第3話
「えーと、干し肉とジャガイモと、あと調味料も」
「マリさん、ポーションも何本か買っておきましょうか?」
買い物メモを見ながら商品を物色している私にララが尋ねる。
私とララは今、旅に必要な物を買い出しに来ている。買い出し係はジャンケンで決めるのが私達のパーティのルールで、私とララが買い出し係に決まったのだった。
ジャンケンの弱い私が買い出し係になることはよくあったが、ララが負けたのは珍しい。なので私とララ、二人だけで買い出しに出かけるのは初めての事だった。
「そうだね。ポーションはかさばらないように小さい容器のやつがいいかも」
「では、こっちのがいいですね」
ララは商品棚から小さいビンを取り出して、私が持っている籠に入れた。
「うん。買う物はこんなもんかな。じゃ、会計してくるね」
「はい、お願いします」
買い物に来た店は大きい店舗で色々な物を売っている。小さい町で買い出しする場合は、肉は肉屋、野菜は八百屋、雑貨は雑貨屋へとそれぞれの店へ行かなければならないから大変であるが、今いる町ではこういった何でもそろっている店があるので買い出しをするのは楽である。
「お待たせ。じゃ、宿に帰ろっか」
会計を済ませた私はララに言う。
「あ、買い物袋、私も持ちます」
ララは私が持っている二つの買い物袋のうち一つに手を伸ばす。
私は特に手伝ってもらわなくても大丈夫ではあるが、気を遣わせるのも悪いので半分を持ってもらうことにした。
「買い出し早く終わっちゃいましたね。マリさんが良ければですけど、もう少し町を散策していきませんか?」
ララは意外な提案をした。
もし一緒に買い出しに来た相手が勇也やリンだったら、さっさと帰って宿でゆっくりしよう、と言うのが想像できる。しかしララは違うらしい。
この町に興味でもあるのだろうか。
「すみません、長旅で疲れてますよね。やっぱりいいです」
「ううん、全然大丈夫。行こう!」
諦めかけたララの言葉に、私は食い気味に返事をする。
ララの表情が明るく輝いた。
町の大通りには様々な商店が並んでいた。屋台や露店も豊富で見ているだけで購買欲が刺激される。
もしかしたら、ララは何か欲しい物があったのかもしれない。だが、ララの足取りは目的のモノを探すというより、町や店の雰囲気を楽しんで眺めているという感じだった。
そんなララの様子に私も楽しくなる。ララと二人きりでいるという状況だけで楽しいのは勿論だが、キラキラした瞳で無邪気に振る舞うララを見ていると自然と笑顔になる。
「あっ、マリさん、アレ!」
ララが何かを見つけて私の手を引いた。ララに導かれるままについて行く。
そこには大道芸人がいてパフォーマンスを披露していた。
「すごいですね!」
子供のように興奮したララが言う。
「う、うん」
しかし私はうまく返事ができなかった。
(―――手が・・・)
私の手はララの手にしっかりと握られていた。
細くてすらっとした長い指。なのに柔らかくて暖かい。
(やばい、意識しちゃう)
普段、ララへの恋心は心の奥にしまって出てこないようにしているが、こんな風に急に身体的接触をされたらたまらない。
ドキドキとうるさい心音が手を伝ってララに伝わってしまわないか不安になる。
パチパチと拍手の音が周囲の人々から上がる。大道芸人のパフォーマンスが終わったようだ。正直それどころじゃなくてあまり見ていなかった。
ララの手はまだ繋がれたままだ。
「すっかり、見入っちゃいましたね!そろそろ帰りましょうか」
気が付くと太陽は夕日に変わろうとしていた。時間の流れは速い。
宿へ向かって道を進む。
流石にもう手は離されていた。なんとなく手のやり場に困って買い物袋を両手で抱えるように抱きしめた。
「楽しかったですね、デート」
宿の前に着くとララが私に振り向き言った。
(へ?)
ララはニコッと笑って宿の中に消えていく。
呆然として立ち尽くした私に思考が追い付いたのはしばらく経ってから。
(デート・・・!?)
デートの意味を頭の中でぐるぐると考える。
(それってつまり・・・いやいや、ただの冗談か)
ララってそういう冗談いうタイプなのか?
それともララの中では二人で出かけることは全てデートという認識で特別な意味はないのかもしれない。
答え出ない考えを繰り返し、その日の夜は一睡もできなかった―――。
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