第6話
「しつれーしまーす」
ちゃんとノックはしたが返事を待たずにヤーサは突入した。
中は中でばたばたとしている様子が音で分かるがヤーサが気にするわけもない。
中へ入ると天蓋のついたベッドにもこっととしたふくらみがあり潜り切れなかったのか茶色の頭の天辺が出ている。
んー、と少しだけ悩みベッドの上にとりあえずのっかった。
飛び乗った瞬間もこもこがびくっとしたが関係なしにヤーサは頭がはみ出している部分までいく。
そこでヤーサは特に迷うこともなくはみ出している頭をなでる。
「――――っ!?」
驚き飛び上がるエル。
ヤーサはにこにこ笑っている。
「あ、ああ、あ、あなた、ななな何をしているんですの!?」
真っ赤な顔でうまく回らない舌を頑張って動かしヤーサの行動を問い詰める。
「えへへー」
「えへへじゃないですわよ!!」
「元気出た?」
「なんで突然頭を撫でられて元気が出るんですの!? 意味が分かりませんわ!!」
「えー、だってぼくは褒められたりするとき頭を撫でられると嬉しいよ?」
「うっ。いや、でも褒められたりするときって自分で言ってますわよ! 意味が分かりませんわ!」
「なんかねー、さびしそーだったからつい」
「……そんなことありません」
「だいじょうぶ?」
そしてヤーサはエルをぎゅーっと抱きしめた。
「――――」
「こうするとね、なんか元気出るんだよ?」
ほらいーこいーこ、と抱きしめながら頭を撫でる。
若干目が潤みながらもエルは屈してたまるかとばかりに抵抗する。
「元気が出るも何ももともと落ち込んでなんかいませんわ!」
「でも寂しそうだよ?」
「寂しくなんかありませんわ!」
「いつも混ざりたそうにこっちを見てるよ?」
「見てません!」
「一緒に遊ぼうよ」
「結構です! それにそろそろはなしてくださいまし!」
口では嫌と言いながらも抵抗する力は全く入らずヤーサを振りほどくことができない。
ヤーサもヤーサでぎゅーっと抱きしめることをやめない。
エルは風邪をひいているせいかだんだん頭が働かなくなってきた。
「あ、それとね、これ!」
「え……」
ヤーサは必死に探していたであろう綺麗な宝石が着いた片側のピアスをエルに差し出した。
「あのあとやっぱり気になって少しだけ残って探してたら意外とすぐにみつかったんだ」
ヤーサにしては珍しく嘘である。そんなにすぐに見つからずかなり遅くまで探しても見つからず、なんなら次の日の朝早くから再度探し始めて朝日に照らされ煌めいていた所をようやく見つけたのだ。ヤーサには宝石や高いものの価値はわからなかったが、だからこそ早く見つけてあげなくちゃと必死になって探したのだった。
「大事なものだったんでしょ?」
「……ありがとうですの」
体調悪い事と大事な物が見つかったことに心底ほっとしたのかエルの口から素直にお礼がでた。
そのお礼とほっとした顔を見ることが出来て、頑張って探してあげてよかったとヤーサはとても嬉しくなった。
「……これ、母様の大事な形見なんですの」
「そっか、みつかってよかったね」
「感謝しますわ」
滅茶苦茶しおらしくなったエルに対し、調子を崩されどう接していいものか少しだけ悩んだヤーサではあったのだが、せっかく素直な状態なのだしと普段から気になっていたことを聞くことにした。
「なんでエルちゃんは、えっと、偉そうにしようとしてるの?」
「…………母様が貴族らしくありなさいって」
「貴族らしくって何?」
「……わかりませんわ」
「わからないの?」
「……付き合う人を選びなさいとか母様は言ってましたわ」
「ふーん」
「だから私わたくしは平民なんかと遊んだりなんかしません」
「サンちゃんは遊んでるよ」
「あの子は……悪い子なんですの!」
「じゃあおじさんは? さっき平民の僕にこの部屋教えてくれたよ?」
「……父様は………………もうわかんない」
「?」
「頭痛い。なんで……なんで、頑張って母様の最後の言葉を守ろうとしてる事を邪魔するの? 気持ち悪い。なんで皆あれやれこれやれって言うくせにやってる最中にやっぱりやるなだの別の事をやれなんていうの? なんで最後まで一つの事をやらせてくれないの? なんで一つの事しかできないと怒るの? なんでできない私が悪いなんて話になるの? なんで操り人形みたいに頑張ってるのに寄ってたかって私をいじめるの? もうやだよ…………」
エルは支離滅裂ながらもたまっていたものを吐き出すかように心の中をぶちまける。
それをヤーサはただ抱きしめている。
「私……結局なにをすればいいの?」
「う~ん……よくわかんないけどさ、とりあえず」
「……とりあえず?」
「おじさんに思ったまんまの事を訴えてみたらいいと思うよ」
「…………」
「おじさん優しそうだしわかってくれると思うよ!」
エルはこくんと頷いた。
そしてヤーサが離すと同時にぱたんと倒れこんだ。
「エルちゃん!? 大丈夫!? おじさん呼んでくるね!」
大急ぎでおじさんに知らせに行く。
エルとしてはもうちょっと傍にいて欲しかったがもう遅い、深いまどろみの中に落ちていった。
しばらくして、おでこにひんやりとしたタオルと手に温かいものを感じ目を覚ました。
「大丈夫かい?」
手を握ってくれていた父親が優しそうな声でエルに声をかける。
「ええ、だいじょ――」
大丈夫ですわ、と答えようとしてヤーサとの会話を思い出した。
「ん、どうかしたのかい?」
「いえ、その…………あの、父様」
「なんだい?」
「その――――」
ここからの会話は語るものではない。
少女が本心をぶちまけ、父親が反省し、和解した、ただそれだけのよくある話。
2、3日してエルの体調もよくなり学園へ復帰した日の出来事。
「エルちゃん、おはよう!」
「…………おはようですわ」
エルが挨拶を返したことに辺りがざわざわとなる。
「えへへー」
ヤーサはこれ以上ないくらいの満面の笑みを浮かべている。
「その、あの、ありがとうございました」
エルは居心地が悪いのかギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの声でボソッとお礼を言って小走りでさっさと席の方へ行ってしまった。
「どーいたしましてだよ!」
その日からエルの態度は軟化し、運動に混じりはしないもののそれ以外ではクラスに馴染むようになった。
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