ろうそくの灯り

@namakesaru

本文

 昭和の時代、ろうそくは生活のすぐそばにあったんだよ。

 その話をしてあげようね。


 いまの若い世帯では、まだ仏壇なんて置いていない家がほとんどだろうけれどね。昭和のお家には、仏壇のある家は多かったんだよ。まだまだ、核家族よりも大所帯の家族の方が多かった時代だからね。


 仏壇にろうそく。これは当然のことだよね。

 当時はね、マッチで火をつけてね。まあ、タバコを吸う人も多かったからライターで火をつけるところも普通だったけど。


 線香をくゆらせて、ご先祖様に手を合わせる。

 一通りご挨拶が終わったら、ろうそくを消すんだ。せっかく付けたのに、って思うだろう? でもね、ろうそくが倒れたら大変なことになるからね。ろうそくの火はあんなに小さいのにねえ。家一軒燃やし尽くすことができるんだよ。


 そうそう、仏壇のろうそくを消すときは、息を吹きかけちゃダメなんだ。知っていたかい? 手で仰いで消すんだよ。子どもの小さな掌ではなかなか消えなくてね。小さな子は夢中になってしまうから火傷に気をつけて見ておかないと。目を離しちゃあ、いけないよ。


 そうだ、ひとつ教えといてあげよう。

 よそのお宅にお邪魔して仏壇のある部屋に通されたら、膝を畳に付けて手を合わせなさい。グッと印象が良くなるから。本当はね、一言声をかけてきちんと正座するのが良いのだけれど。いまのご時世、迎える方がびっくりしてしまうこともあるだろうからね。手を合わせるだけでも充分だろ。


 仏壇のほかには、停電の時はろうそくの出番だったね。いまみたいにすぐ復旧なんてしないからね。ろうそくの火でご飯を食べることもあって、むしろドキドキわくわくしたものだよ。お風呂にもね、器に入れて持っていってね。

 いまはわざと暗くしてキャンドルともして癒し効果があるとかっていうけどね。まあ、ちょっとリッチな感じはするねえ。


 そして、手持ち花火の時は大活躍さ。手で風をよけながらろうそくに火をつける。不思議とね、ある程度風があっても一度火が付くとなかなか消えなくてね。あんなに揺らぐのに、面白いものだよ。


 あとはね、誕生日のケーキにはろうそくだったね。いまみたいに可愛かったりオシャレだったりするわけではないけれど、年の数だけ立ててね。ろうそくに照らされて、みんなの顔が幸せそうでね。ろうそくの灯りは、ろうそくにともっている間は優しいねぇ。


 さあて。


 あんたの心の中のろうそくの灯は、どんな燃え方をしているのかね?

 いちど灯のついたろうそくはね、灯を消すことはなかなか難しいよ。

 でもね、いつかは。芯が燃え尽きたらくすぶりながらも消えるものさ。


 厄介なのはね、荒れ狂う心の嵐でろうそくが倒れた時だね。

 ろうが横に流れ出して、一気に燃え広がる。そうなると大変だよ、焦がれる、という状態になるからねえ。


 灯を操る自信がないならやめておきなさい。

 焦がれて傷つくのは、あんただよ。


 でも、そんな状態を楽しむのも、また良いかもしれないねぇ。



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