第5話 歌に込めたanymore

 夏休みが終わり、学園祭まで残り一か月。

 anymoreは部室に集まっていた。ノートを開いた美羽の手は、少し震えている。


「次の曲、私が歌詞を書いてみたい」


 メンバーが驚いた顔をする。

「え、美羽が? ギターばっか弾いてるイメージだった」

「うん。でも……“anymore”って名前をつけたのは、私だから」


 その言葉と共に、美羽は過去を語り始めた。



 中学の頃。

 バンドをやりたいと友達に話したとき、「夢みたいなこと言ってないで現実見なよ」と笑われた。

 文化祭でギターを弾く機会もあったが、緊張で音を外し、クラスメイトに冷たく笑われた。


 ――あのとき心に決めた。

 全部否定してやる。

 期待も、決めつけも、笑い声も。

 そして、自分の音で“始める”と。


「だから、anymoreって名前にしたの。否定から始める意味」

 美羽はノートを差し出した。

 そこには、震える文字で書かれた歌詞があった。



 結衣が声に出して読む。


 > 何もかもダメだと笑われても

 > 私はここで音を鳴らす

 > 否定の先に見つけたのは

 > 本当の“始まり”だった


 静かな空気の中、紗菜がスティックを握りしめた。

「いいじゃん。これ、歌おうよ」

「うん、これが私たちの曲だ」莉子も頷いた。


 こうして生まれた二曲目のオリジナル。

 タイトルは――「anymore」。



 さらにもう一曲。

 莉子が「ライブ、楽しかったよね」と笑いながら弦を弾いた。

「うん。あのステージの光景、忘れられない」

 紗菜がドラムを叩きながらリズムを刻む。


 その勢いでできたのが、三曲目のオリジナル。

 タイトルは――「stage」。

 意味は、あのライブハウスで味わった「楽しさ」を詰め込んだ歌だった。



 そして迎えた学園祭当日。

 グラウンド横の特設ステージに立つanymoreの四人。

 結衣はマイクを握りしめ、緊張で声を震わせていた。


「大丈夫。今日は、私たちの“START”だよ」

 美羽が微笑む。


 照明が落ち、観客のざわめきが静まる。

 一曲目「START」で勢いをつけ、二曲目「stage」で会場を揺らす。

 そして三曲目――美羽が歌詞を書いた「anymore」。


 結衣の声が響いた瞬間、観客が一斉に拳を突き上げた。

 メロディに合わせて手拍子が起こり、歓声が重なっていく。


(あの日の笑い声は、もうここにはない。あるのは、肯定だけだ)

 美羽の胸に熱いものが込み上げる。


 最後の一音が鳴り響き、観客から大きな拍手と歓声が沸き起こった。



 その夜。

 学園祭のステージの様子は、生徒たちのスマホによって次々にSNSに投稿されていた。

「やばい、うちの学校のバンドめっちゃ良くない?」

「高校生でこの完成度、普通に聴ける」

 動画は拡散され、再生数は瞬く間に伸びていく。


 ――anymoreの物語は、学園祭から全国へと広がり始めた。

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