第4話 START
ライブハウスでの初舞台から数日。
失敗と歓声が混ざったあの夜の余韻は、まだ四人の胸に残っていた。
「次のライブ、どうする?」
部室の机に顔を伏せながら、莉子がつぶやく。
「カバーばっかじゃダメだよな」
「うん。そろそろ、自分たちの曲をやるべきだと思う」
美羽の言葉に、全員が静かに頷いた。
⸻
美羽はノートを取り出した。ぎっしりと英語と日本語の単語、フレーズが並んでいる。
「中学の頃から、ずっと書きためてたんだ。否定されたこと、悔しかったこと……でも、それを全部“始まり”にしたい」
ページの一番上に、大きく書かれていた文字。
「START」。
「バンドの始まりにふさわしいと思わない?」
その言葉に、結衣の胸が熱くなった。
「歌いたい。私、この曲を歌いたい」
四人は顔を見合わせ、初めてのオリジナル曲づくりを始めた。
メロディを探し、コードを試し、歌詞を削っては直し、リズムに乗せる。
何度もぶつかり合い、何度も夜を越えた。
⸻
やがて迎えた二回目のライブハウス出演。
ステージ袖で深呼吸を繰り返す結衣に、美羽が肩を叩く。
「大丈夫。今日は“START”だよ」
ライトが落ち、観客の視線が集まる。
美羽のギターが響き、紗菜のドラムが加わり、莉子のベースが支える。
そして結衣の声が飛び出した。
――不思議と、今日は崩れなかった。
緊張はあった。けれど、それ以上に「楽しい」という気持ちが勝っていた。
観客が手を叩き、声をあげる。
その中で、結衣は初めて心の底から「歌うのが楽しい」と思えた。
演奏を終え、息を弾ませながらステージを降りる。
「やっぱり……ライブって最高だね!」
莉子が叫ぶように言い、全員が笑った。
⸻
数日後。軽音部に学園祭出演の依頼が届いた。
「出演時間は二十五分。三曲は必要だな」先輩の言葉に、anymoreは顔を見合わせる。
「“START”はできた。でも、あと二曲……」
「作ろうよ。絶対できる!」美羽が力強く言った。
それは、新しい挑戦の始まりだった。
“anymore”という否定の名を掲げた四人が、自分たちを肯定していくための音を探す旅。
学園祭に向けて、彼女たちは再びペンと楽器を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます