エピローグ:それぞれの答え

 遥たち面々は、アル=ナジール共和国から帰国し数日たち、JVBLの本部に集まった。


 未だに世界のニュースは、アル=ナジール共和国の事一色に染まっている。

 「アル=ナジール共和国、自由意思統制システムの存在を正式に認める」

 その声明は淡々と、しかしあまりにも冷ややかに読み上げられる。


 システムの内容は詳細を極めていた。

 各国との裏取引、資金流入、精神パラメータ研究のデータ、アル=ナジール国民の購買履歴、行動データ、投票傾向、日々の会話までもが監視ログとして記録、そしてされている。


 そしてAIが「もっとも幸福度が高い」と判断する選択肢を提示(フィードバック)。

 それでも国民が抵抗する場合は、睡眠時の神経刺激や、経済インセンティブの自動調整によって、意識が“望ましい方向”へ誘導される。

 ある意味、個人の決定権は最初から存在しないに等しい。


 だが国民の多くは、それを当然のものとして受け入れていた。

 かつての飢えと貧困に加え内戦も多発。それに比べれば、この「整えられた幸福」は十分に価値がある

 ――そう語る国民インタビューの映像が、次々と流れていく。


 「……意外な展開だな」

 ユウタは、背もたれに寄りかかり、ソファで深いため息をついた。


 美月が腕を組む。「日本も関与してたんでしょ?」


 「ただし公式発表では“独断で動いた一部の団体”扱いだ。団体は解体、議員は更迭。多少、実刑もあったようだ。」

 「混乱を避けるため、報道規制が敷かれており、あまり詳細は、出ていないが……」

 Xが肩をすくめる。


 ――Xは、未だにリアルでも覆面をしている。

――その異様さに、遥は思わず翔太の方に目を移す。


 「いくら国の主導権を握りたいからと言って、そんなことまでする?」

美月が眉を寄せる。


 「でも政府は、メタバース構想に新たな方針を発表した」

 そう言い、XはSNSの記事を共有した。


 「メタバース構築及び構築は“公開方式”で進める。人道的配慮を最優先に、国内外にも透明性を保証する……だそうだ」


 「アメリカじゃ、デモが起きてる」

 アメリカには帰国せず、いったん日本に立ち寄っていたイーグルが低く言った。


 「自由を守れと叫ぶ群衆と、秩序維持を求める集団で2分化して衝突している。

 どっちが正しいかなんて、俺には判らないが……」


 翔太が肩をすくめる。「俺らも呼ばれるかもなぁ?“自由意思担当”とかさ」

 「お前の場合は、“自分勝手担当”だろ」

 ユウタが、速攻でツッコミを入れる。


 ふと、遥がXをじっと見た。

 「ねえ、X。あなたって……」


 「おっと、噂をすればJVBL管理サイトから呼び出しだ!」

 Xはおどけて肩をすくめ、通知をタップして視線を逸らした。


 ◆ ◆ ◆


 ……アル=ナジールが他国に渡したシステム。あれは、サンプルだけじゃない可能性がある。裏で“バックドア”を仕込んでいた形跡がある。それが走れば、アル=ナジールは、他国の国民の自由意思さえも……

 イーグルは、そう言いかけて、口を閉じた。


 ◆ ◆ ◆


 「まあまあ、この前は勝ったんだから、深刻な話はおしまい!」

 翔太が、まるで試合後のヒーローインタビューのように声を張った。


 「俺は、自分勝手意思でピザでも食べたい。Xのおっちゃん、頼もうぜ!」

 遥が笑い、美月が小さくうなずく。


 それぞれは、アル=ナジールのホテルで見た統率されたネオンの夜景を思い出していた。

 ――それは統制の象徴であるはずなのに、誇らしげに輝いているようでもあり、揺らめき危うくも観える。

 

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V.B.L Ⅳ -Virtual Basketball League-|第四部 アル=ナジールの虚構 蒼井 理人 @FebKin

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