EP3. 接触
(1)
「レーダー通信に反応はありません。相変わらず、宇宙船らしきものは発光信号を出し続けています。」
チロルが報告する。宇宙船は発光信号以外は沈黙を続けている。
「返事がないか。どうするか……。こうなると直接回収するしかないな。チロル、あの宇宙船に危険物がないかドローンで確認してきてくれないか。」
オーギンさんは宇宙船のブリッジで浮遊しているドローンに向けて言う。ドローンは母艦AIのチロルが母艦から亜空間通信で距離関係なく無線通信で動かしている。ドローンは人間サイズでサポートが細かくできるように宇宙船に配備されている。
「私にそんな危険なことをしろと言うのですか、船長。」
チロルは何か期待したかのようにドローンの体を揺らしている。
「危険なことって……お前はドローンを操っているだけだろうが。予備のドローンもあるはずだ。あっ。さてはお前、ジャズか。新しいアルバムが欲しいんだろ。」
オーギンさんは面倒くさそうにチロルに目をやる。
「それは船長のお気持ち次第ですよ。それに失礼な。この子は私のかわいい分身ですよ。」
ドローンをこの子とは……僕はAIの気持ちに苦笑した。
「わかった、わかった。買ってやるから。あの宇宙船の確認を頼む。」
オーギンはしぶしぶ了承する。
「さすが、船長。わかってますぜ!確認してきます。吉報をお待ちください。」
そういうと、チロルのドローンはブリッジから出ていく。
(2)
「チロル、ちゃんと確認しに行きますかね。」
僕はご褒美にウキウキしているチロルが心配になる。
「失礼な。母艦AIであるこの私がドローンで確認しに行くんですよ。」
チロルは自信満々で言う。
「聞かれてたか。疑って、ごめんごめん。」
僕はチロルに軽めに謝る。チロルの本体は母艦であるジラフ号のものである。ドローンが母艦から離れれていても、艦内の会話はチロルに筒抜けなのである。
チロルのドローンがブリッジを出て行った後、残ったオーギンさんは僕に問いかける。
「しかし、あの宇宙船はほんとに宇宙生物に似てるな。」
「そうですよね。羽が4枚も生えているように見えますし……。」
羽が生えた宇宙船なんてあるのだろうか。
「船長、これからドローンでジラフ号から正体不明の宇宙船へ向けて出発します。」
チロルのドローンが船外へ出ていく。
「気をつけろよ。何が起きるかわからないからな。ジラフ号のビーム砲の狙いをあの宇宙船に合わせておけ。」
母艦のチロルに向けてオーギンは言う。
「わかりました。船長。」
チロルはジラフ号に搭載されているビーム砲を宇宙船に向ける。
(3)
チロルのドローンがあの宇宙船に近づいていくのが見える。ちょうど100mぐらい先だろうか。
ドローンが宇宙船のそばに到着する。
「宇宙船のそばまできました。コクピットあたりらしきものは宇宙船の目みたいなところかもしれません。ひとまず、宇宙船全体をスキャンします。」
ドローンの顔みたいな目から、チロルはスキャンレーザーを掛けていく。宇宙船全体をスキャンできるようにドローンはせわしなく動き続けている。
「宇宙船に危険物がないと良いんだが。回収しないにしてもな。」
ドローンの動きが止まった。どうやら、スキャンが終わったようだ。
「スキャンが完了しました。爆発物やガスなどの危険物は検出されませんでした。」
チロルがスキャン結果をブリッジの僕たちに伝える。
「よくやった、チロル。ジラフ号にドローンを戻してくれ。」
宇宙空間でスキャンを終わったドローンは未知の宇宙船を離れ、ジラフ号に戻ってくる。オーギンさんは僕の後ろで考え込んでいるようだ。顔の表情が変わったかと思うと意を決したように言った。
「よし、あの宇宙船を回収する。」
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