EP2. サベージ船と未知の宇宙船
(1)
『廃船星』
船のスクラップや家庭の家電ゴミなど資源となる不燃物を捨てる星。
捨てる者もいれば、拾う者もいる。廃船星に捨てられたスクラップを掘り起こし<サベージ>、回収して売る者たちだ。
タイロン星と呼ばれる惑星にも衛星として廃船星がある。
(2)
「こちら、ジラフ・サベージ・サービス。事前に申請した通り、これより廃船星へ航行する。」
サベージ宇宙船ジラフ号 船長オーギンは、タイロン星の港湾局へ連絡する。相手から許可の返事が帰ってくる。
「チロル、廃船星へ向けて自動航行モードに移行しろ。」
一隻のサベージ船がタイロン星から廃船星へ向けて出発した。
(3)
「タダヒロ、いつも言っているが前方に気を付けておけ。宇宙生物や岩石に注意しろよ。避けないと船が粉々になるからな。」
ブリッジに陣取っているオーギンさんは、ジラフ号の操縦席に座る僕に言う。オーギンさんは何事にも細かく行ってくる。
「ちゃんと見てますよ。このあたりなら、宇宙生物や岩石はほとんどいない宙域なので大丈夫ですよ。」
タイロン星と廃船星の間は比較的安全な宙域だ。それに母艦AIのチロルが自動航行をしながら、周囲をレーダーで警戒してくれている。僕も目の前のパネルにあるレーダーとブリッジの窓を通して見張っている。
「耳にイヤホンとは。またベールボールを聞いているのか。不安になるぞ。不注意で岩石に当たるとかな。」
イヤホンをして、ベールボール中継をラジオで聞いている僕にオーギンさんは言う。
「オーギンさん、大丈夫ですって。今まで当たらなかったから、ここにいるんですよ。」
母艦AIのチロルは僕に続けて言う。
「そうですよ、オーギン。大丈夫ですよ。タダヒロは信頼できるパイロットです。あなたは心配性しすぎるのですよ。私とタダヒロに任せてお昼寝でもしておいてくださいよ。」
この母艦Aは買ってもらったばかりのジャズを船内放送で流して、上機嫌だ。
「チロルよ、船長と呼べと何度言ったら、わかるんだ。まぁ、任せるからな。」
そう言うと、オーギンさんは目の前のテーブルに目線を落とし、宇宙船カタログを見る。手にはホットコーヒーだろう。このジラフ号は正規で購入したものではないため、公式のメンテナンスサービスを受けられない。自前でパーツを買い揃え、修理・交換する必要があるのだ。そのためのパーツ、それも格安でパーツが売っていないか、カタログの隅から隅まで険しい顔をしながら見ている。うちの会社は自転車操業でカツカツだからな。
父母からもらったペンダント。あれから会っていない。それどころか、どこへ行ったかもわからず、行方知らずらしい。
目線を
(4)
「レーダーに反応はありませんが、発光信号を発見しました。」
チロルが何かしらを発見したらしい。僕の方も手元のカメラモニターを操作して確認する。
「僕の方からも発光信号を確認できました。なんでこんな近くまで気づかなかったんだ……。」
オーギンさんに報告をするが、レーダーには写らないことに緊張する。
「奇妙だな。発光信号の内容はわかるか。」
オーギンさんも緊張したのか、立ち上がる。チロルは発光信号を解読する。
「解読完了。発光信号は”オコシテ”です。」
”オコシテ”。そんな内容は聞いたことがない。”タスケテ”ではないのか。
「”オコシテ”。。。いったい何でしょうか。オーギンさん。」
「わからん。聞いたことがない内容だな。」
オーギンさんもそういった通り、訳が分からず困惑した顔になっている。相手の出方がわからない。僕たちはどうすればよいのだろうか。
「近づきますか。オーギンさん。」
「救難信号かもしれん。用心して近づこう。タダヒロ、近づいてくれ。」
救難信号か。確かにそんな相手かもしれない。宇宙海賊の罠ではないと良いのだが。
「わかりました。チロル、自動航行モード解除してくれ。」
「タダヒロの要請により、自動航行モードを解除します。操縦権をパイロットモードに移行します。」
チロルが解除して操縦桿を握る。モニターに写る発光信号に異変がないか注意しながら船を近づけていく。
(5)
宇宙船のブリッジからの目視ではまだ確認できない
「発光物体を望遠カメラで捉えました。」
チロルが正体をつかんだようだ。
「よし、モニターに出してくれ。」
モニターにその姿が写し出される。宇宙船と思ったものとは違う姿だった。それはまるで……。
「宇宙生物のように見える……。なぜ、発光信号を出しているのでしょうか。大きさは小型の宇宙船ぐらいに見えます。」
僕は疑問を口にする。宇宙生物だとしたら、なぜ発光信号を。いままでこの宙域で宇宙生物は見たことがない。
「チロル、今までに発光信号を出すような宇宙生物はいるか。」
オーギンさんは冷静に正体を探る。
「データベース検索中。…………。検索完了。発光信号を出す宇宙生物は見られますが、この形状の宇宙生物は確認されていません。」
チロルが艦内のサーバにあるデータベースから照合結果を報告する。
「未知の宇宙生物ということか。しかし、”オコシテ”なんてメッセージを出すようなものがいるのだろうか。」
オーギンさんはいぶかしげに言う。
もし、未知だとしたら、新種の宇宙生物だということになる。だとすると、うまく捕まえることができて、宇宙生命体管理局に渡せば、賞金をもらえることができそうだ。オーギンさんは常に金に困っているようだから、危険がないことがわかれば、捕まえそうだな。
「宇宙生物が出す発光信号は仲間同士のコミュニケーションとして利用されることがあります。私たちの使用する発光信号のような明滅パターンは通常見られません。」
チロルがさらに答える。
「だとすると……一体なんなんだ。」
オーギンさんはさらに困惑するように言う。
僕も思う。宇宙生物でないとしたら……。
「もしかして、宇宙船ではないですか。」
思わず口が出る。
「姿は宇宙生物のようですが、発光信号の内容から宇宙船の可能性が高いと思われます。」
チロルは僕と同意見のようだ。
やはり、宇宙船の可能性はあるのか。しかし、罠かもしれないという疑問がひっかかる。
「よし。注意して接近してくれ。チロル、あちらが怪しい動きをしたら教えてくれ。後、ビーム砲に弾を装填しておけ。いつでも撃てるようにな。」
オーギンさんは充分に警戒しているようだ。
「接近します。」
僕は緊張した面持ちをしながら、オーギンさんの言葉を繰り返す。ブリッジの窓に写る点とカメラに写るその姿に目を凝らしながら、船を近づけていく。相手の宇宙船の姿が徐々に大きくなっていく。
「発光物体は静止を続けいています。怪しい気配は今のところありません。」
チロルが逐次異変がないことを報告してくれる。
その宇宙生物と言えるような宇宙船がジラフ号のブリッジの窓から姿が見える位置まで近づいた。
「本当に姿は宇宙生物に見えるな。レーザーをあてて、音声通信を試してみよう。内容は”状況を教えられたし、所属と船名も教えられたし”とだ。チロル、頼むぞ。」
チロルはわかりましたと言うと、目の前の宇宙船に向けてレーザー通信を開始する。どんな返事がもらえるのだろうか。あの船の中はいったい……。チロルはジラフ号から未知の宇宙船に向けてレーザー通信を送りつづけた。
しかし何事もなく時間は過ぎていく。
レーザー通信の返事は来なかった……
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