第12話 捜索
――月曜日。
いよいよ明日は、Xデーだ。
友哉は、どうしてるかな。昨日バスケ観戦で、里見さんと楽しめただろうか?
気になってラインを送るが、既読にならない。いつものこととはいえ、胸騒ぎがした。
会社に着いたが、里見さんはこっちに来ない。いつもなら報告しに来ると思うのに。
不安に駆られ、自分から里見さんに様子を聞きにいった。
どことなく様子がおかしい。
お昼の食事に誘った。ご飯を食べながら聞いてみよう。
◇
――お昼。
落ち着いて話ができると思い、ランチもやっている喫茶店に行くことにした。
席について、すぐに僕は聞いた。
「昨日、なんかあった?」
彼女は俯いたまま何も言わない。
「友哉と一緒に行った?」
コクンとうなづく。
「バスケは観戦できた?」
コクンとうなづく。
「友哉になんかされた?」
コクンとうなづく。
「えっ?!」
小声で僕は聞いた。
(何されたの?)
「抱きしめられた」
「なぬ」
「それでどうしたの? 嫌がって逃げた?」
コクンとうなづく。
「はぁ……」
ぼくはため息をついた。
そのとき、スマホが鳴った。画面に映る名前を見て、戦慄が走る。――友哉の母親だ。
「鈴木です」
僕は席を外し、慌てて外へ出た。
『急にごめんなさいね。友哉が出勤してないらしいのよ。会社から電話があって……無断欠勤したことなかったようだから、心配で』
「マジですか……。わかりました。探して見ます。電話ありがとうございます。何かわかったら、必ず連絡します」
鼓動が一気に速まった。
店に戻ると、里見さんが不安そうに顔を上げる。
「友哉が行方不明らしい。僕、仕事を休んで探してくる」
彼女の顔から血の気が引き、口元に手を当てた。
「わたしのせいかもしれない……わたしも探す」
「いや、里見さんは関係ないよ」
そう言った僕に、彼女は怒ったような声で返す。
「私じゃ力にならないの?」
「……わかった。一緒に探そう」
電話をかけて見たが、やはり出ない。
まずは家に向かうか。歩きながら僕は里見さんにこう言った。
「友哉は、うつ病になっている可能性がある。本人は何も言わなかったけど」
「だから、昨日の友哉のことは、許してほしい」
里見さんはフルフルと首を振った。
「昨日の友哉になんか気づいたことあった?」
と僕が聞くと、里見さんはこう言った。
「私が思ってた友哉さんと少し違う感じがした。気のせいかもしれないけど」
友哉の家に着いた。ドアを叩くが、返事がない。
電話をかけて見たが家の中から音は聞こえてこない。
僕は電気メーターを見た。旧式のだ。友哉は自宅にはいないようだ。
「じーちゃんに教わったんだけど、円盤の回転速度でいるかわかるんだって」
「へぇ……勉強になります」
里見さんは少し落ち着いてきたようだ。
それでも胸の奥の不安は膨らんでいく。
自殺現場も考えなくてはいけない。そんな考えが頭をよぎり、背筋が冷えた。だが里見さんを連れて行く気にはなれない。
「手分けして探そうか」
僕の提案に、里見さんはうなずいた。
「里見さん、バスケ関連で思い当たる場所ってある?」
「試合会場とかかな。中には入れないと思うけど、行ってみる。東京体育館、代々木体育館あたり」
「わかった。ありがとう。僕は仕事がらみから当たってみる。見つからなくても連絡して」
「わかった」
お互い手を振って別れた。
念の為、友哉にラインを送ることにした。
『昨日は、そばに居なくてごめん。このメッセージを見たら連絡してほしい』
僕は都内の某ビルに向かった。
そこには……幸い友哉の姿はなかった。
周囲をくまなく探したが、居なかった。
ホッとして、別の場所に移動した。
一旦帰り、車で友哉の会社事務所に移動した。
情報はできるだけ集めたい――
里見さんから連絡があった。
「どっちにも姿が見当たらなかったから、次はBリーグの試合会場にも行ってみる」
「ありがとう。でも、無理しないで」
「大丈夫」
里見さんの笑顔が思い浮かんだ。
事務所に行くと、事務の女性しかいなかった。
「荒木友哉の友人なのですが、今日来てないって聞いて……鈴木聡と言います」
女性は、仕事の手を止めて、立ち上がり会釈した。
「こんなの初めてなんです。荒木さんがなんも連絡来ないって。なんかあったんでしょうか……」
女性は心配そうに聞いてきた。
「僕も色々と探してるんですが、まだ見つかりません。自宅には居ないようでした」
「警察に届けたほうがいいんでしょうかね……」
――警察。
僕は、事の大きさを改めて実感した。しかし、警察は動いてくれないだろう。
「多分ですが、刑事事件でないと探してくれないと聞いたことがあります」
「そうですか……。お茶持ってきますね」
女性が行こうとしたが、僕が制止した。
「遠慮しときます。ところで、彼が携わった建設現場とか教えていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、はい。資料持ってくるので、お待ちください」
資料を見てみると、気になる案件があった。
まだ、計画段階だが、千葉の海浜幕張にBリーグのホームアリーナの建設予定があるらしい。
資料を見ていると横から女性が覗いてこう言った。
「ああ、その施設は、プロバスケットボールのホームアリーナになるらしいですね。荒木さんが担当する予定になっています」
『これだ!』
「ありがとうございます。そこに行ってるかもしれないので、見てきます」
女性は微笑んで、こう言った。
「そこにいるといいですね」
僕は急いで、建設予定地に向かった。
今は公園になっている場所だ。
近くの駐車場に車を停めて、急いで行った。
公園の端から探して行くと、真ん中のベンチに大男が座っていた。作業服を着ている。友哉だ。
「友哉ーーー!」
僕は周囲を気にせず、大声で叫んだ。
友哉は立ち上がってこっちを見ている。僕は走り寄った。
「なんでお前がここにいんだよ」
「探したんだぞ!」
僕は息を切らしながら怒りをぶつけた。
「会社サボっただけじゃねえか。怒るなよ」
「里見さんも探してくれてるんだよ」
「あ……。彼女なんか言ってなかった?」
「なんも言ってねーよ」
と、僕は嘘をついた。
(あ、連絡しなきゃ)
「ちょっと待ってね」
里見さんと、友哉の母親に見つかったと連絡した。
里見さんはこちらに向かってきてくれるという。
僕は安堵して運転席の背もたれに寄りかかった。
後部座席に友哉は乗っている。
僕の車は軽自動車の小さいタイプなので、友哉には助手席は狭かった。
途中の駅で、里見さんを拾うことにして、友哉の家に行くことにした。
「俺の家、狭いぞ」
「なら、友哉の実家行かせてもらうぞ?」
「いいけど。ただ、着替えさせて」
と、友哉は言った。
――僕はただひたすら明日を乗り越えたいと願うだけだった。
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