第9話
実習当日、結局ソロ活動なヤーサは自分の仕事をさっさと終わらせ帰り道を歩く。
まだ魔物の出現範囲内なので気を抜かないように注意を張り巡らす。
それでもあの時のエルの怯えた表情が忘れられなくて胸がずきずきと痛む。
同時にあの表情に軽いときめきを覚えてしまった自分に嫌悪を感じる。
若干の涙目と身長差から生じる上目使いにあった破壊力は底知れないものがある。
あれが師匠の言ってた『萌え』と言うものなのかなぁ、と独りごちていた時、魔物とそれに襲われている級友の気配を感じた。
最初大丈夫かと思ったがよく調べ気配が魔物多数に対して一人なのを感じ取ってからこれは危ないと急いでその場に向かう。
ソロで活動ができるのなどヤーサは自分の学級では自分を除いて知らない。
そして急いで駆け付けた先にいたのがエルなことに驚愕した。
エルがへたり込んでしまっているのを見てためらわずに刀を抜き蹂躙する。
一掃し終え、魔物たちが光りの粒となって空に消えゆく頃にはエルは気を失っていた。
ヤーサはチェックの魔法を調べるが体に異常はない。
ほっと息をついたが念のため行った魔力視で絶句した。
「魔力が少なすぎる!?」
ヤーサが一番驚いたことはその極端に少ない魔力にもかかわらずチェックの魔法では『正常』と出てしまったことだ。
誰しもが中心よりやや右胸に、心臓と対になるように魔臓という臓器が存在する。
そこで作られる魔力を体中に行き渡らせる事によって人は体を動かすごとができる。
魔力がなければ不随意筋も動くことができず心臓が動くこともない。
最近になってようやく解剖学などの分野が活発になりわかった話なのだが魔臓も血液がなくては活動しないことが判明している。
なので人は胸をやられたら生きることができない。
閑話休題。
ここで問題なのはエルの魔臓が生まれつき弱いことだ。
ヤーサはエルが小さいころからあまり活動的でなかったことを思い出す。
エルは皆が遊んでいるところを羨ましそうに見ていたり、体育では見学が多かったし魔法を使った授業でも大変そうにしていた。
ヤーサが知っていることではないがエルはあまりに魔力が少なくてコントロールする練習もままならず、ついでに魔力操作の才能が全然と言っていいほどなかった。
「そっか、エルちゃん……こんなにもつらい体してたんだね。ごめんね……誘ったりしても辛かったよね……」
ヤーサはエルの魔力を効率よく循環させる。
そうしたことによってエルの息もだいぶ苦しそうではなくなった。
そしてエルをおんぶして学園へ戻ろうとする。
直後爆音とともに森からとても大きな竜が現れた。
Sランク相当の魔物にヤーサは絶句する。
周りにはおこぼれを頂戴したいのか一人であれば何の問題もないような低ランクの魔物もいる。
Sランクの魔物は師匠と一緒に数回狩ったことはあるものの今の状況は師匠がいなくてエルがいるというハンデが大きすぎた。
「……ははっ、この世界はどんだけエルちゃんを嫌ってんだよ」
ヤーサはエルをおぶったまま魔力糸をつかいがっちり固定する。
固定したことで安定感がます。
それでも片手はエルから離さない。
空いたもう片方の手で刀を抜く。
「上等だ、全部ぶっ潰してやるよ」
「……ここは?」
エルは保健室で目を覚ました。
多少ぽーっとしているが体の調子はいつもよりも良く気分がいい。
「あら目を覚ましたのね」
「……はい。すみませんが何があったかを教えてもらってもよろしいでしょうか?」
だんだん状況を把握してきた。
「あらあら。どこまで覚えてる?」
「えっと…………魔物に囲まれるあたりですわ」
「へぇ。実を言うと私たちもよく知らないのよねぇ」
「? どういうことですか?」
「そのねぇ、名前は伏せるけど男の子が貴方を運んできたのよ」
「男の子?」
「えぇ、男の子」
「……だれだろう」
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