杖の種類について

 杖とは、もともと術者が、その力を作用させる方向や対象を指し示し、集中を尖らせるための補助具であった。古代の杖には、それ自身になんらかの力を込められたものは少なく、いわば指示器や増幅器の機能しかなかった。

 しかし時代を経るにつれ、補助具としての機能だけでなく、杖そのものにも力を込めることが主流になっていった。さらには、その力から、特権や階級の象徴として畏れられるようになった杖もある。

 これが、いま世間で言われるところの、杖と言うものの、簡単な歴史である。

 

 杖は、その機能や役割によって、以下のものに分類される。もちろん、それらが重複したり、はっきり区別されるものばかりではないが、およその分類は以下のようになる。


ワンド

 片手で持てるほどの、比較的短い杖である。扱いや持ち運びが便利なことから、先述した増幅器や、力を及ぼす対象や方向を定めるものとして、それ自体に力を付与されていないものも多い。装飾も、簡素なものから、豪奢なものまで様々である。初歩の術者がもっとも手にすることの多い杖である。

 古代の術者は指で指し示すことで、力の対象や方向を定めることを主としていた。しかし、研究がすすむにつれ、杖を介した方が、力をより効率的にかつ強い形で作用させることができるとわかってきた。

 いまでは、相手にささやかな不運を与えるなどの初歩的な術にのみ指が用いられる(もちろん、例外的に杖がなくても強大な力を行使できる術者も居る)。


スタッフ

 術者の身長に及ぶかそれ以上の長さの杖である。力を及ぼす対象や方向を定める機能は失われ、専ら力の増幅器としての機能のみ残される。さらには、それ自体に力が付与されていることが前提となっている。

 力が付与されていないただの長い杖は、スタッフとは呼ばれず、歩杖と呼ばれたりする。ただし、最初は力が付与されていない歩杖でも、後に力が発現したり、付与されてスタッフとなるものもある。


セプター

 長さはワンドとほぼ同じであるが、力の増幅器としての機能があり、杖それ自体にも力が付与されている。王権や神権といった、権力を示す杖であり、装飾も豪奢であることが多い。

 もともと力のあったワンドや、権力あるものの持っているワンドが、セプターと呼ばれるようになることもある。

 ワンドとの区別は、その場所で人々から権威の象徴として広く知られているかどうかである。


 ところで、ある学者によっては、メイスという、いわゆる聖職者がもつ棍棒を杖として分類する者もいるが、わたしはその立場を取らない。

 杖は、それ自体の物理的な力と使用者の肉体的な強さによって、対象に効果を及ぼすものであってはならないと考えるからである。対象に触れることはまだしも、対象を殴打することで効果を及ぼすものは、杖とは呼ばないと考えている。そこになんらかの力が付与されていたとしても、である。


 なお、ここには分類不能な杖が存在するということも、示しておかなければならない。

 ものごとは、そう白黒はっきりつくものばかりではないのが、世の常である。


 この目録では、杖の形状や装飾といった外見上の特徴から、その杖が発揮し得る力、そして来歴までを記していくこととする。

 ただし、とくにその来歴に関しては、まったく明らかでないものも多いため、わたし個人の所感を記しているものも多い。そこはご容赦願いたい。

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