第5話 見えない道

朝の教室に入ると、いつもと同じ風景が広がっていた。

机、椅子、黒板、窓の外に広がる青空。

それでも、昨日までとは何かが違って見えた。

ぼくの胸の中には、昨日感じた「問い」と「迷い」がまだ残っている。


授業が始まると、先生が数学の問題を板書した。

「この問題、意味あるのかな…」

ぼくは小さく心の中でつぶやいた。

でも、解くうちに少しだけわかる気がした。

「意味は後からついてくるのかもしれない」


休み時間、友達の悠人と廊下を歩く。

「ねえ、将来のこと考える?」

「考えるけど…やっぱりわからない」

悠人も同じ気持ちだった。

互いに顔を見合わせると、無言のまま笑った。

そう、問いは一人だけのものじゃない。


放課後、校庭に出ると、夕陽が長く影を伸ばしていた。

桜の枝に残る花びらが風に揺れる。

ぼくはその光景を見ながら、少しずつ考えを整理する。

「答えはまだ見えない。でも、問いを持つこと自体が道なのかも」


家に帰ると、母が温かい夕飯を用意してくれていた。

「今日も学校はどうだった?」

「少しだけわかってきた気がする」

口にすることで、ぼくの心は少し軽くなった。


夜、机に向かい日記を開く。

ペンを握る手が震えることもある。

でも文字にすることで、問いは重さを増すだけでなく、光も持つように思えた。

「人生はまだ見えない道の連続。でも、歩くことで少しずつ景色が変わる」

桜の枝を揺らす風が、ぼくの心をそっとなでるようだった。

まだ答えはない。でも、この問いとともに歩み続けることが、ぼくの人生の第一歩なのだ――そう思った。

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