銃は眠る

ロケッチェ

銃は眠る

オレは銃が好きだった。戦場では銃の名手だった。


そして、銃に撃たれて死んだ。



気がつくとオレの意識は一丁の銃に宿っていた。


作られたばかりの量産型の狙撃銃だ。


見えすぎるくらいに見えるし、音も聞こえる。しかし、しゃべれない。


動くことはできた。ほんの一瞬、数ミリほど。


しかも、5秒ごとにしか動けない。これでは意思の疎通など無理だ。


ジタバタしたところで、不良品として処分されると思ったオレは動かずにそのまま出荷されることにした。



やがて、オレは一人の少年兵の元へと届けられる。


少年は十代半ば、ありふれた顔立ちに平凡な才の持ち主だ。


ただし、銃の手入れだけは優れていた。訓練の後、オレはいつもピカピカに磨かれ、最高の性能を発揮できた。


もっとも、少年の銃の腕前はやはり凡庸だ。オレはそれが気にくわなかった。



訓練が始まって数日後。少年は射撃訓練で百発百中、満点の成績を叩き出す。


理由は単純。オレが手伝ったからだ。


撃つ瞬間の数ミリの射角調整は、銃の命中率を跳ね上げた。


教官や軍の上官たちは少年を褒め称える。


オレは銃になっても生前の力量が出せたことに満足し、少年の方は戸惑っていた。


少年は成績の良さは銃のおかげだと話したが、周囲からは謙遜としか思われない。


予定していたよりも早く、少年は戦場へと出兵することが決まる。



そこでようやく、オレは間違いに気づいた。


そもそも、十代の少年が徴兵されている時点で、こちらの旗色が悪すぎるのだ。



少年は銃弾と砲弾が飛び交う塹壕ざんごうの中で陣地の守りにつき、オレを使った。何人もの敵兵を撃ち殺したが、戦況は良くならない。


初陣の夜、少年はオレを抱えたまま、小さくすすり泣いた。


最初は怖いからだと思ったが、違う。少年は敵を殺したことを悔いていたのだ。


殺して当たり前の戦場で、少年はあまりにも善人だった。



戦争は続き、ある日ついにその時が来た。


オレの見えすぎる視覚が、少年へと向かう大口径の銃弾を捉える。


次の瞬間、奇跡か何か知らないが、オレの身体はあり得ない勢いで動き、少年と銃弾の間に割って入った。


銃弾がオレに直撃し、銃身がへし折れて完全に壊れた。少年は塹壕の中に倒れ込む。


オレが最期に見たのは、利き腕を負傷してうめく少年の姿。聞こえたのはようやく来た援軍の声だ。


オレはずっと敵を殺すことが、国を守ることだと思っている。


それは今も変わらない。


ただ、オレは初めて


最高の栄誉だ。


そう思ったところでオレの意識は途切れ、今度こそ二度と目覚めなかった。




程なくして戦争は敗戦という形で終わる。


少年は敗戦国の民として苦難に満ちた生涯を送り、平凡な最期を迎えた。


葬儀の前日。彼の部屋に入った少女が箱に入った妙な物を見つける。


大切にしまわれたそれは、へし折れた銃だった。


葬儀の準備をしていた少女の両親は不思議に思ったが、その遺品は彼の棺に納めることにした。


銃は今も少年だった彼の傍らで眠っている。






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銃は眠る ロケッチェ @rkujibko

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