第21話宿場町
早朝。
僕は城の下男の格好をして、宿直部屋を出た。
僕は髪が水色だから目立つ。だからボロ頭巾を目深に被って、目立たないように背中を丸めた。
クロウも似たような格好だ。どこからどう見ても子爵には見えない。
むしろこっちの格好の方が、本来の彼の服装にも見えた。
僕らは城の裏口から出て、街を早足で歩く。
しばらく歩くと、一件の民家の裏手に幌馬車があった。
荷台に僕とクロウが乗り込む。
男が二人、一人は御者として前に座っていた。
「行くぞ」
クロウの声で馬が幌馬車を引き出す。
僕ら四人は一路、ペロー領に向かって走り始めた。
ペロー領は王都から馬車で二日の距離にあるそうだ。
そのため街道の宿場町で一日休む必要があった。
宿場町の宿の一つに幌馬車を寄せる。
すでに時刻は夕方だった。
男が馬車から降りていき、宿屋に入っていった。
しばらくして男が出てくる。
「クロウさん、部屋取れました」
「おう。じゃあ休憩だ」
クロウに背中を押され、僕も幌馬車から降りる。
ずっと馬車の中で揺られていたから、今もグラグラ地面が揺れている気がする。
お尻も痛いし、背中も痛い。
屈伸をしていれば、クロウがカラカラと笑った。
「若いのにもうくたばってんのか。軟弱だな」
「乗り慣れてないんだよ。こんなに長距離移動するのも初めてだ」
「そりゃそうか。王都に居れば、王都から出ることはないもんな」
だいたいのことは王都内で済んでしまう。
王都の外に出る用事なんて、それこそ商人でもなければ無いに決まっている。
「そうだよ。他の領地に行くのも初めてなんだ」
「そうかそうか。そりゃ貴重な体験をしているな」
軽い口調でクロウは僕の背中を叩く。
確かに見慣れない風景や宿場町は興味深い。
だいたいどの町にも魔石の販売所はあるという。そういう販売所に立ち寄って、どんな魔石が並んでいるか確かめてみるのも面白いかも知れない。
魔石とは名ばかりの半貴石が並んでるかも知れないが。
「そうだ、クロウ。町を散策しても問題ないか? 魔石の販売所を見てみたい」
「やめてくれと言いたいところだが、まあまだ平気だろ。護衛をつけるから、そいつと一緒にな」
クロウが御者に声をかけた。
「ドッジ、ついて行ってやれ」
「分かりました」
ドッジと呼ばれたのは、五十代くらいの壮年の男だった。日焼けしていて、口ひげ豊かな痩身の男だった。
「よろしくお願いしますドッジさん」
「あぁ。だが、あんまり時間はねぇぞ。日が暮れたら宿に戻る。いいな」
「分かりました」
僕は早速魔石の販売所を探した。
この宿場町は、ペロー採掘所と王都を繋ぐ街道に位置している。おおよそ中間地点にあるとのことで、そこそこ大きな宿場町だった。
そのお陰か、魔石の販売所はそう時間をかけず見つけられた。大通りに面した場所に、お守り石として魔石が並んでいるのが見えたのだ。
僕とドッジはその販売所に入る。
販売所には魔石が所狭しと並んでいた。
さすがペロー採掘場が近いだけある。風属性の魔石がそのほとんどだった。
僕はしゃがみ込み、品質の良さそうな魔石を見ていく。
小型拡大鏡を持って、魔石を眺めていく僕を、店主が物珍しそうに見ていた。
鑑定にボロ頭巾は邪魔だな。僕は頭巾を外した。
「あんた、魔石鑑定士かね」
「あぁ、そんなところだ」
魔石を見ながら言う。
「魔石の買い付けなら、この店じゃなくてペローの方がいいだろうに。変わった人だね」
「たまたまこの宿場町に寄ったんだ。ここの魔石はほとんどがペロー産?」
「そうさね。時々別のものが混じるけど、だいたいペロー産だね」
「この店で一番珍しい魔石は?」
「冷やかしならよそでやってくれ」
つれない店主の言葉に、僕は苦笑する。確かに見せて貰ったところで買えはしない。
その時、僕らの他に男の客がやって来た。
「店主、魔石の買い取りしてくれ」
「はいよ。そこの棚に魔石を置いておくれ」
ここは魔石の買い取りもしているのか。鉱夫が小遣い稼ぎで持ってくるんだろうか。
そんな興味が湧いて、男を眺める。男は革袋に入った魔石を棚に置いた。
その男を見て、僕は既視感に眉をひそめた。
どこかで見たことがあるぞ、この男。
男が僕の視線に気づいたようで、こちらを見た。僕が見ていたものだから、怪訝そうな顔をしていた。
そして何か気づいたようにハッとした顔になり、そっと僕から視線を逸らした。
「おい、そろそろ帰るぞ。日が暮れる」
ドッジが僕の肩を叩いた。もうそんな時間か。
僕は立ち上がり、魔石販売所を後にした。
「面白いもんはあったか」
「想定とおりでしたよ。ペロー産の魔石ばかり。でもちゃんとした魔石が並んでたかな」
魔石とは名ばかりの綺麗な石は、売っていなかった。さすがに採掘所に近いだけはある。
ぼんやりと歩いていると、ドッジの腕が僕の腕に当たった。
彼は僕の後ろではなく、横に立つ。ディノスは必ず後ろに立つから、違和感がどうしてもあった。
こんなところでディノスを思い出すなんてな。もう日常風景に、彼は溶け込んでいるんだ。
こうして街を歩いた日を思い出す。
そういえば、襲撃にあったのもこんな風に大通りを歩いて居た時だったな。
そこまで思い出して、僕は「あっ!」と大声を上げた。
「どうしたんだ」
ドッジがビックリしたように僕を見た。
僕はドッジの腕を掴んだ。
「さっきの男、どこかで見た顔だと思ったんだ。僕を襲撃した男の一人だ」
「なんだって?」
どうして見せで思い出さなかったのか。
僕は歯がみした。あの男の正体を突き止めれば、何かしらの事実が分かったかも知れないのに。
「とにかくクロウさんに報告しよう」
僕とドッジは急ぎ足で宿に戻ったのだった。
□ □ □
僕は宿の宿泊部屋でぼんやりとしていた。
部屋には護衛のドッジも居る。
クロウに襲撃犯のことを告げたところ、僕は念のため留守番となったのだ。
その僕に合わせてドッジも一緒に残ることになった。
ちなみにクロウたちは今、夕飯を食べに行っている。
そこの食堂で僕の夕飯を貰って帰って来てくれるそうなので、僕たちの夕飯はしばらくお預けだ。
おかげでグゥ、グゥと腹が鳴っている。
ドッジも暇そうで、沢山あくびをしていた。
「ちょっと小便行ってくる」
「わかった」
トイレは部屋にない。宿の外の掘っ立て小屋がトイレとして機能していた。
だから用を足す場合は、外に出ないといけない。
ドッジが部屋の鍵を開けて出て行く。
その後を追いかけて、僕は扉を施錠した。
僕はベッドに腰掛ける。
腹の虫の気を紛らわそうと、僕は首に掛かっていたチェーンを引っ張り出した。
指輪が二本ぶら下がっている。
ディノスから預かった大切な指輪を摘まみ、目を細めて眺める。
鉱物由来の魔石だ。産地は恐らくエリアート地方。エリアート地方は火属性の魔石で有名だった。
研磨の技術も美しく、等級が三等級でも、魔石としてこれ以上ない輝きを見せていた。
こんな大切なものを僕に預けるなんて、どこまで心配性なんだ。
僕は指輪を服の下にしまい込む。
自然と口元が緩んでいた。
これだけディノスに心配してもらえることが、彼の特別な存在だと言っているようで嬉しかったのだ。
その時部屋の扉がノックされた。
ドッジだろう。僕はベッドから立ち上がり、扉のノブに手をかけた。
早くと言わんばかりにノックが続く。
そこで気づく。
あれ、少し早くないか。トイレは外にあるんだぞ。
僕の疑問に答えるかのように、扉が激しく軋んだ。
あっという間だった。
ドアが蹴り破られ、男達が二人僕に襲いかかってきたのは。
僕は抵抗らしい抵抗も出来ず、口元に布きれを押し込まれる。
強く香る甘い匂い。
あまりにも強烈なそれに、僕の意識が吹っ飛んだのだった。
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