手のひら判定で恋は無罪——家庭科×生徒会

@Eranthis_pinnatifida

第1話手のひら判定“ぱん”で開廷

放課後の家庭科室。

白衣の副会長・一ノ瀬アイリは、姿勢が教科書。テンプレ美人だが、口は容赦ない。


「家庭科部の佐伯レン。今日から共同開発。条件は三つ、異議は却下」


「開始前から強い」

「強い方が焦げにくいの」


指が三本、すっと立つ。


「一。焼けたら手のひら判定“ぱん”。軽い音=正義」

「音に正義って初耳」

「正義はだいたい音がいい」


「二。失敗日は反省メロンパン。糖で脳を誤魔化す」

「言い方」

「事実よ?」


「三。レシピ横に褒め一行。毒の前に飴」


可愛い。というか、論破の速度が速い。


計量。

俺がスプーンの縁をならすと、横からアイリの声。

「角が揃って気持ちいい。今の書く」

ノートにでかい字で《褒:計量◎》

「大きい!」

「褒めは大声で」


一次発酵。

アイリが白衣の袖をまくり、真顔で生地を叩く。

「ストレス?」

「違う。愛情」


——チーン。

天板の上でメロンパンがいい顔をする。


「では判定。ぱん。」

「もう一回」

「ぱん。」

沈黙。

「重罪」

「重罪!?」

「音が重い=重罪。量刑は反省メロンパン」


袋を開け、半分こ。

「反省は一個だけ。二個言うとケンカになる」

「理にかなってて悔しい」


二回目へ向けて、アイリがさらり。

「二次発酵**+2分**。仕上げにバターすべすべ」

「表現よ」

「すべすべは正義」


オーブンが働く間、ノートの表にタイトル。

《甘い採点会ノート(法)》

「(法)?」

「憲法みたいなもの。守ると平和」

「じゃあ前文は?」

「砂糖は世界を丸くする」


——チーン。

二回目は、

ぱん。

良音。


アイリが無言で親指を立てる。

「裁判長、判決は」

「無罪。むしろ表彰」


袋の案を出すと、アイリは即「採用」。

「格子窓で中身ドヤ顔させる」

「言い方」

「事実」


片付けの途中、彼女の手が止まる。火傷跡。

「焦がすの、昔から怖いのよ」

声が少しだけ丸い。

俺はうなずき、メロンパンの袋を差し出す。

「じゃ、砂糖多めで続行しよう」


「レン、文化祭」

「うん」

「長蛇の列を合法的に作る」

「合法的?」

「音と匂いで誘導。ぱんとバターで勝つ」


たぶん勝てる。根拠は薄いが、音がいい。


(第1話 了)

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