第三章 ぶるぶるクッキー がたがたレター

 恋人の特別な日には

 特別な贈り物を渡して

 特別な日を祝いたい。


 恋人を想い、

 恋人のためにつくり、

 恋人に渡して、

 恋人を笑顔にしたい。


 "好きだ"という言葉はまだ出てこないが

 プレゼントを渡すことで

 "好きだ"という言葉の代わりにしたい。


 そんなオレの理想は

 現実で叶うのか?


=====


ユウハ「いつもオマエんちばっかで

    ごめんな!」

ミノリ「オレの家でいいなら

    別にどうってことないよ。」


 オレは中学生の頃から土曜日は

 自分の家でナオトとユウハと

 一緒に遊ぶことが恒例行事になっていた。


ナオト「なあ!これやろうぜ!」

ミノリ「あっ…うん。」


 今週はオレの家にあった

 テレビゲームをすることになった。


ナオト「このゲーム、月に何回してんだ?」

ミノリ「親の使ってたお古だから

    そこまで使ってないよ。」


ナオト「え〜っ!もったいねぇ〜!

    けどっミノリらしくていいや。」


ナオト「オマエ、どのキャラにするんだ?」

ミノリ「え〜っとぉ…」


 ナオトとゲームをしていても

 オレの頭の中はゲームのことでなく

 モモネのことでいっぱいになった。


 モモネってホントかわいいよな…

 早く好きって伝えたいな…

 誕生日とかにできたら最高だな…


ミノリ『そういえばナオト、

    モモネの誕生日って

    いつなんだっけ?』


 オレにとっては告白したい相手に対する

 必要不可欠な情報の収集のための

 モモネについての質問だった。


 オレがモモネのことをまだ

 そこまで想ってないと考えてたナオトは

 常識としてすんなりと

 モモネの誕生日を答えた。


ナオト『急に何だよ?

    モモネの誕生日か?

    明日だよっ知らねえの?』


ミノリ「アッ明日ぁ!?」


  …明日だよっ…


 …その答えに焦りと驚きで

 心臓がドクンと跳ねた。

 思考が止まる。


 そして指がもつれて操作をミスした。


ナオト「うわぁ〜っ!」

ミノリ「あっ…!」


 GAMEOVER…

 の文字が虚しく点滅している画面を見て

 悔しそうにナオトがつぶやく。


ナオト「どっちか落ちたら終わりなのに

    何してんだよミノリぃ」


ミノリ「ごめん…それよりさっえっ!?…

    ホントに!?モモネ明日なの!?」


  モモネの年に一度の特別な日の前日に

  オレはいったい何をしてんだ!


 そう思ってる間に

 ナオトは自分のスマホを手に取り

 モモネのプロフィールの誕生日欄を

 オレに見せた。


ナオト「モモネに会った覚えあんのにか?

    スカセレのサイトにも

    載ってるぜ、ほらぁっ!」


ミノリ「た…確かに…

    そ…そうなんだ…」

ナオト「最初からゲームやりなおすぞっ!」


  モモネとの密な接触や恋心を悟られたら

  卒業式のときみたいに嫉妬されるよな。


  なんでっと怪しまれないように

  モモネへのアクションは

  数回ゲームを繰り返してからにしよう。


  でも…前日にどうすれば…


 モモネへの誕生日サプライズに悩みながら 

 なんとか数回ゲームをクリアさせた。


 ゲームを延長したらモモネに失礼だ。

 けど打ち切るとナオトに失礼か?


 オレはなんとかしようと

 二人に嘘をついた。


ミノリ「やべっ、

    親が帰ってくる時間だ。

    今日はごめんだけど

    帰ってくれねぇかな。」


ふたり「え?もう?」


 誰もが知る国民的美少女の誕生日に驚き

 親が来るだけを理由に帰ってくれ?


  最近のミノリ、ちょっと変だな。

  いつもと違う…でもまあ、

  家族と過ごしたいって言ってんの、

  何か用事があるかもしれねえしな。


ミノリ「う...うん...。」


  そりゃ怪しまれるよな。

  でもナオトには悪いけど、

  今はモモネのことしか頭にないんだ…


ナオト「いつも家族が帰ってきても

    一緒にいさせてくれるのに

    今日はどうしたの?」


  自分で言ってて自分で気づく不自然さ。

  でもなんとか理由付けして…


ミノリ「あっ…いゃ…何でもないけど…

    今日は家族とゆったり

    過ごしたい気分なんだぁ」


 …冗談バレバレだって感じながら

 言ったのにもかかわらず

 二人は受け入れてくれた。


ナオト「へぇ〜…珍しいな!

    いつも家族いても気にしないのに。

    でも、家族仲が良いって

    すごくいいな。」


ユウハ「わかったよ、親孝行か!

    うまくいくといいね!

    また明日な!!」


ミノリ「え!?…あ〜っ…うん。」

  親孝行…じゃなくて…

  モモネ孝行なんだけどな…


 ナオトらが帰って扉がしまってから

 モモネへのクッキーを作ろうと決めた。


 キッチンに立って準備をした。

 料理すること自体は

 どうってことないことだった。


 ナオトとユウハに

 クリスマスケーキを一人で作って

 振る舞ったことだってある。


ミノリ「ケーキも一人で作れたんだ!

    クッキーもきっと大丈夫だ!」


 自信満々でキッチンに立った。

 しかし、ボウルに手を伸ばしたら

 ふとモモネの笑顔が脳裏に浮かんだ。


  モモネ、どんな顔で

  受け取ってくれるかな?


  国民的美少女だし

  他の人からもプレゼント

  もらうんだろうな。


  あの完璧な彼女に

  オレの手作りを渡すなんて

  下手とか失敗だとかまずいとか

  誰かに思われないかな?


 …指が震えた。

 生地をこねるたびに

 緊張がオレの手に伝わってきた。


 大丈夫だと言い聞かせると

 変に力が入ったり変に抜けたりした。


 力が入りすぎる。変な汗が出る。

 手が震える。


  ブル…ブルブル…


ミノリ「国民的美少女のモモネが

    クッキー美味しいって

    笑顔で言って欲しいけど…」


   「…そんなやつつくれるかな…。」


   「焦がしちゃったらどうしよう…」


   「明日渡さないといけないし

    変な失敗しても

    やり直しなんてできない…。」


  ブル…ブルブル…


 でも、これはオレの気持ちの証。

 なんとか頑張らないと。

 そう自分に言い聞かせながら

 クッキーづくりを進めた。


 クッキーを作り終えてから

 ラブレターを添えようとペンを取った。


ミノリ「なんて言葉で伝えれば

    いいんだろう、この気持ち…」


   「"好きです"って言葉だけじゃ、

    足りないしなんだか

    さみしい気がする。」


   「だからと言ってこうでもないし…

    こうでもない…

    一言は決めないと…」


  君のことを一番大切にしたい。

 かっこいい言葉にするか。


  モモネはオレにとって特別な存在です。

 本当の気持ちをありのまま書くか。


 しかし、全部なんか違う。


 書く。違う。消す。

 書く。違う。消す。考え直す。…の

 繰り返しに疲れペンを握る手が震えた。


  ガタ…ガタガタ…


ミノリ「もっと何か、

    伝えたいことがある気が…

    だけどどうしても

    うまく言葉にならない…」


  恋愛という段階までに

  踏み出したことがないオレにとって

  ラブレターを書くことは初めてだった。


ミノリ「でも、

    これがオレの正直な気持ちだって、

    ちゃんと伝わるといいな。」


ミノリ「よっし…これでぇ…

    いいはず…オッケー!」


 困難をのりこえ完成させた

 クッキーとレターを入れたお菓子袋に

 折り目をつけてプレゼントが完成した。


 そしてモモネの誕生日に

 オレは勇気を出してモモネに

 プレゼントを差し出した。


 決意し実行し…


  これで伝わるはずだ。


 …つかの間の達成感を持った。


 だけどなぜか不安が消えなかった。




ミノリ「明後日に待ち合わせしようって

    約束しておいてよかった。

    もともとはモモネと

    雑談するだけだったんだけどな。」


 公園でモモネと待ち合わせをして

 

 ベンチに座って雑談したり

 フタリ並んでブランコしたり

 してても緊張と恥ずかしさのせいで

 頭の中はからっぽ。


 からっぽの頭で精一杯

 自然体でいるために

 色々なことを楽しんだ。

 まるで夢のような時間だった。


 そして不意にモモネが

 オレの荷物に目を向けた。


モモネ「ショルダーバッグの

    横のそれなに?」

ミノリ「モモネ、今日誕生日だろ?」


 プレゼントを差し出した。

 差し出した瞬間のオレの手は

 緊張のあまり震えていた。


モモネ「うん。」

ミノリ「これ、オレからの誕プレ…

    受け取ってくれねえか?」


 おしゃれなお菓子の紙袋に

 "モモネ誕生日おめでとう"の文字が

 書かれているのを見たモモネの眉は

 一瞬ピクリと動いた。


モモネ「これ、何が入ってるの?」

ミノリ「えっ?どうして?

    怪しいのは入ってないけど秘密。」


モモネ「あっ!秘密だよね!」

ミノリ「うん。」


ミノリ「誕生日おめでとう。」

モモネ「ありがとう。」


 誕生日プレゼントだと知ってモモネは

 いつも以上の輝くような笑顔になった。

 オレはすごく爽やかな

 うれしい気持ちになれた。


 しかし…


モモネ「あれっ…あっ…」


   「うっ…うれしいよ。」


   「ありがとね♡」


 今、ちょっと表情が曇った?

 気のせい…じゃないよな?

 何かに違和感を持ったのか?

 不安が胸の中で渦巻く。


ミノリ「…じゃあな。」

モモネ「じゃあね。」


ミノリ「モモネ…

    なんであんなに

    戸惑ってたんだろう?」


 何に違和感を持ったかはわからない。

 何かに困っていそうだとは気づいた。


 誕プレをあげた翌日の月曜日。

 朝に教室に向かおうと廊下を歩いた。


ホノカ「あっ…ミノリ。」


ミノリ「キミってもしかして

    モモネとよく話してる

    ホ…ホノカ?」


ホノカ「うん。中学校が一緒でね、

    それからずっと仲良しなんだぁ…」

ミノリ「何かあったの?」


 廊下の壁側で立ち止まると

 不気味な笑みを浮かばせた。


ホノカ『昨日ワタシの友達の

    モモネにすごいクッキーとレターを

    プレゼントしたんだってねぇ…』


 ホノカの声は終始一貫して

 どこか鋭くて冷たいものだった。


ミノリ「すごいって…どぅ?」

ホノカ「ボロボロの…ね。」


 ホノカのボロボロという言葉を聞いて

 オレはさみしくなった。

ミノリ「ぇっ…ボロボロ…」


ホノカ「なんて?

    モモネがボロボロのなにかを

    もってたから気になって

    聞いてみたらさ…」


ミノリ「なんで…なんで…

    ボロボロなんて

    モモネじゃなくて

    ホノカがわかったの?」


 そう話すとホノカは

 オレのミスを指摘してきた。


ホノカ「そりゃわかるでしょ。

    袋にあった窓部分から

    まる見えだったし。」


   「びっくりするくらい

    ボロボロだった。」


ミノリ「……っ」

 胸がズキンと痛んだ。


  オレ、クッキー作るの、

  頑張ったんだけど…。


  必死にこねて焼いて

  ちゃんと気持ちを込めたのに…


ミノリ「頑張って作ったんだ!

    ボロボロなんて言葉で

    片付けれるものじゃない!」


 …そうオレが答えると

 ホノカはオレに対して

 猛烈に批判してきた。


ホノカ「あ…あれが…

    がんばってつくった?

    国民的美少女へのプレゼント?」

ミノリ「ああ…」


ホノカ「ふっ…

    そんなの冗談でしょ。」

ミノリ「冗談…じゃねぇし…

    ホントに頑張って…」


 そう言ってもホノカは

 口を止めなかった。


ホノカ「ブランドもののアクセとか

    おしゃれな花束とか

    もっと似合うものあるのに…」


   「…高級店のとか

    上手に作られたとかでもない

    ボロボロのクッキーって…」


   「…モモネにそんなのあげて

    恥ずかしくないの?」


   「素敵なものをもらってきたモモネ…

    今どんな気持ちだろうね…」


   「あんなクッキー…悪いけど、

    モモネにはふさわしくないよ。

    あげないで。」


ミノリ「頑張って作ったのに…」


 オレが一生懸命作ったクッキーが、

 そんなふうに言われるなんて…


 モモネに喜んでもらいたかった。

 それだけなのに。


 恋といえる恋を一つもしてこなかった

 弱虫で少し不器用なオレなんかが

 国民的美少女にプレゼント渡すのは

 間違いだったのかな。


 そう思いながらも口にできず

 ホノカの前で黙りこんだ。


ホノカ「それに添えて

    文字がガタガタの

    手紙なんてものまで…」

ミノリ「…。」


ホノカ「あんなのラブレター…

    なんて名前で言えないよ。」

ミノリ「ラブレターって…」


ホノカ「言ってないとしても

    ラブレターなんでしょっ。」

ミノリ「…そうだけど…」


ホノカ「あんなクッキーと手紙を渡して

    ワタシの友達に何する気?」

ミノリ「オレは…」


 そこに偶然モモネが通りかかった。


モモネ「ホノカ?

    何はなしてるの?」


 …ホノカの態度は豹変した。


 声を詰まらせながら明るい声で…


ホノカ「モ…!!モモネ…

    ミノリからもらったでしょ

    昨日に…そのぉ…」


ホノカ「ミノリ手づくりの

    ボロいクッキーと…

    字がガタってなってる手紙…」


ホノカ「あんなのつくんなよっ

    人に渡すなよって…」


 自分の愛する人に綺麗でないものを

 贈り物として出すな。


 オレはそういうホノカの想いを

 完全に受け入れかけていた。


 しかし、

 ホノカの言葉に困惑し

 何のことだろうと感じたモモネは


モモネ「ボロいクッキー…?

    ガタってなってる…?

    記憶にないな。」


   「ミノリが頑張って作ってくれた

    クッキーとレターは

    ものすごく嬉しかったし。」


ホノカ「えっ?」


 こう話を切り出した。


モモネ「ボロボロ?とかガタガタ?

    そんなの関係ないよ。

    ミノリが頑張ってくれたって

    その気持ちが何よりのプレゼントだよ。」


   「作ろうとしてくれた気持ちの跡と

    ミノリからプレゼントをもらった

    という思い出。」


   「それ全てがワタシにとって

    特別な宝物だよ。」


ホノカ「えっ...そうなの?

    プレゼントもらうこと

    沢山あったでしょ?

    それと比べたら…。」


モモネ「ワタシ今まで

    いろんなプレゼントもらったよ。

    可愛いアクセサリーも、

    おしゃれな雑貨も。」


   「でも比べるなんてことしないよ。

    どんなプレゼントも素敵だった。」


   「それに今回のミノリのプレゼントは

    手作りで不完全なところがあって

    こんなに頑張って作ってくれたんだ

    って思えた。」


   「芸能活動始めて

    こんなプレゼント初めてだった。」


   「ありがとね、ミノリ。」


ミノリ「モモネ改めて言わせて。」


   「誕生日おめでとう。」


モモネ「ありがとう。」


ホノカ「えっ!?あっ!?…誕生日!?…」


モモネ「そういえばホノカから

    誕プレもらってなかったかも。

    去年もその前の年も

    用意してくれてたよね。」


   「今年も用意してくれたよね…

    ガタッボロッてなってないの

    作ってくれてるんだよね?」


 それを聞いて驚いたホノカは

ホノカ「…誕生日だからだったの!?

    好きってだけ…じゃなくて!?」


ホノカ「つ…つっ…作ってない…

    ごめん…たっ…たた…

    誕生日なのに…ごめん…」


   「ミノリのガタガタボロボロに

    何も言えなかったりして

    モモネに嫌な気持ちとか無理とか

    してほしくなくって…。」


モモネ「そうだったの?ありがとね。」


 そう言って立ち去って行ったホノカを

 オレがゆっくりと目で追っていたら

 モモネが近くに来て励ましてくれた。


モモネ「ありがとね、ミノリ!

    最高の思い出になったよ♡」

ミノリ「モモネ…♡」


 モモネがオレの気持ちを

 こんなに大切にしてくれた。


  ボロボロでもガタガタでも関係ない…。

  こんな気持ちになったの初めて…。


 …そんな言葉を今まで誰かに

 言ってもらったことあったか?


 オレはモモネにふさわしい男になりたい。

 もっと自信を持って、

 彼女にちゃんと想いを伝えられるように。

 オレはその日改めて思った。


第三章完結____

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