第6話:カラオケスナック硅素谷 ママ
――はいはい、もう完全に“ナオヤ劇場”よ。
昭和臭オヤジたち? もう夢中。
さっきまで若手のカラオケで氷点下だったのに、今じゃ「ナオヤ!ナオヤ!」コールの大合唱。
支社長なんか顔を真っ赤にしてグラスを振り回しながら、
「頼む!ナオヤ!好きなの歌ってくれ!頼む!」
って、まるで情けない懇願よ。
……いやいや、支社長、あんたの直属の部下が全く使えないからでしょうが。完全に直也におんぶに抱っこじゃない。
でもね――これで完全に選曲権は直也に移ったわけ。
この瞬間、カラオケってやつは“歌う人”のステージじゃなくて、“選んだ歌”がすべてになるの。
(……さあ、どうするのかしら?)
私? 嫌ってほど見てきたわよ。
せっかく場を温めたのに、調子に乗ってカッコつけた歌に走って――見事に冷やすパターン。
昭和オヤジたちの「知らねえよ」って視線、あの凍り付いた空気。あれがどれだけ悲惨か。
だからこそ、ここで何を選ぶかで“本物”か“勘違い野郎”かが分かれるの。
私の30年のスナック経験、その総決算がここで試される瞬間よ。
――で、直也が迷いなく押した曲は?
「ばかみたい」
……ちょっと、え?
選曲が画面に映った瞬間――
「ぎゃはははは!!!」
「ナオヤ!! お前は物産の龍だ!!!」
昭和オヤジたちがテーブル叩いて爆笑よ。
支社長なんて「龍が如く」って言葉だけで拍手して大喜びよ。
(……この男、分かってるわね)
カッコつけず、逆に笑いを取りに行く。
しかもタイムリーすぎるネタ曲。
場末のオヤジたちが腹抱えて笑う姿を見て――私は初めて、“選曲センス”まで完璧な男を目の当たりにしたの。
(やれやれ……スーパー物産マン、今夜は“カラオケの龍”に昇格ね)
「ばかみたい〜こ〜どもみたい〜♪」
早くもビブラートが効いた出だしだわ。
ウチの女の子たちも聞き惚れているもの。
「だめだね〜だめよ〜ダメなのよ〜♪」
サビに来たところで亜紀と玲奈の近くに来て、
「あんたが〜好きで〜好きすぎて〜♪」
とか決めているの。
「いやらしいぞ!ナオヤ!それで口説くのか!!」
オジサン達はこのパフォーマンスに大喜びよ。
でも亜紀と玲奈がなんか瞳をうるうるさせてるのは――あんたも悪いオトコね、直也。
そんな事するからよ。
「ほんまに〜ロクな〜オトコやない〜♪」
次のサビでツッコまれていたのが笑えたわ。
「ホントだよ!」「もっと反省しろ!!」
亜紀と玲奈が口尖らせて怒っているのよ。
でもその反応を見て、昭和臭オヤジはますます上機嫌。
「ナオヤ!本当に悪いオトコだな!でも……最高だぞ!」
もう意味不明よ。
でも、私は早くも次に何を直也が見せてくれるのか、興味を持ってしまったわ。
こんな事は、このお店始まって以来ね。
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