第1章 波間に見えたオセロ色
ニイナは、この国を代表するシンガーソングライター。
華やかな舞台の裏にある彼女の原点を掘り下げたい――そんな思いから、私は取材を続けていた。
その流れで、彼女と父親がプライベートヨットで海に出る計画を耳にしたの。
もちろん、私はすぐにお願いしたわ。「ぜひ取材させてほしい」って。幸いにも父親は乗船を許してくれて、私はカメラとノートを片手に、彼女と同じ甲板に立っていた。
「ララに会えるとは限らないけど……」
そうつぶやくニイナの横顔は、期待と不安の入り混じった複雑な表情をしていた。
彼女がハイスクール時代に出会った小さなシャチ――ララ。嵐の夜に打ち上げられた群れの中で、彼女が必死に救助した命だった。
当時の話を彼女は私に語ってくれた。
お気に入りの服まで海水に浸し、乾かぬように子シャチの体にかけたこと。
父親や周囲の大人を巻き込み、皆で力を合わせて海へ戻したこと。
「ララ!」と名を呼び、遠ざかる影に手を振ったこと。
――その瞬間の鮮やかな記憶が、いまも彼女を海へと駆り立てているのだ。
「ララ!ララー!!」
広大な海原で、彼女は声を張り上げた。
ヨットの上で、私はその必死さを一言も聞き漏らすまいと記録する。
彼女の声は、ただの叫びじゃない。祈りであり、約束の続きでもあった。
そして――奇跡は起きた。
水面が揺れ、白と黒の巨体が飛沫を上げる。
ララだ。たった一度の出会いと命名だったのに、まるで自分の名だと理解しているように、呼ばれるたびにララは近づいてきた。
あの瞬間を、私は同じ船にいたからこそ見届けられた。
ニイナとララの絆が本物だと、言葉ではなく光景そのもので証明された瞬間を。
――だからこそ、私はこの物語を書かずにいられない。
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