マイと四人の魔族少女

みずあそう

第1話

 朝。

 心地の良いそよ風に木々が揺れる。


 今日やるべきことは、まず水汲み。畑に水をやって、野菜たちの様子を見る。それから、草むしりや肥料の調達・・・。

 ベットから起き上がり朝の支度をしながら、頭の中で一日の計画を立てる。

それがマイ・リバービレッジの毎日のルーティンだ。


 マイ・リバービレッジ。自分の名前を心の中で反芻してみる。特別気に入っている名前でもないが、両親が残してくれたものの一つである。大切な名前に変わりない。


 両親が亡くなったのは12才のとき。それから5年間、ずっとこのボロ家で一人暮らしをしている。

 そこそこの広さの畑があるので、野菜を育て、自分で食べきれない分を売り、わずかばかりのお金を得ている。

 決して裕福ではないが、マイはこの生活を気に入っている。自然に囲まれて、穏やかに暮らすのは性に合っているのだ。


 これから先もこの暮らしが続いていくだろう。



 ――――そのはずだった。



「離してください!!」


 マイは今、見知らぬ4人の少女に囲まれていた。


 両手・両足を縄で縛られ、椅子に押さえつけられている。


 畑仕事を終えて、夕飯の支度をしようと家に帰ってきたら、どこからともなく現れた少女たちに捕まりこのような状態になってしまったのだ。

 少女たちは深くフードをかぶり顔がよく見えない。


「私、貧乏ですからお金なんてないですし、体は貧相だから売り物にもなりませんよ・・・っ」


 必死に助けを乞う言葉を探すがうまく口が回らない。怖い。何をされるかわからない恐怖が全身を駆け巡る。


 クスクスッ


 少女の一人が呆れたように笑う。


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ちょっと話がしたいだけだから」


「話をするだけなら縛る必要なくないですか!?」


「だって、人間て私たちの正体を知るとすぐ逃げ出したり攻撃してくるのだもの」


 そう言うと少女はフードを外した。紫色の髪が露になり、その頭には角が見える。魔族だ。頭に角が生えているのは魔族以外にいない。

 紫髪の魔族は不敵に笑う。


「さて、話をする前にまずは自己紹介ね。私はレリィ。レリィ・バイオレットよ」


 レリィと名乗る魔族に続いて他の者たちもフードを外し自己紹介をしていく。



「ピンカ・ピンクスだよ~よろしくね~!」


 言いながら、両手を軽く前に挙げて手を振る動作をする。桃色の髪が可愛い。愛くるしい少女にしか見えない。

 魔族とは思えない愛嬌のある笑顔だが、角が生えているので間違いなく魔族だろう。



「トライ・スカーレットだ」


 続いて燃えるような赤い髪の魔族。表情は硬く、神経質そうな印象を受けた。この魔族に睨まれたらと想像するだけで怖くて動けなくなる。



「あ・・・フラァ・イーロウ・・・」


 最後は薄い黄色髪の魔族。いかにも気が弱いという感じだ。本当に魔族なのだろうか・・・。例にもれず、角があるので魔族なのだが。



「それで、貴方たち魔族が私に何の用ですか・・・?」


「ああ、本題ね」


 マイの問いにレリィが答える。


「貴方、自分では気づいていないでしょうけど、物凄く魔力が強いのよ」


「は?」


「人間ではありえないレベル。いえ、そこら辺の魔族よりずっと膨大な魔力」



 魔力が強い?私の?何を言っているのだろう。生まれてこの方普通の人間として生きてきた。いきなりそんなことを言われても理解できない。


「ときどきあるのよ。突然変異的に人間に魔力が宿って生まれてくることが。まぁ、貴方のはちょっと桁外れだけれど」


 なるほど。突然変異・・・。たまたま偶然、私には強い魔力が宿っているわけか。


「でも、魔力を持っているだけでそれを使うことはできない。それって宝の持ち腐れだと思わない?」


「はあ・・・。確かに、魔力があっても使えないのはもったいないですね」


「でしょ。だからね。私たちが ”使ってあげる” 」


「へ?」


 話の流れが不穏になっていくのを感じる。


「でね、人間の魔力を魔族が使うには契約をしないといけないの。しかも、契約できるのただひとり。だから選んで欲しいのよ。私たちの中からひとり、契約する相手を」


 すらすらと説明をされるが、頭がついていかない。


「契約したら私はどうなっちゃうんですか?」


 ふふふっ


 何がおかしいのかわからないがレリィは私を見下ろして笑う。


「そのときは、契約した相手の魔力供給奴隷になるのよ。一生ね」



 魔力供給奴隷・・・!?


 その単語にゾッとした。


「そんなの契約するわけないじゃないですか!!」


「あらそう。そのときは仕方ないわね」


 レリィから笑みが消えて、恐ろしく冷たい目になる。


「殺すしかないわ」


 余りの冷たい声に全身が凍りつく。これが魔族・・・。逆らえない。やばい。私には選択肢がないんだ。

 絶望した顔の私にレリィは面白くて耐えられないといった風に笑う。


「あははっ、そんなに落ち込まないで。奴隷と言っても大切に扱うわよ。ねぇ?」


 同意を求めるように魔族を見渡すレリィ。


「もちろんだよ〜!大切な魔力供給源だもん!」


 レリィと同じく面白くてしかたないという風にピンカが答えた。


「まぁ、急に言われても混乱するだろう。しばらく時間をやるからじっくり考えろ」


「あ~トライちゃん優しいこと言って自分だけ好感度上げようとしてる~」


「そんなつもりはない。が、あまり怖がらせても契約する相手に選ばれなければ意味がない。お前たちもせいぜいこの人間に媚を売るんだな」


「それもそうだね〜。ごめんね人間ちゃん!私と契約したら優しくするよ!お菓子いっぱいあげるよ!」


「ちょっと貴方たち、ずるいわよ!私が悪い奴みたいじゃない!ちゃんと怖がらせないと逃げられてしまったらどうするのよ!」


 トライとピンカのやり取りにレリィが苦言を言う。魔族たちはわちゃわちゃ言い合いながら私を縛っていた縄をほどいた。


「いいこと?逃げたら殺す。貴方は私たちの中から契約相手を必ず選ぶのよ。期限は今は設けないわ、じっくり考えて頂戴。」


 ようやく自由になった手足をゆっくり動かす。

 レリィの言ったことに不満しかないが逆らうことはできないのでただ頷くことしかできなかった。


「じゃあ、今日は私たちは帰るわ。またね。」


 魔族たちは用は済んだ、という感じでぞろぞろと帰っていった。


 ぽつんと一人になったマイはため息をついた。

 いつもは狭く感じる部屋が広く感じて心細くなる。


 どうしよう・・・。

 これからどうすべきだろう。

 誰も答えてくれる者はいない―――。




つづく。

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