第2話バッティングは判決待ち


放課後の家庭科室前、予約表が二重線でぐちゃっとなっていた。

「異議あり!」白衣の副会長・一ノ瀬アイリが指をさす。

「本日16:00、オーブンAは家庭科部と演劇部のクッキーでバッティング!」


「被告はオーブンであって我々ではない。調停を提案します」

裁判長(自称)=俺、家庭科部の佐伯レン。


演劇部が来た。

「本番用のクッキー、今しか焼けないんすよ」

アイリの目が細くなる。

「重罪(予約上書き)。ただし情状酌量の余地あり。砂糖刑(メロンパン配布)を執行の上——」


「半分ずつ焼成、待機組は袋の格子窓を抜く。段取り二層でいきましょう」

「調停採用」と同時に、アイリはノートに太字。

《褒:レンの調停◎/反省:私の言い方が**強い“かも”》

「“かも”って便利ね」

「角が丸くなる魔法」


一次焼き、スタート。

天板が入ると、残り組は袋加工。

アイリのハサミがシャキンと音を立てる。

「格子は四マス、よく見えるが崩れにくい。合法的ドヤ顔」

「言い方」

「事実」


——チーン。

演劇部トレー、判決。

アイリ:ぱん。ぱん。

「無罪。サックリ音、よし」

「ありがとっす!」と走り去る彼らの背に、アイリがぼそり。

「砂糖刑は後日」

「本当にやるの?」

「やる。甘い和解は長持ち」


つづいて我々のメロンパン。

「本日は半分焼成、焼きムラの懸念あり」

「対策、二次発酵+1分、位置は中央へ寄せる。仕上げのバターすべすべ」

「“すべすべ”は表現の重罪」

「正義」


焼き上がり。

「では——手のひら判定」

ぱん。(一回目)

「準無罪。音は良、表面乾き気味」

ぱん。(二回目)

「完全無罪。音よし、香りよし、表面につや判決」


ノートに追記。

《褒:袋窓◎/焼き位置◎/演劇部への砂糖刑→和解成立》

「それ、“和解成立”の横にハートとか要ります?」

「法です。装飾は控えめに」

「(法のくせに砂糖多めだな)」


片付け中、予約表の端に小さな火傷跡みたいなインク染み。

アイリが指で触って、何でもない顔。

「焦がすの、昔から怖いのよ」

声が一瞬だけ、丸い。

俺はメロンパンの袋を差し出す。

「じゃ、砂糖多めで続行しよう」

「判決:続行」


帰り際。

「裁判長、本日の判決音を」

「了解。ぱん。」

「上告なし」、


(第2話 了)

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