第10話 イフリートVS冒険者達 三
「氷嵐の力よ 悪しき炎を退ける盾となれ」
歌うような女の声が聞こえた。
強い魔力の気配を感じると同時に、嫌な予感に襲われる。
『まさか!?』
予感が当たる。
イケメンの前に一瞬で巨大な氷の盾が現れ、俺の炎はそれに激突した。
「ほんと、サポートする身にもなってよね」
「最高だぜカミラ!!」
爆発するように吹き荒れた水蒸気が一気に辺りを包み込み、仕留め損ねたイケメンの影が上空へと飛び上がる。
『くそっ、まだだ!』
腹の中の炎は使い切ったが、手はまだある!
―― 砲撃の重低音が轟いた。
『このタイミングでっ』
硬質の破砕音が鳴り響く。
砕け散る氷の盾の向こうから襲い来る砲弾を、右の翼で弾き飛ばす。
溶け残った氷の盾に当たった事で砲弾の威力は減少していたが、俺の翼もさっきの一発に炎を集中させたせいで薄くなっていた。
――
ったく、つくづくこいつらは
行動の一つ一つが的確に俺の邪魔をして、それらが重なり合って俺を追い詰めてくる。
「ニグアナ流魔法剣」
右の翼が火の粉となって崩れていく。
砲弾を弾き飛ばす時に巻き起こった風が水蒸気の煙幕を散らし、右腕の砲口の先を俺に向ける大男と、妖艶な笑みを浮かべて杖を構える女の姿が見える。
そして俺の頭上。
夜空の中に、強烈な魔力の洸を放つ剣を振り被る、イケメンの姿があった。
その顔からは
俺を睨む鋭い黒目は猛々しい殺気を孕み、その全身からはビリビリするような必殺の気迫が感じられる。
――
「氷魔降雷剣!!」
膨大な凍気が形作る刃が、雷のような速度で襲ってくる。
『
俺の奥の手!
舌で放つ
「く!?」
「このっ、消えろ化け物!!」
『灰になれ腐れ外道!!』
前と同じせめぎ合いの状態だが、今は状況が不味過ぎる。
イケメンが独り突っ走ったさっきと違い、仲間との連携が取れている。
つまり、
『この!』
「くっ」
受身を取ったイケメンと入れ替わるように、凍気と炎の吹き荒れる中を突っ切って現れた、両手に大斧を握る大男が襲い掛かってきた。
「ごす!」
生身の部分も金属の部分もボロボロだが、更に体を焼かれようとも俺の中のカナンをその大斧で叩き斬ってやるという気迫が伝わってくる。
「ごっす!!」
『この体の最大の利点を教えてやる』
大鷲の足型となった右足で、大男の右手首を掴む。
「ごっ!?」
『ただの炎と違って、俺は物に触る事ができる』
〈毛むくじゃら〉や〈でかいの〉を食って得た、怪物達の
『だからこういう事もできるんだぜ』
灼熱を纏った俺の右足を、大男の右腕へ打ち下ろした。
超熱と超圧が改造人間の腕を溶かし、潰し、ぶっ壊す。
「ぐああああああ!?」
『お前の右腕はヤバかった。こいつが一番カナンを殺す可能性があった』
地面に入った
「こうなったら奥義を使う! ノミエっ! 精霊を召喚しろ!!」
「は、はい!」
イケメンが怒声を上げ、それに応えた神官が両手に持つ杖を空に掲げた。
「喜べ化け物。我がニグアナ流魔法剣の最強を見せてやる。その
『くく、あ――っはっはっは』
決め顔で宣ったイケメンに、その滑稽さに、俺は我慢の限界を迎えてしまった。
「ふっ、俺が奥義を使う前に勝手に壊れでもしたのか? 所詮は下民の使う魔法だな」
『くくく。なあ、何で俺がお前らと地上でちまちま戦ってたか、不思議に思わなかったのか?』
「どういう意味だ?」
ばさりと、再生させた左右の翼を広げて見せる。
『見ての通り俺は鳥の姿をしている。だから、
戦いの始まりでカナンとは合流し、俺の中に回収できたしな。
「そ、それはボニートさんの砲撃を警戒したからでは?」
青褪めた顔の神官が問い掛けてきた。
その視線は俺の足元を見ており、言葉とは逆に、彼女はもう気付いたのだとわかる。
『それについては誤算だったぜ。ああ、潰す事ができて本当に良かったよ。お前らと一緒に落ちるなんて願い下げだからな』
「ま、まさかお前!」
『この草原の下はな、大蜥蜴とかでかい蟲とかが、もうそこら中に穴を掘って巣を作っていたんだ。スポンジ状態と言ったら理解できるか?』
俺はイケメン達と戦う傍らで、左足の下から炎を幾つも伸ばして穴の中へ走らせ、住民達を片っ端から食らい、燃料へと変えていった。
『この地面の下は今、俺の炎で満ちている。火薬の詰まった革袋状態で、俺が少し念じるだけで〈ドッカ――ン〉って寸法だ』
―― とある皇帝曰く、盤面はひっくり返せ。
「や、やめろ――――――――!!」
『お断りだ』
発破!!
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