まえがき
杖は不思議なものである。
道端に落ちている一振の枯れ枝でさえ、その内に秘めた力を名のある職人に見出されれば、歴史に名を残す稀代の魔具となる。
また、それがありふれたものであったとしても、いく数年の激動を優れた術者とともにくぐり抜ければ、これまた原石が磨かれるかのように、輝きを放つ。
わたしは生まれてこの方、魔具のなかでも、とりわけ杖というものに魅入られてきた。それは祖母の手のなかにあった。そして母に受け継がれ、いまはわたしの書斎にある。
わたしにとって、杖はただの魔具ではない。それは一代で命をまっとうする生き物が、その思いを力とともに込める、いわば生き証人のようなものである。
わたしは、ひょんなことから母から受け継いだこの杖を皮切りに、古今東西世界中のあらゆる杖を見てみたくなった。そこに秘められたチカラを、その背後にある人々の思いを、記録したくなったのである。
名高い冒険記や歴史書には及ばない、いわばこれは杖の目録である。わたしには、語り、書き記し、組み立てる才はなかった。しかし、残してみたくなった。
しかし、この書が、偶然にもあなたの前にあらわれ、それを開いてくれたからには、あなたのなかの何かを少しでも変えるきっかけになると幸いである。
ここに記している杖のいくつかは、かの著名な術師であり魔道具研究家でもある、キシュカ・アラウンに取材したものである。
アラウンが、街の菓子職人であり稀代の剣の遣い手であるバートン・ブリガンティと、聖騎士団の中興の祖である騎士イングリッド・レイとともに、幾多の試練を乗り越え、“魔術師の塔”を発見したことは、記憶に新しい。
キシュカとわたしは同門で修練を積んだということもあり、懇意にしているが、わたしの杖に対する執着ともいえるこだわりを、書物にしてみないかと提案してくれたのだ。
友は時として師となる。
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