすいてるの?」
僕はポルタを抱きしめる。ふわふわだ。僕はポルタを抱きしめたまま、棚の前で長らく何を食べるか悩んでいた。弟と違って、僕は決断するのが苦手だ。何もかも決められない。目の前に並んだ食べ物たちをひとつずつ見ていく。レトルトカレー、おかゆの素、スープの粉など。僕は十五分ほど悩んでいた。裸足で、肌寒いキッチンの床にしゃがみこんで。母親の寝息が聞こえる。小さくて綺麗な音。命の音がする。
結局木の机の上にあったグミを食べる。食べかけの袋から二つほど取り出したら空になった。おやつをご飯にすることはよくある。パジャマの半ズボンから僕の膝小僧が出ている。肌寒いけれど、長ズボンを持っていないから我慢する。足がぴょこぴょこと揺れる。グミを咀嚼する。噛みきれないかたいグミを噛み続けた。
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