第2話
「みんな、気を引き締めていこう。行くぞ!」
勇也の掛け声と共に私達は魔物の住む洞窟へと飛び込んだ。
じめっとした空気が全身を包む。洞窟の中は外と比べて気温がぐっと低い。私達は慎重に洞窟内を進む。
先頭を勇也、その後ろを私とリンが並んで歩き、さらに後ろにララが続く。上から見たらひし形の陣形だ。
ギルドで受注したクエストは魔物の討伐。この魔物は最近この洞窟に住み着き、冒険者を襲ったり、周囲の自然環境を破壊したりしているらしい。危険度はAランクだが、私達なら大丈夫だ。
「グオオォォォオオオオ!!!」
突如、魔物の怒号が響く。私たちの存在に気付いたらしい。魔物との距離は遠い。遠距離攻撃ができる私とリンは戦闘態勢に入った。
先に仕掛けたのはリン。得意の弓を連射した。それに続いて私が魔法で炎の玉を放つ。
しかし、魔物は飛び上がり攻撃をかわした。
(くっ、思ったより素早い・・・!?)
魔物は一気に距離を詰めて私たちの前に現れる。熊とゴリラを掛け合わせたような奇妙な姿。体長は3メートルくらいだ。
魔物は先頭の勇也を狙って右腕を振り下ろす。勇也は魔物より早く剣を振り上げ魔物の右腕を切断した。
「ギャオオオオオ!!!」
魔物は切断された痛みに叫び声をあげる。
痛みに怯んだ隙を見逃すわけにはいかない。私は再び炎の玉を魔物に放つ。今度はバッチリ直撃。魔物は後ろに倒れた。
勇也が魔物に飛び乗り、魔物の喉に剣を突き刺しとどめを刺さす。
討伐完了―――。
「みなさん、ケガはないですか?」
ララが心配そうに尋ねる。
「俺は大丈夫だ。リンとマリは?」
勇也は私とリンの状態を確認する。
「私は大丈夫!」
リンは元気に答える。
「私も」
体に異常はないと答える。みんなが無事でよかった。ララも安心したように微笑む。
「図体大きいくせに素早かったね~。私の矢を避けるなんて~!」
リンが悔しそうに言う。
「まぁまぁ、勝ったんだからいいじゃねぇか」
勇也がなだめるように笑う。
「勇也のおかげだよ!ありがとうね」
リンは無邪気に笑顔を見せた。
私は二人のやり取りを見ながら、良いパーティだなと改めて思った。戦闘時はお互いが状況によって役割をこなし、通常時はこうして和やかに笑いあえる。
このパーティを壊したくない。
私はチラリとララを見る。ララもリンと勇也を見て微笑んでいる。
(可愛い・・・)
心の箱にしまった気持ちが溢れそうになる。それはダメだと、箱の蓋をぐっと押さえつける。
ふと、ララの背後に動く影が見えた。
影はララに向かって伸びる。
魔物だ―――!!
とっさにララを突き飛ばす。
ブシュッ!!っと血が噴き出す。
血は私のだ。ララはギリギリ回避できた。
「マリさん!!!」
ララが叫ぶ。
「クソっもう一匹いやがったのか!?」
同時に勇也が魔物に切りかかる。魔物はその衝撃で吹き飛んだ。さっき倒した魔物よりずっと小さい魔物だ。おそらく、あの魔物の子供だろう。
勇也とリンが子供の魔物を素早く退治する。
「マリさんっ・・・ごめんなさい、私のせいで」
ララが私に治癒の魔法をかけながら言う。今にも泣きそうな声だ。
「ララは何も悪くないよ。それに、ララの治癒魔法があればどんなケガだってへーきへーき!」
私はララを励ます。私び左肩は魔物の爪でザックリとえぐられていた。完治には少し時間がかかるだろう。酷く痛むが、ララの悲しそうな顔を見るほうが心が痛い。
勇也とリンはまだ他に魔物がいないか周囲の安全確認をしている。
「マリさんは優しすぎます」
「私からしたらララのほうが優しすぎるよ。それに仲間なんだから助け合うのは当たり前でしょ」
「仲間・・・そうですね。ありがとうございます。本当に」
何かを噛みしめるように”仲間”という言葉を呟いた後、お礼を言われた。多分、魔物から助けたことへのお礼と、励ましへのお礼だろう。
話をしているうちに血はすっかり止まっていた。凄い。予想より回復が早い。ララの治癒魔法は優秀だ。
「出血が多かったので、今日は栄養のある食事をたくさん食べてくださいね。私、腕によりをかけて作ります!」
「うん、楽しみにしてるね」
ララは料理の腕も優秀で、お店で食べる料理と遜色ない美味しさなのだ。食材の在庫はあったかな?クエスト報酬でお金が入るから新鮮な食材を仕入れなくては。
料理の事に考えを巡らせていたら、体を何かに包まれた。
(え?)
私はララに抱きしめられていた。
「!?」
突然のことで頭が真っ白になる。なに?なんのなに?!
混乱している私にはお構いなしでララは抱きしめる腕に更に力を入れる。
「よかった・・・マリさんが無事で・・・」
ララは独り言のように言った。
自身を庇ったせいで仲間が傷ついたことがよほどショックだったのだろう。抱きしめられていると色々と意識してしまって落ち着かないが、今はララの気が済むまでされるままにしておこう。
・・・・。
長くない?
「あの・・・ララ?」
そろそろ本気で心臓が持たないので離れて欲しい。てか、このドキドキがララに聞こえていたらどうしよう。
ララはゆっくりと抱きしめていた腕をほどく。ララの顔を見たが表情はうまく読み取れない。
あまり見つめていると私のほうが心を見透かされそうだったので視線を外す。
「周りにもう魔物はいないみたいだ。マリは大丈夫か?」
勇也とリンが見回りから帰ってきた。
「うん、ララのおかげで全然平気」
私は左腕でガッツポーズをして見せた。
「おおっ、流石ララの治癒魔法はすげぇな!」
「よかった~マリが無事で」
リンが私に駆け寄る。
「よし、町に戻ってギルドに報告しに行くか」
勇也がそう言って洞窟の出口へ向かう。私たちもそれについて行く。
勇也の隣をララが歩く。その後ろを私とリンが並んで歩く。時折、勇也とララが談笑している。勇也を見るララの表情は楽しそうだ。いつもと変わらない。
ただのハグ。仲間同士の抱擁。深い意味なんてない。
そう、私たちは大切な仲間同士なのだ。
純粋な友情に私の邪な気持ちは邪魔だ。
私は改めて自分の気持ちを押し殺したのだった―――。
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