第2話 憧れのステージへ

 放課後のスタジオ。二回目の練習だ。

 昨日よりも慣れた手つきでセッティングを終え、四人は音を合わせた。


「よし、いくよ!」

 美羽のカウントで音が鳴り響く。


 前回よりはまとまっていた。とはいえ、テンポは走り、コードも外れ、結衣の歌はまだ小さい。

「ちょっと速すぎ!」

「ごめん! ベースの指がついていかない!」

 演奏は何度も止まった。


 けれど、紗菜がスティックを回しながら言う。

「でも、最初よりずっとマシ。なんか、ちゃんと“曲”になってきた」

「うん、なんか……楽しい!」

 結衣の表情は緊張よりも笑顔が勝っていた。


 演奏を終えると、四人は床に座り込み、息を弾ませた。

「まだまだだけど……なんか、バンドっぽくなってきたね」

 莉子が笑うと、美羽も頷いた。



 その帰り道。スタジオの前で、数人の大学生らしき青年たちがたむろしていた。

 彼らは楽器ケースを抱え、汗を拭いながらジュースを飲んでいる。


「お? 君たち、新入生だろ?」

 ギターを担いだリーダー格の青年が声をかけてきた。

「バンド組んだばっかって感じだな」


「はい、軽音部に入ったばかりで……」と美羽が答えると、彼は笑った。

「俺たち、Silent Dice。今度ライブやるから観に来いよ」


 地域では有名なバンド――Silent Dice。

 SNSでは数千のフォロワーを抱え、ライブハウスでは常連として名を知られていた。


 美羽は迷わず答えた。

「行きます!」



 数日後。

 anymoreの四人は初めてライブハウスの扉をくぐった。

 中に入った瞬間、鼓膜を震わせるような低音と、タバコと汗の混じった匂いに包まれる。


「すご……」莉子が目を丸くする。

 照明が暗転し、観客がざわめいた。


 次の瞬間、ステージにSilent Diceが登場した。

 ギターの一音が鳴った瞬間、観客が一斉に腕を振り上げ、フロアが波のように揺れた。

 ドラムの一打で体の芯まで響く。観客の叫び声、スマホの光、熱気。


「すごい……」

 結衣の声は震え、

 莉子は目を輝かせ、

 紗菜はリズムを無意識に刻み続けていた。


 美羽は拳を握りしめる。

(私たちも、ここに立ちたい――!)



 ライブが終わり、楽屋裏でSilent Diceと話す機会を得た。


「どうだった?」

「最高でした!」と結衣は勢いよく答えた。


 美羽は一歩前に出る。

「……私たちも、ライブハウスで演奏したいです」


 リーダーは驚いたように笑った。

「お、やる気あるな。でも、まだ始めたばっかだろ?」


「わかってます。けど、絶対に上手くなります。だから……一緒にステージに立たせてください!」


 真剣な眼差しに、Silent Diceのメンバーは顔を見合わせた。

 やがてリーダーが頷く。

「いいだろう。次の企画ライブ、一枠空けてやるよ」


 その瞬間、anymoreの四人は顔を見合わせ、声をあげて喜んだ。

 夢が現実に変わる音が、確かに鳴った気がした。

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