第8話 試されるステージ

 放課後の軽音部の部室に集められたanymoreの四人は、顧問の教師から告げられた言葉に耳を疑った。


「――サマー音楽フェスへの出演は、許可できない」


 空気が凍りつく。

 結衣が真っ青になり、莉子が「なんで……」と小さく呟く。


 美羽の心臓は激しく打ち、拳が自然と震えていた。

(また、大人の事情……?)


 中学時代、夢を語っただけで「現実を見ろ」と笑われた記憶がよみがえる。

 せっかく掴んだチャンスを、また“大人の都合”で奪われるのか。


「学校の名前を背負う以上、リスクは避けたいんだ。無名のバンドを大きなフェスに出すのは……」

 教師の説明はもっともらしく聞こえたが、美羽にはただの言い訳にしか思えなかった。


(私たちの音を、最初から信用してないだけじゃないか)

 胸の奥に悔しさが込み上げる。



 しかし顧問は少し間を置き、別の言葉を続けた。

「……ただし条件を満たせば、出演を認めよう」


 四人が一斉に顔を上げる。


「二週間後、地元のライブハウスでワンマンをやってもらう。その箱を埋められたら、サマー音楽フェス出演を許可する」


 静まり返る部室。

 紗菜が口を開く。

「埋めるって……定員、百人以上ありますよね?」


 教師は無言で頷いた。



 部室を出たあと、四人は顔を見合わせた。

「二週間で……百人?」

 結衣の声は震えていた。

「無理だよ。知り合い全部集めても足りない」


 莉子はスマホを握りしめながら、「SNSで呼びかけても、来てくれる人なんているかな」と不安を口にした。


 重苦しい空気を切り裂くように、美羽が言った。

「……でも、やるしかない」


 三人の視線が集まる。


「ここで諦めたら、本当に“また大人に否定されて終わり”になる。そうならないために、二週間で証明しよう」


 その言葉に三人は黙り込み、やがて小さく頷いた。

 不安と緊張が渦巻く中、anymoreは初めて“動員”という試練に挑むことになった。

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