第2章 空と孤独とニイナ
シャチが群れで行動することは有名ね。
狩りのときには一糸乱れぬ連携を見せる。数頭がかりで魚の群れを追い込み、時には氷上のアザラシを波で落とす。
あの見事なチームワークは、人間の軍隊すら顔負けだと専門家が言うくらいよ。
群れは「ポッド」と呼ばれて、母系社会で成り立ってるの。
つまり、家族の絆を軸にして暮らしてるということよ。数十年単位で親子が一緒に過ごし、声や鳴き方まで受け継がれる。
言ってみれば、彼らには人間でいう「文化」があるというわけね。
でも、人間がそんなシャチと接点を持つのは、ほとんどが水族館のショーや研究施設。野生で出会うなんて、宝くじを当てるようなものよ。ましてや、彼らに「覚えられる」なんて可能性は、さらに低い。
だからこそ――ニイナとララの関係は、ただの偶然で片づけられないの。
群れで生きるシャチが、ひとりの少女を「ファミリー」と認識する。これは生態学の教科書には載っていない特別な出来事だわ。
そんな奇跡が目の前で起きているということが信じられなくて、夢なんじゃないかとさえ思ったほどにね。
晴れ渡る空の下、どこまでも広がる群青の大海原。
その中で、ララはひときわ力強く、そして美しく泳いでいた。ララが私たちの目の前に元気な姿を見せてくれたこと。その事自体を、信じがたい奇跡だと改めて感じたわ。
けれど、同時に胸に刺さるのは――ララには帰る群れがないという現実ね。
シャチはさっき話したように本来、家族単位で強い絆を築き、一緒に狩りをして、声を掛け合いながら生きていく生き物よ。
その世界から切り離されたララが、たった一頭でこの大海原を生き抜いていること。考えるだけで胸が締めつけられるわ。
もちろん、ララは強い。姿を見る限り、きっと食事はできているのだろう。
けれど、一緒に狩りをする仲間も、声を掛け合う相手もいない広すぎる海で、ララはどんな孤独を抱えているのだろうか。想像するたびに、私の心はざわめきが止まらなくなる。
とはいえ、人間の私にできることは限られているのが現状ね。
群れの代わりにはなれないし、狩りを手伝うこともできない。ただただ、この距離から見守ることしかできないのだろうか。
――そんな無力さを色濃く思い知らされた。
それでも。
「考えることをやめない」――そうニイナは言っていた。
その言葉が、私の胸に小さな灯をともしている。私たちにできることは漠然として見えないけれど、それでもララの未来を思い続けることだけはやめてはいけない。まるで念じるかのように強くそう思ったわ。
ララが再び、群れという温かな絆の中で泳げる日を信じて私たちはアクションを起こさなければならない。
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