第2話
ベットに入って目をつぶるが眠れない。頭の中で考えがぐるぐると回って止まらない。【契約】【魔力供給奴隷】【相手を選ぶ】【逃げても契約しなくても殺される】
のんびりと平和に暮らしていたいだけたのに何故こんなことになってしまったのか。魔力が強く生まれてしまったらしい自分を憎らしく思う。
寝つけずに寝返りを打とうとしたとき上から声が降ってきた。
「さっきは怖がらせてごめんなさいね」
驚いて目を開けると、目の前にレリィの顔があった。とっさに体を起こそうとするが身動きが取れない。レリィが体の上にまたがっているのだ。
マイの顔の横に片手をついて見下ろしている。もう片方の手をマイの頬にそっと触れる。
「よく見ると案外かわいい顔してるわね、貴方」
「な、なにしてるんですか!?帰ったんじゃ・・・?」
「謝りに来たのよ。あのままじゃ、私がただの怖い魔族だと思われてしまうでしょ?」
「この状況も怖いです!!」
頬に触れているレリィの手が頭へ移動し、マイを落ち着かせるよう優しく撫でる。
「安心して。何もしないわ。ただ、教えてあげようと思って。私と契約したらどれだけ良い思いができるかを」
「い・・・良い思い・・・?」
レリィの唇が耳元へ近づき、いまにも触れそうな距離で囁く。
「貴方が望む、 ”気持ち良いこと” いっぱいシてあげる」
耳がこそばゆいはずなのに、背中がゾワゾワして思わず目をつぶる。具体的なことを言われなくたって分かる。
マイ・リバービレッジ、17才。正直、そういった経験はないがある程度の知識はある。そういう事に興味がないわけではないが、好きでもない相手、ましてや魔族とそういうことはしたくない。
「嫌・・・・です。そういうの結構・・・です」
この雰囲気に流されまいと、なんとか抵抗の言葉を吐いた。するとレリィは意外だわ、という風に一瞬目を見開いた。
「ふぅん・・・。たとえ女でも私の魅力には皆簡単に落ちるのに」
確かにレリィは顔が良い。体つきも女性らしくて、良い匂いもする。彼女に迫られたらたいていの人間は魅了されてしまうかもしれない。私だって必死に抗っているのだ。だから早く体の上からどいて欲しい。
なのにレリィは諦めるものかという感じで私を見つめている。頭の上にあった手をマイのお腹、おへその下あたりに置いた。
レリィの手から温かさがじんわり伝わってくる。なんともいえない優しい手つきのせいで変な気持ちになりそうだ。やばいかも。誰か助けて。
「レリィちゃんのえっち~!」
寝室のドアを勢いよく開けて桃色の髪の少女が現れる。ピンカだ。その後ろにはトライとフラァもいる。
「抜け駆けなんてずるいよ〜!ほら離れて離れて~」
「あら、貴方たちもいたの」
ピンカがレリィをベッドから引っ張り下ろす。助かった。
「抜け駆けも何も、これは勝負よ。早い者勝ちだわ。
悔しかったら貴方たちもやればいいじゃない」
「体を使った誘惑など、下品なこと考えるのはお前だけだ」
「なんですって!?」
「まあまあ、トライちゃんもレリィちゃんも喧嘩しないの~」
ふたりの喧嘩をいさめながらピンカがベッドに腰を下ろす。ひとり用の小さいベッドなので隣に座られると自然と腕がぶつかりそうになってしまう。反射的にピンカと反対方向に体を寄せる。すると、空間が開いたことをいいことにピンカはベッドに横になる。
「私も一緒に寝ちゃお~と」
しまった。相手の思う壺だった。
「大丈夫、大丈夫〜。私はレリィちゃんと違って健全だから〜!ほら、ぐっすり眠れるようにぎゅ~ってしてあげる~」
「いや、いいです・・・」
「ちょっとピンカ、なに漁夫の利を得ようとしてるのよ!」
「油断も隙も無いな」
「ピンカ・・・も・・・ずるい・・・」
ピンカの行動にレリィ、トライ、フラァが次々ツッコミをいれる。もうなんだこれ。魔族少女たちのやり取りを見ているうちに不思議と魔族に対する恐怖心が薄らいでいく。
明日も朝早くから畑仕事をしなければならないのだ。いい加減に寝ないと。
「わかりました。もういっそ、みんなで寝ましょう。」
思い切って提案する。自分で思ったよりも呆れた声色がでてしまった。その提案に魔族少女4人は顔を見合わせた後マイに注目する。沈黙は了承ということだろう。
マイたちは両親の寝室へ移動した。両親が亡くなってからも毎日欠かさず掃除していたので、きれいに片付いている。両親が使っていたベッドは二人用だが少し余裕をもって大きめなのでぎゅっと詰めれば全員が横になれる。
やれやれやっと落ち着いた。右端からレリィ、マイ、ピンカ、フラァ、トライと並んでいる。ピンカはマイに抱きついて、レリィは胸を押し付けてくる状態であるが、我慢しよう。疲れからかどっと眠気がやってきた。
両親のベッドで寝ているせいか瞼を閉じると二人の姿が映った。家族がいたころの幸せな時間。そういえば誰かと一緒に寝るなんて両親以外初めてだ。きゅっと胸が苦しくなる。
この感情は何だろう。もしかして寂しかったのだろうか。両親が亡くなって一人で生きてきた。そんな暮らしにも慣れてのんびり自由に暮らしてた。でも本当は今でも寂しい・・・。
自然と一筋の涙が頬を伝っていた。涙を拭おうと思ったら、自分のではない手が先に頬に触れた。レリィの手だった。起きていたのか。
レリィは何も言わず涙を指で拭って、素知らぬ顔で再び眠る。
赤の他人だし、魔族だし、契約しろと言ってくる迷惑な少女。だけれどそんなに悪い魔族でもないのかもしれない。
今後どうするべきかはまだわからないが。この魔族たちとちゃんと向き合っていこう。
そう思いながら、眠りに落ちた―――。
つづく。
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