第13話:宮本玲奈
――卑怯だ。
本当に、卑怯すぎる。
「違う、そうじゃない」でふざけ半分に「玲奈を〜渡せない〜♪」なんて歌っておいて。
私と亜紀さんを真っ赤にさせて、場を爆笑の渦に巻き込んで。
その直後に「Pieces of a dream」でしょ?
あの高音域を、何事もなかったかのように完璧に歌い上げて、オジサンたちを涙ぐませるだなんて――。
(……何なのよ、直也って)
私は、誰よりも直也を知っているつもりだった。
入社時から同期で、同じ案件を並走し、いまは部下という立場ですらある。
彼がどういうときに黙り込み、どういうときに冗談を言うか。
会議の場での判断の仕方も、交渉での落とし所の探り方も、全部見てきた。
……なのに。
マッキーから浜省、ネタ曲で爆笑取ったかと思えば、CHEMISTRYも歌える表現力まで。
しかも、ただ歌うだけじゃない。相手に酒を注がれればスマートに飲み干し、昭和臭オヤジの心まで掴んでいく。
そんな顔――私は一度も見たことがなかった。
(私……何も知らなかったんだ)
一番近くにいるつもりだった。
だけど今夜の直也は、まるで知らない人みたいにステージで輝いていた。
だから――余計に悔しい。
ズルい。
腹が立つ。
でも、どうしようもなく惹かれてしまっている自分がいる。
「ハンパな〜夢の一カケラが〜不意に誰かを傷つけていく〜♪」
その歌声を聞いている間、私の胸をえぐるように広がったのは、怒りでも羨望でもない。
――ただただ、抗えない感情。
目が離せない。
ずっと見ていたい。
(……直也。
本当に卑怯だよ)
冷静に分析するのが私のスタイル。
だけど今夜だけは、その理性も、分析も、全部まとめて持っていかれてしまった。
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