メインヒロインに恋してる

みずあそう

第1話

 私は恋をしている。

 決して叶わぬ恋を―――。


 私が所属しているのは、異世界転生者・勇也(ゆうや)をリーダーとした四人組の勇者パーティである。

 勇也は現代と呼ばれる異世界から勇者として転生してきたらしい。現代はこの世界よりずっと進歩していて凄い世界らしい。勇也はその世界の知識や転生するときに神様に与えてもらった能力でいつも私たちの冒険を助けてくれている。

 勇也以外のメンバーは全員女だ。私、魔法使いのマリ。弓使いのリン。そして回復師のララ。

 勇也が転生したときにこの世界で最初に出会ったのがララだった。ララが魔物に襲われそうなところに勇也が登場し物凄い力で魔物をねじ伏せた。それ以来二人で旅していたらしい。

 勇者と美少女。運命の出会い。冒険を経て愛を育む。物語の定番だ。直接聞いたわけではないが、きっと二人はお互いに好き合っているだろう。

 そんな二人に私とリンが出会ったのは冒険者ギルドだった。私とリンは元から知り合いで、どこかのパーティに加わりたいと思っていたところ、冒険者ギルドを訪れていた勇也が私たちを誘ってくれたのだ。

 ララと初めて会ったときの事を今でも思い出す―――。


 薄い金色に輝く長い髪。蒼く深い瞳。慈愛に満ちた優しい微笑み。私は一瞬、息ができなかった。こんなに綺麗な人がこの世にいるのか。

「はじめまして、ララと言います。これから一緒のパーティで、よろしくお願いします」

 差し出されたララの手に、私なんかが触れていいのかと迷った。しかし握手を無視するのは失礼極まりない。私は動揺が伝わらないように努めて普通に握手をした。

 触れた手に心臓が跳ねる。16年生きてきて他人に対してこんな風になるのは初めてだった。


 それが恋だと気づくのに時間はかからなかった。初恋で一目惚れ。しかも同性で・・・ライバルは勇者。

 なんて勝ち目のない恋をしてしまったのだろう。


「どうかしましたか?マリさん」

 考えに耽っていた私を心配したララが声をかけた。

「ううん、なんでもない!ちょっと眠たかっただけ!」

 今、私たちは焚火を囲み、まだ寝るには早いので各々自由に過ごしている。辺りはすっかり暗くなっていた。

「眠いならもう眠ったらどうだ?明日も結構歩くから体力回復しておいたほうがいいぜ?」

 勇也も心配して言った。

 私達は現在、魔物を討伐するクエストを受注しており、魔物の住む洞窟へ向かう道中である。洞窟までは明日一日がかりで歩くことになるだろう。勇也の言う通り早めに寝て体力を回復しておいたほうがいいかもしれない。

「マリが寝るなら私も寝ようかな」

 武器の整備をしていたリンが言う。

 もしかしたら勇也とララが二人きりになれるように気を使ったのかもしてない。リンはそういう事によく気が回る。


 焚火から少し離れたところに私とリンは並んで横になった。

「あの二人、お似合いだよね」

 リンがひそひそと呟く。二人というのはもちろん勇也とララのことだ。私は心臓のあたりがチクリとしたが気づかれないように笑顔で返す。

「そうだね。きっと将来、魔王を倒したら結婚するんじゃない?」

「いいな~私もそんな相手欲しい~」

 リンが乙女な顔をする。リンは私より2つ年下の14歳。恋愛話は大好物だ。

「マリは好きな人とかいないの?」

 その言葉に目が泳ぎそうになったが、ぐっと耐えた。

「いるわけないじゃん」

 嘘。

 本当の事なんて言えない。パーティ内で恋愛のいざこざなんてご法度だ。それに叶いもしない恋の話をしてリンに気を使わせたくない。

「さ、もう寝よう。おやすみリン」

「おやすみ~」


 この恋は叶わない。

 だから隠し通す。

 大丈夫。誰にも気づかれない。

 小さく燃えるララへの気持ちを心の中の箱にしまった―――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る