第二幕の後半
『通信。シルンサスから』
『ん。シルディアで』
「ええ。そのように。こちらシルディア。擬似迷宮探索中。どのような用件でしょうか」
『そうなのなら。切りの良いところで、帰って来なさいね。緊急事態の類ではないわよ』
「ええ。そのように。直前まで三種目と対峙していた所ですから、第二層に進出したら」
『そうね。それでは』
「はい。それでは。緊急事態の類ではないようね。とはいえ。一応、気持ち急ごうかな。場合によっては、翼猫達が前に出ることにするのかな。流石に、三種目配置数は少ない」
『ええ』
『ふにゃ』
踏破済み堕天使等設置本迷宮や、討伐者組合設置迷宮等は、討伐者組合に管理されているのなら。認識票を用いれば、瞬時に迷宮等外へと、脱出することが可能となっている。
シルディア一党は、擬似迷宮第一層迷宮通路最奥を、目指す。
「ピィーイ。ピッ」
六体目のフスパリム形討伐が、終わる。
「階段が見えたわね。第二階層の転移地点を認識票に登録したら。帰ろうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(我々の前に、新設私塾併設擬似迷宮が第二層進出者は、なしと。ん。一応、第二階層の配置擬似怪物三種の方を、見ておこうかな。イッペラポス形、一種目は鹿形の類、アクリス形よりは少し小さい。二種目はウルス形、先端が鋸状で大きな双洞角を武器とするか。三種目は、グウィルギ形、敏捷性に優れる。ん。合っているのなら。設定通りなのかな)
「…………。動きを気にされないように。黄色い猫耳帽子の方は、未だ置いて置こうね」
『うん』
シルディア一党は、央の国離宮へと向かう。
『ただいま』
『ふにゃ』
『おかえり。早かったね』
「それで。何があったのでしょうか」
「低廉水薬様仮想体力回復薬を、他の討伐者組合支分支所でも扱って貰いたいらしいわ」
「ん。『仮想体力』回復薬なのなら。不老長生とは関わりないと表示されていますよね」
「ええ。そのことは、大丈夫と。一応、代表の行政職員が、言っているのだけれどもね」
「ああ。属性調整による討伐目的でしょうか。とはいえ。比較的対峙し易いような擬似怪物は、土・地属性なのなら。設定上囚われている精霊の属性が、木属性ということは、余りなさそうですけれども。金・空属性や火属性の擬似怪物には、多少効果があっても。ああ。攻防用属性付与薬の販売に繋げるためでしょうか。仮想精神力回復薬にというのも」
『ふふ。反応が、母娘そっくりだね』
「対立しないことは好ましいとはいえ。似通い過ぎては、両協皇である意味が、小さく」
「まあ。そうよね」
「大丈夫。スゥインスが居るよ」
『ふにゃ』
『ええ。ありがとう。スゥインス』
(可愛い)
「まあ。需要があるのなら。「眷属」側で、低廉水薬様仮想体力回復薬を増加させるようなことが、可能でしょうけれども。協会が方の役割錬金術士方は、どうなのでしょうか」
「役割段階成長、技能系統熟練度が共に、高い方が多いのなら。意外と、少ないのかな」
「関係高位精霊が増えたことで、役割、技能系統は、転換が可能なのなら。ある程度は、公平に。初心者等からの買取りで、対応できるのでしょうか。まあ。対役割上級魔王等のために、技能系統「封印」を使える聖者、聖女・錬金術士を、増やしたくはありますが」
「まあ。共有空間中の純雑質から、物質的な低廉水薬様仮想体力回復薬を、作成するというのは、空中を足場にするように、想像が難しい面があるのだけれどもね。初心者には」
「まあ。杖を振り回すだけの訓練等の代わりには、丁度良かろうよ。後衛とはいえ。討伐者は回避や防御が基本なのなら。前衛としての経験を積んで置くことは、大切だからな」
「ふふ。準備運動の類として、得物を振り回すのは、大切なのかもしれませんけれども」
「得物を振り回せるような場所に、作業用場所を設置するようなことが、大切になると」
「ん。討伐者組合の方で各迷宮等に、作業用の場所を設置ね。ストゥング、アハトゥス」
『ああ。ん。そうだね。我々を通じでの要望だから』
「ん。私は、欠かせない訳ではありませんが、一応、擬似薬草の方を、集めて見ますよ」
「そうね。私も定期的に探してはいるのだけれども。まあ。流石に新設計の物まではね」
「量が確保できなければ、そのように。ん。今日は、黄色い猫耳帽子を、回収するかな」
『うん。回収する。今日の放課後終わり』
「ん。閉門時間でもないのに、放課後終わりとは、不可思議なことだな」
「そうですね。とはいえ、我々には、時間に関係なく、担うものことが、ありますから」
『それでは、行ってきます』
『ふにゃ』
『ええ。行ってらっしゃい』
一度、新設私塾に戻り、小型保管庫から荷物を回収後、シルディア一行は野外に出る。
(これまで発見され、設計の詳細が記録等されている擬似薬草をと。あ。引っ掛かるね。んん。閉じた系において、管理栽培をしているのに、何度除去しても、出てくるのかな)
『擬似薬草、仮想体力を回復できるという。人間にとって好ましい性質で欺き、堕天使等により、役割、技能系統に合わせて、共有空間に導入された。木属性要素を隠れ蓑に、特定の物化因子を吸排出することにより、循環させる擬似植物の類。『仮想』体力を回復させるというのに、人々に、不老長生を期待させ、保管参照用の標本等を除き除去することが出来ずに、閉じた系において、管理栽培されるものこと。特定の物化因子を吸排出するだけなのなら、物化因子除去がための情報元としては、情報に乏しい。また、木属性要素を隠れ蓑とし、擬似植物としての形を取るのなら、物化因子程の多様性は望めないことから。新設計擬似薬草は、堕天使等の手により、共有空間の土壌等に移植され群生していると思われ。一応、堕天使等暗躍の有無を考える上では、資料となる場合があるとされる』
(管理栽培由来の擬似薬草には、「眷属」等の優位性・優先権が印として設定されているのなら。精霊である堕天使等は変造が出来ても、偽造は出来ないのなら。判別が可能と)
流石に、閉じた系内部で、管理栽培分が擬似薬草の全てを加工することは、役割錬金術士対象者記録等(行政等による不利益扱いに繋がる情報収集が制限)の関係で困難なのなら。「眷属」等の力で栽培出来ない状態にすることで、正規流通分は共有空間内に出る。
性質上、木属性要素は、一箇所に留まったとしても、不可思議ではない。
「ん。では、一応、新設計擬似薬草の方を、探して見ようね」
『ええ』
『ふにゃ』
(見付からない方が、好ましいけれどもね。集落の近くで見つかることが、比較的多い。怪物等が、人々に目撃されるためには、集落の近くに群生させることが、堕天使等側として、大切なのか。人々が発見して、秘密裏に不正栽培をしているのか。どうなのだろう)
流石に、近来の怪物等発見情報を元に、探索箇所を絞り限定しているとはいえ。無事、順当に、新設計擬似薬草は、見付からないことから。好ましいのか、好ましくないのか。既存設計の擬似薬草が共有空間内での群生には、人々の関与が、考えられることとなる。
(流石に、人間、精霊、「眷属」、三者間の不和を醸成することを目的とするにしても。既存の擬似薬草を、移植して終わりというのは、流石に、考え難い。まあ。「封印」を避けるのなら。そのくらいの暗躍で、済ませることが、適当なのかもしれないけれどもね。世界を超えるというのは。今回の調査では、早急に、連絡を回すような発見等はなしと)
「…………。後は、ん。明日。一応、収納した擬似薬草に、一括指定の範囲に留まる程度の新設計擬似薬草が、混ざっていないのか、調査することにするわ。一度、教室の方に」
『要望が、届いているのかな』
「まあ。ストゥング、アハトゥス経由が、使い易いのかもな。衝動的なものことよりは」
「とはいえ。一年三組は、一応、低学年の教室の近くにありますから。紙が用意の方は」
「ああ。低学年とはいえ。流石に、「眷属」に口頭で伝えるのは、避けるだろうからな」
『ふにゃ』
擬似薬草収納を終えたシルディア一行は、閉門作業等のために、新設私塾へと向かう。
「居残っている塾生は、居ないようね。鳥達、兎達も、大丈夫そうに、感じるのかしら」
『ふにゃ』
「ん。それから。獏達、翼猫達も、夢魔等の侵入や痕跡の方は、大丈夫そうなのかしら」
『ふにゃ』
「それでは。閉門作業を行うから、周囲の塾生は早く、転移所の方へと向かうようにね」
新設私塾の閉門作業は、「眷属」等が行わなくても、自動でなされるとはいえ。作業を「眷属」等が行わなければ、居残り等により、順当に、閉門はなされない可能性がある。
『はい』
『鳥達、兎達、また、明日ね』
『ふにゃ』
『ふにゃ』
(ん。直接の要望等は、なかったのなら。一応、大きな争いは、避けられているのかな)
シルディア一行は、無事、新設私塾閉門作業を終え。央の国離宮へと向かう。
『ただいま』
『ふにゃ』
『おかえり』
「擬似薬草は、捜索した範囲内においては、一括指定で収納したものことに限られます」
「ええ。それは良かったわね」
「明日にはなりますが。一応、収納した擬似薬草内に、一括指定の範囲に留まる程度の新設計擬似薬草が、混ざってはいないのかどうか。調査するようなことを、考えています」
『流石に、そこまでしなくても、良さそうだけれども』
『そうかしら』
『シルディア、シルンサスは、擬似薬草を焼却処理するのが、好きだね』
『綺麗だからね。スゥインス』
「うん。綺麗、木属性要素」
「堕天使等由来だとしても、木属性要素は、木属性要素だからね」
「火龍ではないのに、燃やすのが好きだな」
『火龍が、木龍だから、燃やすのを避けるだけよ』
「眷属」等の力による閉じた系での焼却処理により。役割錬金術士の技能系統・劣化技能系統固定・錬金薬製造等と同様、物化因子が、錬金薬等に、残留することは、錬金薬用容器で密閉されることから。共有空間中に、漂う物化因子を含めて、一切ないとされる。精霊化において皇・王霊相当の霊仝人に至る人間は、ことの側に近づこうとも、物化因子の影響を受けないとはいえ。無知万能の「眷属」等とはいえ。一応、物化因子より単純強固な属性要素をなくさずに、物化因子を変質させるくらいの調整は、可能となっている。
堕天使等由来で、意図的に配置された木属性要素は、共有空間に内に、循環させても循環させなくとも、問題がない数量に留まっている。仮に、そうでなかったとしても。木属性の精霊等が排出する木属性要素の数量により、調整され、均衡は保たれることになる。
火龍は、空龍のような静動にかかわりが深い木龍であり、木龍同様、複数の色を持つ。
収納した擬似薬草の調査等を明日として、シルディア一行、今日の所は、解散となる。
「低廉水薬様仮想体力回復薬の販売は。知人の役割錬金術士の方達に、頼めないのかな。自分で、役割、技能系統を転換する場合は、想像力の問題が出るかもしれないけれども」
空中を足場にするように、役割錬金術士は人により、多少の向き不向きが、出て来る。
「ん。保管場所や媒体となる材料の関係だね。媒体は用意しなくても良いのだけれども。仮想精神力の消費を押さえて、繰り返すのならね。それに加えて、討伐者の報酬額は、大凡固定されてくるのなら。低廉とはいえ。時価や役割錬金術士の言い値では、困るよね。また、仮想精神力に限りがあるのなら。攻撃的属性付与錬金薬を重視するのだろうから」
低廉貸与装備により、防御面は大丈夫なのなら。攻撃面の強化に集中することになる。流石に、高効率な仮想精神力回復錬金薬を作成できる程の役割段階成長、技能系統熟練度成長が、討伐者は、一時的に役割、技能系統転換を行う場合を含めても、限られるから。
「うん。いろいろことが、あるんだね」
『ふにゃ』
錬金薬作成時に、瓶様の容器等が付属するとはいえ。汚染等は関係なく、転用は出来ない。仮に転用可能だとすれば、ある種の大きさの瓶製造が、衰退する可能性が出て来る。
不正栽培擬似薬草由来の水薬等を作成するような役割錬金術士は、流石に、余り多くはない。とはいえ、通常利用可能な薬品作成に興味を持たないような者の中においては、低廉で水薬様仮想体力回復薬等を、多くの初心者討伐者等へ向けて、作成販売しようという動きが、どうなのかというと。環境として、「眷属」等にとっても予想外の潜在的需要が存在していたにしても。これまで目立ってはいない。「眷属」等との関りが深い協会職員等を中心にして、不正栽培擬似薬草を敬遠する向きの影響が大きく、あるのだとしても。
(協会所属の役割錬金術士は、不正栽培擬似薬草を敬遠する向きが強くて。在庫等を残さずに、繰り返し錬金薬作成を行うようなことを、苦とはしない者が、比較的多いのなら)
「……。おやすみ。スゥインス」
「うん。おやすみ。シルディア」
(明日で大丈夫なのだろうけれども。後で、一応、収納した擬似薬草の調査等を、少し)
『ふにゃあ』
(ん。ああ。ふふ。スゥインスが、リガレトプを、抱えているようなのかな。可愛いね)
『ふにゃあ』
シルディアは、プレヴァルだけを連れ、閉じた系の一つ・擬似薬草保管庫へと向かう。
「やはり、残念ながら、結構な量のようだね。まあ。一株から爆発的に増えるとはいえ」
「ふにゃ」
「無知万能とはいえ。ある程度は、収納地域別に、積むようなことが、可能なのならね」
擬似薬草の積まれた山の数は、栽培箇所数を、ある程度は、反映していることになる。
「ふにゃ」
(共有空間中等において、物化因子濃度の疎密をつくりだし、循環、精霊の中濃度物化因子暴露(高濃度は流石に回避される)を目的としてなのか。参照植物種が備える性質によるのか。群生数が増え過ぎれば自壊し、中濃度物化因子が放出され、擬似薬草群生地付近を避けていたとしても、拡散過程等で、暴露し得ると。そうなのなら。まあ。新設計擬似薬草が一つだけ含まれるということはないのかな。一つの山とはいえ、ある程度の地域的広がりがあり、数箇所分なのだとしても。新設計、表面的に見え難い根に特徴を持たせ)
特定の物化因子を一括指定し、共有空間から除くようなことは、直接的に、物化因子の疎密をつくり出し、拡散・循環を促してしまうため、精霊等集団側等からの要望でなければ、難しい面がある。とはいえ、一応、擬似薬草の除去は間接的なので、可能ではある。
共有空間における擬似薬草の群生は、人間側による不正栽培の可能性があることから、擬似薬草の除去は、三者間の不和を避けるために、「眷属」の大切な活動と考えられる。
不正栽培擬似薬草由来の水薬等を作成するような場合は、根や地下茎全体までは、採取されないことがあり。目的を持ち不正栽培が行われていたとしても、不正栽培であることで、秘密裏に手を加える関係から。群生数増加での自壊が、防止され続けることはない。
(最近移植されたのなら。新設計擬似薬草の類が数は、比較的少ない量に留まりそうとはいえ。分かれているにしても、地域的な広がりがなあ。ひと山一山を、見て行くのかな)
「……。プレヴァルや私には、差異等を感じ取れないようね。明日、皆に期待なのかな」
「ふにゃ」
シルディア等は、一括指定収納擬似薬草の表面的検査等を終えて、自室へと帰還する。
『おはよう』
『おはよう』
『ふにゃ』
朝食等の後、シルディア一行は、合流する。
「新設私塾と擬似薬草保管庫の方、どちらを、先にしょうか」
『鳥達や兎達の数体も、居た方が良さそうだから、新設私塾から』
「ええ。木属性とはいえ、一応、妖霊である獏達から物化因子の方、除去して置こうか」
『うん』
『ふにゃ』
『対象の低位精霊に抵抗されることなく、対象を目視できるような範囲がある程度は限定されるような状況では、複雑な多様性があるとはいえ、物化因子を除去することが可能』
精霊達が器と同程度の単純強固さを備え、広く世界との関りのために用いない範囲境界で、保護するのなら。獏達低位精霊であっても、大丈夫なのだけれども。内外の二面性があるのなら。物化因子が通常より留まり易くなるということは避けられる。とはいえ、物化因子量次第で擬似植物が何らかの反応を示すのかもしれない。擬似薬草保管庫・閉じた系内でなら。擬似薬草等について、新しい情報が手に入る機会と、考えられるけれども。
「それでは」
『ええ』
『ふにゃ』
(ん。精霊が干渉を出来ない程に単純強固な閉じた系を、龍質で形成し、囲み区切ると)
「ん。それでは、皆、相方獏達の物化因子を、除去するようにね」
『ええ』
『ふにゃ』
『ん。翼猫達が、物化因子除去の方を、担当して見たいの』
『ふにゃ』
「ん。獏達、どうなのかな」
『ふにゃ』
精霊である翼猫達は、侵入介入手順如何に関わらず精霊が干渉を出来ない程に、単純強固な閉じた系の形成は、出来ないとはいえ。物化因子の影響を受けず堕天使等以上の高位精霊なのなら。対象が低位精霊等の抵抗がなければ、物化因子を除去することは、可能。
『ふにゃ』
『ふにゃ』
「ええ。大丈夫。物化因子は、除去できているようね」
『ええ』
『ふにゃ』
シルディア一行は、新設私塾へと向かう。
『おはよう』
『ふにゃ』
『ふにゃ』
「私塾外で活動するから。今日の擬似陽月運行担当ではない鳥、兎が付いて来るように」
『ふにゃ』
『ピュルヴュ、ジャプッロ』
(鬼・魔霊級の中位精霊だから。物化因子の影響は受けないうえに。長年の活動場所の関係から。物化因子には殆ど暴露せず、翼猫達と同様に、器に取り込んではいないのかな)
「……。それでは、行こうか。(んん。擬似薬草の類という堕天使等由来の精霊達にとっては、余り好ましくはないものことが、幾らか、あるのだけれども。大丈夫なのかな)」
『ふにゃ』
『ええ』
シルディア一行は、擬似薬草保管庫へと向かう。
『到着。ん。一杯』
「ああ。一応、地域別か何かで、分かれてはいるようなのだな」
「事前準備だけではなく、一度は、検査したのだろうけれども」
「ええ。まあ。そうね。表面的に留まるのだけれども」
『ふにゃ』
「流石に、ひとつ一つ調べる訳にはいかないのなら。我々が居たところで、表面的だが」
「ええ。とはいえ。感じとしての受け取り方は、異なるのだろうから。何かないかしら」
『むむむむむむ。ん。どうなのかな』
『ふにゃあ』
「まあ。新設計擬似薬草はない方が、好ましいのだけれどもね」
「何もなくとも、警戒や注意に、気を向けなければならないから。守る側は、不利だな」
「ええ。とはいえ。避けることは出来ないからね」
(今日の帰りか、明日にでも、再度一括指定を行って、対象があるのなら。新設計擬似薬草という可能性が。とはいえ。眷属等は警戒心が強いから。それでも、人々を騙して栽培させるような場合を考えると、細かい判断における注意点の類までは、説明をしないか)
「……。ん。感じ取れないのなら。シルンサスへの報告後、新設私塾の方へ、行こうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(何かしら違いがあるのなら。焼却処理時に、違いに気が付くような可能性があり得る)
シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。
『ただいま』
『ふにゃ』
『おかえり。早いね』
「今回の一括指定収納擬似薬草に対する表面的検査で、異変は検知できなかったことを、一応、報告して置こうかと。今回の一括指定収納擬似薬草の方は、未だ残して置きます」
「そう。では。今日、明日辺りに、再度一括指定の方を行うのね」
「ええ。そのように、考えています」
「そうね。私達も、一応、見て置こうかしら」
「ええ。それでは行ってきます」
『行ってきます』
『ふにゃ』
『ええ。行ってらっしゃい』
シルディア一行は、新設私塾へと向かう。
「開門と。獏達、翼猫達、夢魔等の方は、大丈夫なのかな」
『ふにゃ』
『到着。レイゾユネ、マルナレネ』
『ふにゃ』
『ふにゃ』
ルアンサス、スゥインスは、レイゾユネ、マルナレネを、抱える。
「それでは。教室の小型保管庫内に、黄色猫耳帽子等を収納したら、隣接討伐者組合ね」
『ええ』
『ふにゃ』
シルディア一行は、要望書等の確認に、教室へ向かった後。擬似迷宮探索へと向かう。
『擬似迷宮第二階層入口横転移所から』
『ふにゃ』
「ああ。そう言えば、フスパリム形が報酬額の方は、どうだったのかしら。四百六十八」
「そのようだな。フスパリム形討伐以降には、報酬を得ていないからな」
「討伐数の方は、一体に留まりますからね。最新の更新記録等からすると、そのように」
『四百二十程、四百三十二程、四百六十八程、綺麗』
『ふにゃ』
「税引前報酬額に0.四一六等を掛けるのだろうけれども。最終額に合わせて切り捨て」
『報酬額ありきでも、十二アスタリ以下切り捨て』
『ふにゃ』
討伐者組合・財政専売所等においては、安定的に、金一瓦が三万六千アスタリ、銀一瓦が三千アスタリ、銅一瓦が十二アスタリで、一対十二対三千という金銀銅比価となっており。色金・特殊合金補助貨幣を除き、銅四瓦相当の銅貨が、流通貨幣における最小貨幣なのなら。計算単位としてのアスタリにおいても、十二が基本となっている。とはいえ、一応、流通貨幣は、鋳潰し(特殊合金装飾による削り取り防止、摩滅防止が施されていることから。実際は財政専売所等を通しての地金交換)が可能となっていて、半銅貨がある。
(色金である補助貨幣等は、加工・鋳潰し、地金交換が出来ないから。余り流通しない)
「では。行こうか。ん。先ずは、私からね」
『ええ』
『ふにゃ』
シルディア一党は、擬似迷宮第二階層迷宮通路へと進出する。
「フィヨ―。フィーョ、フィ」
シルディアは、イッペラポス形左半身腕頭筋付近から、広背筋周辺までを切り裂き。続けて、左半身三角筋付近へと突きを放ち、核を破壊し討伐に至る。
『ん。迫力は、アクリス形よりないかな』
『角鹿馬イッペラポス形は、肩高七尺前後、頭胴長八尺半前後に及ぶ。鬣を備え、枝角も鬣のように、後方に流れる。とはいえ、山羊形のように、頭突きに利用することが可能であり、武器として用いられる。そして、その走力は、瞬間的に四十五里毎刻強に達する』
一部の羚羊が最高速度並みの速さを出せる前鹿後馬形で。アクリス形より素早く、多少小柄で、特殊な後肢を持つ訳ではないことから。討伐難易度の方は、多少上がっている。
「ん。報酬額の方は、四百五十六アスタリ。まあ。第二階層とはいえ。一種目だからね」
『やっぱり、報酬額が、減った』
『ふにゃあ』
「順当な報酬額設定だな。場合により、第一階層に留まり続けないくらいではないがな」
「とはいえ。逆走をして、フスパリム形を狙う程の低さでは、なさそうですけれどもね」
(ん。獏達の報酬。浅層であっても、果物等に報酬交換するには、一応、足りるのかな)
「ん。それでは、先へと進むわよ」
『ええ』
『ふにゃ』
(イッペラポス形は七体。一体目のことを考えると、順当なのかな。最初だから、アクリス形が少し、遭遇頻度が低く設定されているとか。誤差とかなのかな。調整はしなくて)
「フォゴユル」
「モオォーツッ。モッ、モォ」
「ん。核が体表近くにあったのか」
「この体格で、仮想体力設定が低いということは、ないだろうからね」
『切り口が深いけれどもね』
怪物等が仮の器で統御中枢を担う核とはいえ。捕らえて居る精霊を小さく囲んでしまえば、囚われている精霊側からの優位性・優先権回復を容易にしてしまうため。核は、中心部分にばかり設置される訳ではないから。敢えて、体表近くに位置することがあり得る。
(ん。樹木を切り倒せるような鋸状なのなら。得物が引っ掛かる程の凹凸ではないのね)
『巨原牛ウルス形は、肩高八尺三寸強、頭胴長一丈五尺七寸前後に及ぶ巨体であり。左右の角は差し渡し一丈あり。巨体ながら瞬間的に達する最高速度は、四十里毎刻に達する』
『報酬額は、どうなの』
『ふにゃ』
「四百八十アスタリのようだな。そうなると、仮想体力が低いということはなかろうよ」
「ええ。そうなのかな。それでは。先に進もうか」
(ウルス形は、五体か。流石に、配置数が少ないのか。利用者数からすると。ん。一度遭遇したのなら。討伐練習部屋で。連戦はできず、報酬額の方が多少減額されるにしても)
「三種目夜巨犬グウィルギ形。ん。今回も、私からね」
(火属性の息を吐くというのが。三体目らしいけれど。流石に、擬似迷宮第二階層では)
『夜巨犬グウィルギ形は、比較的吻の短い大型犬形で、比較的長い黒い剛毛に覆われるようであり。場合によっては火属性とされる程に、赤く輝く瞳をしている。肩高が七尺二寸前後、頭胴長が一丈八寸に及び。犬形ながら、平均的な馬を超える巨体と、なっている』
「プレヴァル」
「グゥウウッ。キャン、キャッ」
シルディアは、グウィルギ形左半身腕頭筋付近から広背筋周辺を切り裂き、腹直筋周辺に突きを放ち、核を破壊して討伐に至る。馬のような巨体は別としても。犬形にしては、頸部が上方に伸びていないのか毛深くてそのように見えるのか、頸部から狙うことが、比較的容易に可能になっている。
(ん。核が比較的大きいのかもしれないのかな。体表近くに核があるような例があったとして。流石に、核の位置が、対峙している間に、移動するような段階ではないにしても)
討伐者は、切創等が回復の様子から、核の位置を絞る訓練を、積んでいるとはいえ。
『報酬額はどうなの』
『ふにゃあ』
「ふふ。五百十六アスタリのようだね」
『二体で、四桁アスタリ。凄い』
『ふにゃ』
(フスパリム形に比べて一割ほど高いくらいでは。火属性の属性成長に変化は見られないのなら。やはり、土・地属性の設定のようね。グィルギ形のように、噛み付き攻撃を多用しないにしても、フスパリム形・猿顔の四足獣は、迫力というか何か。まあ。グウィルギ形も、吻の類は、長くはないけれども。良く噛み付く。下顎が発達しているのかしらね)
シルディア一党は、擬似迷宮第二階層迷宮通路最奥へと向かう。
(グウィルギ形は、丁度、六体だったと。ん。前回同様、我々の前に、新設私塾併設擬似迷宮が第三層進出者は、なしか。ん。まあ。それに加えて、第二層においても、なのね)
『第三層に、到着。転移地点を、認識票に登録と』
一般討伐者一党は、高位精霊による牽制は出来ないとはいえ。通常、擬似怪物に、討伐者一人では対峙せず。また、一般的に多少時間が掛かるため、擬似怪物側も合流により、複数体になる場合がある。迷宮通路途中には、転移地点ではないものの安全地帯の類が、設置されているのなら。天幕等を張っての宿泊は出来ないとしても、一日で踏破は可能。
(第三階層の配置擬似怪物三種はと。ヒッポセルフ、ゴウデイ、リンクス。ん。旧央の国協会学校に残されていた資料に、合わせた通りの設定と、表面上は、成っているようね)
「……。帰りに擬似薬草保管庫に寄るにしても、急ぐ訳ではないから。一応、ウェザー形やウルス形と対峙していない者は、対峙するようにしようかな。報酬額の関係からもね」
『討伐練習部屋、強い翼猫達にとっても、報酬は大切』
『ええ』
『ふにゃ』
「ええ。そうね。まあ。とはいえ。翼猫達には、効率的に、逆走で、グウィルギ形と連戦なのかな。ふふ。ルアンサス、スゥインスは、翼猫数体と、離れても、大丈夫なのかな」
『うん。頑張る』
『ふにゃ』
シルディア連結一党から、八体の翼猫が内、六体の翼猫が、一時離れる。再合流については、翼猫達と通信は可能で、通信等を通すことで仮に言語補正における問題があったとしても、何を話しているのかは、わかるのなら。会話において支障が、出ることはない。
『鳥達、兎達、またね』
『ふにゃ』
『ふにゃ』
今日も、閉門作業の方は、無事に終了する。
『今日も、要望書はなかったね』
「ええ。とはいえ。初週とはいえ、通塾者数に異常は見られないのなら。大丈夫そうね」
『百八十六人、全員来ているからね』
『ふにゃ』
「まあ。早々に、隣接討伐者組合支分支所に向かう我々程、問題のある塾生はいないか」
「ええ。そうだね」
(んん。百八十六名全員となると、保護者側の意向が反映のようにも。一人になる場所)
「それでは。一応、一括指定後に、擬似薬草保管庫の方を、見て置こうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(ん。擬似薬草、少しあるのかな。木属性要素循環における異常、特殊な木属性要素は。擬似薬草に、低位精霊達は近づかないにしても。多少は珍しいにしても、流石に、数多の木属性精霊達に気が付かれないようなことは。低位精霊が「眷属」等を恐れて避けるとしても、中位高位精霊を通じて、「眷属」等に異常等についての連絡は入るのだろうから)
「…………。一応、獏達は、物化因子の除去ね」
『ふにゃ』
『ふにゃ』
シルディア一行は、擬似薬草保管庫へと向かう。
『到着。ん。擬似薬草、少しあるね』
『ええ』
「まあ。特に変わったところは、なさそうだがな。通常設計の擬似薬草のようか」
「そうですね。敢えて、管理の方は、厳しすぎないように、していますから」
「ええ。擬似薬草は、堕天使等由来なのなら。入手先を模索することで、堕天使等に臣民が、接触する動機をつくる訳には、行かないのよ。厳密に区切られず変質を防げない人間には見分けられない擬似範囲境界で、位相的欠陥内に閉じ込められ、人質になるだけね」
「堕天使等由来と伝わっているのか」
「おそらくね。流石に、「ものことの成り行き」に沿ったと思うには、発見の時宜がね」
「ええ。調べても、由来が不明になる程に、時が過ぎてはいませんからね」
「そうゆうことか」
『ええ』
『ふにゃ』
(一括指定で除去可能なのなら。境界を通過できないように出来ること・境界を通過したことを記録できるようなことは、伝わっている筈なのに。正規流通の場合には、一応、手間を加えて、栽培出来ないようにされているのを知って。それでも、関係者が擬似薬草を持ち出すというのは。自らの行動に問題があるとは、思っていないということなのかな)
「…………。近くで、見てみましょうか。獏達は少し離れて置くように」
『ええ』
『ふにゃ』
『アンフォリア形に、ソリッシマ形。根も、花も付いていて』
『ふにゃ』
(花ね。ん。風媒花。虫媒花。風、濃淡、疎密、拡散。虫型の擬似生物。群れをなすような虫型による媒介。数日後、少量ずつ、周囲の擬似生物を警戒して、収納して見ようと。人の手にしては、流石に早すぎる移植についても、これなら、説明が付くのだけれども)
「……。ん。今日の所は、焼却せずに保管して、帰ろうか」
『一杯ある前の方も』
「ええ。まあ。大丈夫だろうけれども。少し気になることが、あるからね」
『大丈夫なの』
「ええ。最初に、一度は野外で捜索したよね。何かあるのなら、その時に気が付く筈よ」
『うん』
『ふにゃ』
(ん。風媒花の方。金・空属性だと、木属性は相性的に良くはない。自壊等関係かしら)
「それで、何が少し気になるのか」
「ああ。ソリッシマ形の参照元は、虫媒花なのよね」
「擬似薬草本体が、新設計ではなく。虫型の擬似生物の類に細工をか」
「ええ。まあ。とはいえ。流石に、現地捜索の時に気が付く筈でしょう」
「ええ。今回の収納先からして、野外現地捜索時の捜索先は、適切だったようだからね」
『変わった虫が多過ぎたら、流石に気が付く』
『ふにゃ』
「ええ。今日の所は、帰りましょうか。一応、収納はせずに、少し探りの方を入れてね」
『ええ。そのように』
『ふにゃ』
シルディア一行は、一度、野外・共有空間内へと出る。
「プレヴァル。金・空属性要素に異常はないのかな。前回の野外現地捜索が時も」
翼猫達は、金・空属性複合なのなら。金・空属性要素の異常等に、気が向き易い。
「ふにゃ」
『ふにゃ』
(流石に、殆ど移植はされていないと。彼方が、今回の収納を把握していない可能性も。堕天使等が関係しているという状況次第で、慎重になるのなら。今回の対象には含まれないとして。ん。周辺に、ある程度の大きさがある擬似生物の類は、居なさそうなのかな)
「……。大丈夫そうね。リガレトプ。木属性要素に異常はないのかしら。前回の時もね」
『ふにゃ』
『ええ。大丈夫そう』
『食用擬似植物同様に、擬似薬草には、加工、分解、消化、栄養吸収(の補助)等のために、一応、時限的に自壊するような微細な擬似生物の類を、通常は、数多に伴っている』
『見え易いのは。超個体様の擬似微細生物群創発様型人工無能と、器官等相互作用様の増加代替擬似微生物並列型存在(制限汎用人工無脳)とが、ある。擬似的なこころか何かを持つもの・増加代替「擬似微生物」並列型存在(制限汎用人工無脳〈統合的ながら、一方的指揮系統だけではなく分権的な面を持ち、指揮的・協働的帰還があり反応、調整されるあり方とはいえ、脳を欠いても生物は生物なのなら、質として生物とは異なる存在〉)』
シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。
『ただいま』
『ふにゃ』
『おかえり。何か変わったことは』
「いえ。擬似薬草から、低廉水薬様錬金薬用の木属性要素の方は、調達できそうかしら」
「そう。「調達できそう」ね。未だ、焼却処理していないのね」
「ええ。明日には、焼却処理するから、大丈夫よ」
「そう。もう、気になることについては、調査を終えたのね」
「ええ。少し、時間を空けて、明日、確認の方を行って」
「ふふ。それでも、もう少し、調査の方は続けるのね。時間を空けるために」
「ええ。一応、そのようになるのかな」
「そうね。ん。ストゥング、アハトゥス。シルディア達に、伝えることが、あるのよね」
『ああ』
『新設私塾関係で、どうにかしたの』
『ああ。そうだね』
「ん。読み書き用問題集の類よ。貴族家子弟が古語等の練習用に、需要があるようでね」
「新設私塾に協力した関係で、図書館団体に配付した見本の写本には、時間が掛かると」
「まあ。何れ配架されることが、貴族家の者には、伝わっていないのかもしれないわね」
「図書室を利用するような子女は、普段から図書館を利用しているのでしょうから。仮に図書館に行くことを保護者に伝えたとしても、私塾との提携の話にはならないのかな。蔵書印があり、転移所を設置しているような図書館は、入館料や登録料の類は掛からないのなら。ん。友人等と同じ図書館に行くために、集落間移動で転移所を利用するにしても、討伐者登録をしているのなら。大口の物資輸送でもなければ、料金は掛からないのかな」
討伐者として、転移所を利用できることから、一応、迷宮等で活動をすることになるのなら。迷宮等入場料が掛かり、回収するには、擬似怪物一、二体の討伐が、大切になる。
『そうだね。場所とは異なり、詳細な理由までは尋ねないから。伝わらないね』
「そうなるのね。とはいえ、新設私塾の利点は潰せないのなら。無償配付は難しいから。協会の方に写本用見本を配付して、受注生産といったところでしょうね。初等教育前期中等教育を受ける学齢の子息で、学習意欲が高いのは割合が同じとして、塾生が半分ほどの九十数名前後と。保護者の希望で、略利用されないものを配付する訳には行かないから。協会との関りの深くない貴族家があるとは思えないけれども。場合によっては、財政専売所を通すとして。通常、写本を依頼する協会に依頼するのなら。地域的に分かれるわね。子息ではなく、子弟という所が気になるけれども。古語を利用するのは、貴族家等で。まあ。時の職員長等の意向で、行政における古語利用が、混乱するのなら。仕様が無いと」
『ふふ。シルンサスそっくりだね』
「うん。シルディアちゃんは、シルンサスそっくり。可愛い、好き」
『可愛い。可愛い』
協会職員に定員はなく。行政職員組織においても、緊急時対応のために人員には、余裕があり。毎日、非番を除く、全職員が健康な状態で、登庁できる訳ではないのなら。多少の業務増減において、残業等で予算執行となるようなことは、余り考えられないだろう。
「近年は、協会学校の方では、民衆古語、古語の授業が行われていないのなら。過去の文献等を参照したい方々には。読み書き用問題集の類への需要が、あるのかもしれません」
「学齢の児童生徒は、毎年度、多少入れ替わるわよね。行政職員組織の方も、古語教育には、興味があるのだろうから。予算が付き易いか。収入に繋がる協会の方は、問題なく」
「次年度以降のことを考えて、行政の方に、在庫を引き受けさせるのか」
「受注先にならない協会に対しても、写本依頼が出来るようにとはいえ。少ないのなら」
「ええ。一先ず、受注生産で、良さそうね。多少の慣れがあるにしても、一つひとつ手作業なのなら。規模の利益の類は、余り見込めないわよね。仮にあっても、収益が偏るし」
(一括指定擬似薬草焼却灰由来の低廉水薬様錬金薬が収益を、充てることが出来なくは)
『ええ。そのように』
貴族家において、子弟へ写本を購入できないような状況では、生涯学習向け公開講座や学び直し等を含めて、協会学校等へと通学し、教科書等を、一式揃えることになる。貴族家子女であっても、新設私塾関係配付物を紛失(窃盗・脅迫被害等は別)した場合には、有償購入となる。学齢児童生徒とはいえ、流石に、文明水準的に比較的高価な書籍類を、粗雑に扱うことは余り考えられず。精霊化等進行度から身体的に比較的強壮で、社会的な力との関係の深い貴族家子女が、些細な事情から犯罪被害合うとは、考え難いけれども。
(夕食用に、獏達の果物を、報酬交換できる程の報酬は、一応、確保できては居るかな)
シルディア達は、央の国離宮で、夕食を摂る。
「シルディアちゃん。旧央の国協会学校は、シルンサスの出身校なのかな」
「ああ。仮に黒竜に至る前のシルンサスが、協会学校に通学していたとして。何れかの西の国協会学校だったのでしょうね。とはいえ、順当に、旧央の国協会学校出身だったのなら。ピュルヴュやジャプッロのことに、早く気が付けたとは、思っているのでしょうね。流石に、対魔王大戦の発生を防止できる程、早くうまれるのは無理とは、思っているのでしょうから。閉校自体を避けることは出来たとは思わなくてもね。結果的に、対怪物等施策における聚成帝国の性質上、央の国に、集落が残るようなことは、難しいとしてもね」
『ふにゃ』
「うん。ピュルヴュ、ジャプッロ。可愛い。他にも、居るのかな」
「昼夜を設定する閉じた系は、余りないのだろうけれども。優位性・優先権の確保はね」
「思い出の場所に居続けたい仔を、連れ出すのは難しいよね。ん」
「ええ」
『ふにゃ』
「おやすみ。スゥインス」
「ん。おやすみ。シルディアちゃん」
『ふにゃ』
(スゥインス。新設私塾に、シルンサスが相当程度、協力的なことが、気になるのかな)
シルンサスは、郡県的家産職員制における女帝協皇という立場だとしても。委任行政を別としても。何れ自らと近い立場を担うことと成る子ども達が、後悔をしないように。子ども達の望みを、叶えられないことは、普通に多いのだろうから。
『おはよう』
『おはよう』
『ふにゃ』
朝食等の後、シルディア一行は、合流する。
「それで。今日は、先ず、擬似薬草の方を、焼却処理しに行くのか」
「いえ。一応、もう少し時間を置きたいから。それは、新設私塾の帰りに、しようかな」
「そうか。流石に、今更、何も出てこないとは思うが、そのように」
『シルディアちゃんが、擬似薬草の焼却処理を、待つの』
「どこか精神的に、何時もと異なる訳ではないからね」
「ふふ。とはいえ。気になることを気にし続けるような所は、シルディアらしいのかな」
『ふにゃ』
「ん。それでは、新設私塾の開門に、行こうか」
『ええ』
『ふにゃ』
シルディア一行は、時宜を待って、閉門作業等のために、新設私塾へと向かう。
「開門と。獏達、翼猫達、夢魔等の方は、大丈夫なのかな」
『ふにゃ』
『鳥達、兎達、おいで』
『ふにゃ』
『ふにゃ』
『ん。教室に行って、小型保管庫に、黄色猫耳帽子を置く』
「ええ。そうね」
(ん。要望書の類を、期待しなくなってしまったのかな。まあ。保護者間を通すからね。それに加えて、容易なかたちでは、叶えることが出来ないようなことに、気が付いてか)
「まあ。一度始めたのなら。続けることは、大切だな。習慣とするためにも」
「ええ。そのように」
『ふにゃ』
シルディア一行は、教室へと向かい。自分達の座席を確認し、小型保管庫を利用する。その後、シルディア一党は、新設私塾併設擬似迷宮第三層へと向かう。
『武具良し。範囲境界展開、擬似迷宮第三層へと進出』
「獏達、翼猫達、夢魔等の痕跡や侵入の方は、大丈夫なのかな」
『ふにゃ』
(ん。我々以外に、第三層とは言わず、擬似迷宮第二層へ進出した一党は、未だなしか)
「今回も、先ずは私からね。プレヴァル」
「フィヨ―。フィヨ。フィ」
シルディアは、ヒッポセルフ形左半身腕頭筋付近から広背筋周辺を切り裂き、枝角を切り落とすようにして、核を破壊し討伐に至る。
(数多く分かれる武器の枝角に核が。一般討伐者が核の位置を絞るのは、困難なのでは)
『角馬鹿ヒッポセルフ形は、肩高七尺前後、頭胴長八尺半前後に及ぶ。その走力は、瞬間的に四十五里毎刻強に達する。鹿形としての武器である枝角を備え。馬形の走力と体形とを備える。一般的形の鹿形怪物等としては、比較的戦闘に向く種のように、考えられる』
「ん。報酬額の方は、四百九十二アスタリ。この額なら。逆走しなくても良かったわね」
報酬額が大幅減額されるような翼猫達で構成される一党ともなると。擬似怪物側の合流が幾らか早まり。一種目初期配置と連戦しなくても、効率は高まるようになってはいる。
(ヒッポセルフ形は、順当に、計六体と。次はゴウデイ形と。ヒッポセルフ形の枝角内に核が配置されていたとはいえ。流石に、大きさ的にゴウデイ形の針毛には配置されまい)
「ん。今回も、先ずは私からね。プレヴァル」
「ブホブグ。ブホ、グッ」
シルディアは、初撃として、剛毛等を避けるように、ゴウデイ形左半身腕頭筋付近から広背筋周辺を切り下げ、左半身前肢三頭筋周辺へと突きを放ち、核を破壊し討伐へ至る。
『旧豪猪ゴウデイ形は、肩高二尺一寸強、頭胴長八尺前後に及ぶ。特徴的なのは、背部を中心に備える数多の剛毛、針毛で、長いもので三尺四寸前後に及び、後退することで武器とすることが出来るとはいえ。混乱している怪物等では、効果的に用いるのは、難しい』
「ん。報酬額の方は、五百二十八アスタリ。対峙し難さからするとそれ程、狙いたくは」
(肩高が低く、剛毛は、核を絞る妨げになり、連続斬撃の妨げにもなりそう。とはいえ)
「先へ進もうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(ゴウデイ形は六体。配置数が増えたというよりは、探索時間の関係なのかな。フエイニスは、問題にしなかったけれども。流石に、後衛は多少。討伐練習部屋のことを思うと)
「それで。犬頭とはいえ。リンクス形は、一応、豹形なのだけれども。大丈夫そうかな」
『うん。豹より、斑鬣犬に似ているから。猫じゃないよ』
『ふにゃ』
(まあ。鬣犬や麝香猫は、猫ではないからね。輪郭は、少し似ていなくはないけれども)
「ああ。どこかしら、斑鬣犬に似てはいるね」
「まあ。多少身の熟しに優れるとはいえ、何方かと言えば力重視で、猫らしくはないな」
「豹は猫の類で、比較的大柄で、力は強いとはいえね」
シルディア一党は、擬似迷宮第三層迷宮通路奥へと進む。
「ああ。今回も、先ずは、私からね。プレヴァル」
「グゥルルルルッー。キャヤンッ、ウゥ」
シルディアは、リンクス形左半身腕頭筋付近から広背筋周辺を切り裂き、左半身腹直筋付近へと突きを放ち、核を破壊し討伐に至る。リンクス形の頸部は、多少上方に向くとはいえ、支える頭部の大きさに合わせるように太く、姿勢を低く保つためなのか、四肢は太く短く、肩高が比較的低いことから。横方向に切り裂くことが出来るよう。
『犬頭豹リンクスは、頭胴長六尺三寸前後、肩高三尺七寸前後と、ウェザー形とほぼ同じ体格なのだけれども。尾長も、三尺七寸前後に及ぶ。ウェザー形と比較した場合における頚部の角度等からの頭部の高さの低さや、体毛の短さもあってか、幾らか細身に見える』
(怪物等は、単純強固さから体毛を含めて、体格を考えることが、大切になるとはいえ)
「ん。報酬額の方は、五百六十四アスタリと」
『ゴウデイ形より多い』
「一般討伐者は、それ程、積極的には、核を狙わないからな」
「ええ。核の位置を絞ったとして、刺突が威力の関係で、核に届くとは限らないのなら」
『リンクス形、ゴウデイ形より、脅威なのかもしれない』
(個々人で感じとしての受け止め方が異なり。脅威度等は、討伐者組合において公式に、設定が出来ないとはいえ。配置階層・位置順、配置数、報酬額等から、非公式にはある)
「……。先へ進もうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(ゴウデイ形ほど、時間は掛からなかったとはいえ。リンクス形も、六体討伐できたと)
『到着。大扉、大部屋の迷宮支配者。ん。転移所』
「今日の所は、転移所を登録してから。新設私塾、擬似薬草保管庫の方へと、行こうか」
『ええ』
『ふにゃ』
『登録。一番乗り』
「ええ。まあ。流石に、この短時間では、追い付けはしないだろうから、そうだろうね」
「迷宮支配者、設定される仮想体力は、相当な数値か」
「ええ。場合によっては、連結一党として翼猫達の分も、補正等が乗るのだろうからね」
「ん。「眷属」等を欠く事態に備える討伐訓練として臨むのなら。防具の性能から、仮想体力の損耗は、遮断されているにしても。一応、錬金薬等の準備をして置きたいわね。流石に、閉門時間に間に合わないということは、ないのだろうけれども。戦闘時間の方も」
『それでは。新設私塾に』
シルディア一党は、新設私塾へと向かう。
「獏達、翼猫達、夢魔等の痕跡や侵入の方は、大丈夫なのかな」
『ふにゃ』
シルディア一行は、教室へと向かう。
(ん。今日も、要望書の類はないのかな。一応、スゥインス達も慣れたのかな)
「それでは。閉門作業へ向かおうか」
『ええ』
『ふにゃ』
(本日の閉門作業、終了と)
『鳥達、兎達、またね』
『ふにゃ』
(流石に、擬似薬草の焼却処理に、鳥達、兎達の中から、立ち会わせることはないわね)
『ふにゃ』
「一応、獏達が器内の物化因子を、取り除いて置こうか」
『ふにゃ』
シルディア一行は、収容量が多い方の擬似薬草保管庫へと向かう。
『到着』
『ふにゃ』
「特に変わったようなことは、ないのかな」
『ええ』
『ふにゃ』
(保管庫内においては、擬似薬草が自壊するようなことはないのかな。まあ。仮に自壊し易いような設定なのなら。焼却処理過程において、何らかの違いを感じ取れるのかしら)
「……。それでは、焼却処理の方を、開始するわね」
『ええ』
『ふにゃ』
シルディアは、擬似薬草を、範囲境界で区切り。閉じた系として区切られているとはいえ、シルディアが優位性・優先権を持ち、外部から目視可能な空間へ。皇・王霊級以上の範囲火属性攻撃を、『何かではない』か何かを通じて出力し。多量の擬似薬草を燃やす。
「ん。綺麗に木属性要素が残っているね」
『うん。綺麗』
「それで。燃え方において、気になるようなことはあったのかな」
『いいえ』
『ふにゃ』
「そう。一応、野外で、一括指定から擬似薬草周辺の擬似生物等を、調べて見ようかな」
『ええ。そのように』
『ふにゃ』
(擬似薬草焼却灰の方は、こちらで、低廉水薬様仮想体力回復薬にするのか。役割錬金術士育成のために協会の方で、用いるのか。私の役割段階成長と技能系統熟練度とでなら。戦闘中のような機会行動ではないから、仮想精神力消費を抑えて、大量作成が可能ではあるから。一応、シルンサスの方に、回さなくても、大丈夫なのかな。後衛系の役割等なのなら。感覚的に、転換から、役割錬金術士を担うようなことが多少は、可能なようにも)
野外における擬似薬草関係調査も終えて。シルディア一行は、央の国離宮へと向かう。
『ただいま』
『ふにゃ』
『おかえり』
「擬似薬草焼却灰を確保しました。低廉水薬様仮想体力回復薬作成の方は、どのように」
「まあ。擬似薬草焼却灰は。一般錬金術士に、扱わせることは、やはり、出来ないわね」
「ん。ええ。通常の転用が出来てしまうと。焼却処理の意味がなくなって、しまうよね。我々の方で、というか、私の方で、低廉水薬様仮想体力回復薬作成の方を、行うことに」
「ええ。そうなるわ。役割段階成長と技能系統熟練度とは、足りているのだろうからね」
「それでは。作成の方に」
「シルディアちゃん。大丈夫」
「ええ。大丈夫よ」
『ふにゃ』
『それでは、我々は』
『ふにゃ』
「ええ。そうね。それ程、時は掛からないのだろうけれども。スゥインスは、シルディアと一緒に、行くと良いわ。まあ。後衛役割の子は、転換で役割錬金術士を担えるかもしれないけれども。まあ。今回は、スゥインスだけ挑戦して見るということで、良さそうね」
「うん」
(ん。スゥインスなら、感覚的に大丈夫なのかな。役割錬金術士。役割武僧複合ではないから、仮想体力回復系の技能系統に、慣れてはいないのだろうけれども。賢者・魔術師なのなら、属性要素の扱いにおいては、特化していて、問題がないから。大丈夫なのかな)
スゥインス、シルディアは、擬似薬草保管庫へと向かい。スゥインスを含めて無事に、低廉水薬様仮想体力回復薬作成を終える。その間、並行して、シルディアは、スゥインスが、役割錬金術士を担えている間に。仮想精神力消費が大きい物を含めて、対擬似迷宮支配者戦用の錬金薬作成を、順当に、行うことが出来た(擬似薬草焼却灰の流用はなし)。
(今度からはアッヒュル達も参加させて。獏達が報酬の財源に出来るようにしないとね)
(行政等による不利益扱いに繋がる情報収集が制限の関係から。個々人の転移所利用記録の参照は、難しいけれども。擬似薬草の通過記録の方は、参照可能と。ん。まあ。当該の閉じた系における管理栽培由来ではない、擬似薬草は、含まれてはいないようなのかな)
人間が、堕天使等に接触することで。擬似範囲境界による擬似的な閉じた系で、秘密裏に、擬似薬草が不正栽培されているのかは。今回の不正栽培再開からは、読み取れない。
(ん。協皇立私塾の設立というような貴族家等に関係する比較的大きな動きに合わせて。堕天使等が、この辺獄・冥界に介入するということは、一応、避けられて居るのかしら)
「シルディアちゃん。おやすみ」
「ええ。おやすみ。スゥインス」
『ふにゃ』
(新設私塾内施設利用に関して、要望等はないのね。定期的に、特定の場所で活動する同好会の類は、結成されてはいないのかしら。ん。運動用具類は作成依頼が可能で、貴族家は敷地においては、幾らでもあるのだから。出会いの切っ掛けとなる場が大切なのなら)
運動用具類は、楽器類同様に、純雑質製とはいえ。競技規定等上の人間が挙動に追随する関係から、相当程度、複雑軟弱・繊細さを備えることが大切になるため、品位上比較的安価な純雑質で、(意匠権等存続期間が過ぎていて)再現することが可能となっている。
(しかし、設定情報の方を、正確に読み取れているのだろうか。空気等がない関係で、初期設定値から。多少補正を掛けて、各数値を再設定している可能性があるのだけれども。まあ。年少者らしく、定期的に、特定の場所で活動するということは、気にしないで、放課後を楽しんで、貰いたいのかな。一応、充実した施設設備を提供しているのだからね)
『武具において属性成長は、役割段階成長、技能系統熟練度成長同様に、詳細数値評価をされないとはいえ。妖精金属を中心とする純雑質の構成・配列情報等を参照可能であり。そのことから、武具以外の純雑質製のものことにおいても、同様となる。加えて、純雑質は本来こと寄りなのなら。もののような振舞をある程度、自由に設定することが出来る』
『ふにゃ』
「ええ。おやすみ。リガレトプ、プレヴァル」
『ふにゃ』
『おはよう』
『ふにゃ』
『おはよう』
「シルンサス。今日我々一党は、新設私塾併設擬似迷宮が迷宮支配者と、対峙しますね」
「訓練なのだから。ちゃんと準備をしてから、状況等に合わせて、手順を実行するのよ」
『ええ』
『ふにゃ』
「ん。この年で、擬似迷宮の踏破か」
「ふふ。まあ。通常とは異なり、新設私塾併設なのだから。二、三層しかないからよね。他の擬似迷宮では、第三層より深い階層に進出しているでしょうし。役割段階成長や技能系統熟練度成長の方も、相当程度なのでしょう。武芸者として、実際の技量は別だけど」
「まあ。通常、武芸者は、怪物等と、対人用の得物を持って対峙しないのだろうからね」
『ええ。そのように』
『ふにゃ』
『それでは』
『ふにゃ』
『ええ。行ってらっしゃい』
シルディア一行は、新設私塾へと向かい。そうして、シルディア一党は、新設私塾併設擬似迷宮第三層迷宮通路最奥大扉横転移所へと向かう。
「錬金薬は、緊急用の個々人向けに、高率仮想体力回復薬、高率継続仮想体力回復薬、各種防御的属性付与薬、相殺用の各種属性攻撃ね。供用には、攻撃的属性付与もあるけれども。賢者が技能系統の攻撃的・防御的属性纏程ではないから。一応ね。流石に、今回の対象・浅層擬似迷宮が迷宮支配者相手では、仮想精神力回復薬は用いないだろうけれども。迷宮支配者は、おそらく、三回ほど、形態変化をするだろうから、個々人向けは、四個ずつで、高率仮想体力回復薬だけは五個ね。七割、四割、一割なのか。五割、三割、一割なのか。二割五分毎なのか、参照元の各擬似迷宮次第だけれども。前衛は気を付けるよう」
『ええ』
「それでは。準備は。良いわね」
『ええ』
『ふにゃ』
「それでは」
役割・技能系統において、防御能力に最も優れる聖騎士・武僧ヴェルレアを、先頭にして、シルディア一党は、擬似迷宮第三層迷宮通路最奥大扉が先、擬似迷宮支配者配置大部屋へと進出する。
「対象パランドゥス形、仮想体力目盛あり・核無し、通常は土・地属性単一。大扉の方は閉鎖。現状は特殊地形がなしと。天井の高さ、大部屋の広さあり」
「プレヴァル」
「グォオオオオーッ。ブォ、グォ、フー、ブ、ブ、ブ」
フエイニス、ヴェルレア、ルアンサスは試しに、近接戦闘を仕掛ける。
(規定行動時に、痛痒は入ると。形態回復の様子からすると、やはり、核はないのかな)
「『高率継続仮想体力回復』、『高率継続仮想体力回復』」
「『防御的属性纏(金・空)』、『防御的属性纏(金・空)』」
「『防御的属性纏(金・空)』、『防御的属性纏(木)』」
「グォオオッツ」
(属性攻撃姿勢を、近接直接攻撃で崩せるのか。まあ。第一形態なのなら)
後衛の技能系統『属性攻撃』再使用の前に、パランドゥス形の属性攻撃は、三体分直撃とはいえ、前衛による大振り属性未強化普通斬撃の一度で、不発に終わる。
「『高率継続仮想体力回復』、『高率継続仮想体力回復』」
「『防御的属性纏(金・空)』、『防御的属性纏(金・空)』」
「『防御的属性纏(金・空)』、『防御的属性纏(木)』」
前衛による迎撃の結果、後衛は、技能系統の連続使用を、躊躇わない。
『変角熊パランドゥス形は、肩高八尺三寸強、頭胴長一丈一尺三寸強であり。二足歩行時の身長は、一丈半前後に及ぶ。その走力は、瞬間的に三十四里毎刻に達する。後方に流れる山羊様洞角を持つが、円を描くように先端が多少前方を向くことがあるとしても、(衝撃的には大きくとも、役割、技能系統の関係で、余り有効ではない)体当りを除き、鹿形ほどには、武器には向かない。後肢は、野山羊や羚羊様となっており、機動力に優れる。密生した長い毛皮で覆われるようにしていて。変角熊と呼ばれ、体色を変化させられる』
「グオッ。ウォ、ウ、ブォ、ブ、ブ、ブ」
「ん。これくらいなら。投射型で、自らとは離れた地点を出力場所とするとは、器用ね」
パランドゥス形の出が早い非蓄積投射型土・地属性攻撃を、シルディアは切り落とす。出の早さから属性攻撃は発動するも、その間パランドゥス形は、前衛の斬撃に晒される。
「『高率継続仮想体力回復』、『高率継続仮想体力回復』」
「『防御的属性纏(木)』、『防御的属性纏(木)』」
「『防御的属性纏(木)』、『防御的属性纏(木)』」
(防御面なら、賢者・武僧の属性纏でも、賢者・魔術師の属性纏にはそれ程、劣らない)
「それでは、一時的に、私も前に出るわね」
『ええ』
「グオッ。ウォ、ウ、ブォ、ブ、ブ、ブ」
「『攻撃的属性纏(金・空)』、『攻撃的属性纏(金・空)』」
「『攻撃的属性纏(金・空)』、『攻撃的属性纏(木)』」
「グォオオッ。グッ。ブォ、ブッ、ブ、ブ、ブ、ブ」
(属性纏の二重掛けで、止まったか、一応)
『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』より出の早い(回避し易い)、落石様範囲土・地属性攻撃を。アッヒュルにより、金・空、木属性に二重に強化されたシルディア(スゥインスの強化は前衛担当)の二連続斬撃は、不発させる。
パランドゥス形は、熊形において比較的前肢後肢が長く、爪部を含めれば、四尺等の長剣が剣身を、超えることもある。しかし、槍ではなく長剣を得物に選ぶような近接戦闘向きの前衛を相手に、攻撃を当てることは、困難なよう。
「『攻撃的属性纏(金・空)』、『攻撃的属性纏(金・空)』」
「『攻撃的属性纏(金・空)』、『攻撃的属性纏(木)』」
アッヒュルは、迎撃においてパランドゥス形の属性攻撃等を切り落とすために。一応、後衛の得物を属性纏で強化する。
(そろそろ七割五分を割るのかな)
「一応、前衛は距離を。その後、範囲木属性攻撃での拘束を」
「グゥオオー。ブォ、ウォ、フッ、フ」
前衛等は、武具属性成長による属性放出で牽制し、距離を取り多少、後方へと下がる。
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
(七割五分を割っても、変化なしと)
「次は、七割を警戒」
「グォ、グゥ、ウォ、ウッ、ブッ、ブ、フ、フ」
「牽制せずに、回避重視で後退。その後、『範囲属性攻撃(木)』での拘束を」
「ウォオオー。グォ、ヴォ、ブォ、フッ」
(七割を割る。拘束を強制解除するか)
「グォオオオオーッ。ブォ、グッ、フッ、ブ、ブ、ブ、ブォ、ブ」
(角が前方を向き、前肢も鹿様に。高速攻撃形態ね。少し、様子を見た方が。いや)
植物食四足獣のように進行方向左右への機動力が、大幅に向上するよう。
(山岳地帯に適用した上下方向への移動能力は、どの様に現れるのか)
「『攻撃的属性纏(木)』、『攻撃的属性纏(木)』」
「『攻撃的属性纏(木)』、『攻撃的属性纏(木)』」
(防御の貼り直しは、未だ大丈夫かな)
「ウォオオー。ウォ、ウッ、フー、フー、ブ、ブ、ブ、ブ」
(硬い、『防御的属性纏(土・地)』は効果的か)
分厚い毛皮に加わる『防御的属性纏(土・地)』は、防御能力を強化しつつ、巨大なパランドゥス形が姿容を、より大きくする。
(それでも、毛先に届きさえすれば、一応、痛痒にはなるのなら)
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『放出型属性攻撃(金・空)』、『放出型属性攻撃(金・空)』」
「グォ、グッ、ウォ、ウッ、フー、フッ、ブ、ブ」
属性攻撃で、左右への機動を牽制、後方に回り込んだ前衛が、近接属性攻撃を加える。
『役割上級賢者(・魔術師)の攻撃能力の多くは、出力ではなく攻撃的属性強化が担う』
(スゥインスなら、仮想精神力消費は、未だ大丈夫ね)
「五割警戒。『範囲属性攻撃(木)』での拘束中に、属性放出で調整しつつ左右に散開」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「グッ、グッ、グ、グ。ウォ、オ、オ、オッ」
「足りないか。後衛、一撃ずつ『放出型属性攻撃(金・空)』」
「『放出型属性攻撃(金・空)』」
「『放出型属性攻撃(金・空)』」
(五割を割る。ん。四割ではない。形態変化は四回。一応、錬金薬の割り当てを増加と)
規定行動時に、『範囲属性攻撃(木)』の拘束が途中で強制解除されるのなら。一応、『放出型属性攻撃(金・空)』の方が、痛痒を与えられる。
「グォオオオオーッ。グオ、グォ、グッ、ウォ、ウッ、ブォ、ブッ、ブ」
(変色。後退。いや、逃げているのね。まあ。変色が逃走時の特徴とはいえどうなのよ)
「属性攻撃注意」
(幾ら、眼球等が視覚を担っていないとはいえ。近接武器の角を、対象から逸らすのか)
パランドゥス形は、壁床天井に近い色となり、多少視認性が低下する。それでも、全力で逃げに徹せられると、近辺に属性攻撃を出力したとしても、幾らか命中が難しくなる。
「後衛の属性攻撃で、牽制しつつ、前衛が追撃を加えるように。最初は、私の属性放出からで、アッヒュル、スゥインスはその後に、『範囲属性攻撃(木)』の拘束を狙ってね」
「グゥオ、グゥオ。グオ、グオ」
シルディア一党は、パランドゥス形の『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』を、散開し、回避しつつ。シルディアは、出が早く射程の長い属性放出(金・空)で、反撃する。
(流石に、目盛りは略、減らないのか。とはいえ、我々の得物が属性成長で、それでは)
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「グオオッ。グオ、グォ、グッ、グゥ、ウォ、ブ」
パランドゥス形は、防御機動力強化形態なのなら。床面から縦に三つ並べた『範囲属性攻撃(木)』を回避するも。四つ目の天井から出力される『範囲属性攻撃(木)』には、拘束される。そうして、一時的に機動力を封じられた所に、前衛の追撃が、加えられる。
本来、迷宮等壁床天井は、高品位純雑質製のため、物理的に破損変形等させることが、出来ないとはいえ。擬似怪物等も、範囲属性攻撃、設置型属性攻撃を用いることから。空中に比べ、属性攻撃が出力地点としては、それら属性攻撃において、有用となっている。
(ん。良し。前衛等により、『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』の跡は、幾らか綺麗に処理できていると)
「グゥオ、グッ、グゥオ、グォ」
流石の大部屋でも、端があり。直線的に走らせても、左右誘導が上手くは、行かない。
(もう、奥へは行けないのなら。当分、斜めに走るのかな。流石に角には行かないわね)
「グゥオ、グオ、グゥオ、グッ」
シルディアは、パランドゥス形前方に、属性放出(金・空)を着弾させ。進行方向を、よりシルディア一党側寄りの方向へと、向けさせる。
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「ウォオオッ。グォ、ウォ、ウウ、ウッ、ブゥオ、ブッ」
(ん。幾らかは此方寄りで、拘束をしなければ。前衛等による『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』が跡の処理の方が。慣れるまでは、追い付かないからね)
流石に、未だ、シルディアは、前衛のように近接戦闘を仕掛けずに。『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』が跡の処理を、優先する。
「グゥオ、ウォ、グゥオ、グッ」
パランドゥス形は、未だ、壁から離れる方向へと進まざるを得ない。
(野外に壁は殆どないけれども。討伐による解放を望む関係で、討伐者達が膂力の関係で討伐・苦痛が長引き過ぎるか、相当程度、核の統御が強い等でなければ、逃走はしない)
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「グオォ。ブゥオオッ。ブォ、ブゥ、グゥ、グォ、グ、ブォ、ブ」
「三割警戒。属性放出なしで、『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』が跡の処理を行いつつ、前衛散開。後衛は、次回技能系統機会を待ち、補助の貼り直しを」
「グゥオ、グゥオ」
(形態変化時に、地形変更跡が解消されるかもしれないけれども、一応、処理は大切と)
各種戦闘形態が姿容等次第では、地形の有利不利があり。地形変更跡は解消され得る。とはいえ、パランドゥス形が、野山羊や羚羊等のように、山岳様地形での機動力に優れるのなら。多少の余裕がある内は、地形の不利を、解消して置くことが、望ましくはある。
「では。前衛と私とで、属性放出で、牽制を」
「グッ、グオッ、ウゥ、ウォツ」
(よし。大丈夫。略仮想体力を削って居ないから。数回の属性放出では、割らないわね)
シルディア一党が前衛を中心に、属性放出で、パランドゥス形を牽制しつつ、『石筍突出様範囲属性攻撃(土・地)』が跡の処理を行う中。後衛は、各種補助技能系統を、貼り直し。そうして、また、後衛の技能系統待機時間が、過ぎる。
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
(ん。当たるね。これで、三割を割るな)
「グゥオオッ、ウォオオッ。グォオオオオーッ。グォ、ググ、グァ、グゥ、ウォ、ウァ、ウッ、ブ。グゥン、ウゥ」
(透明化。いや、周囲の風景等を写影しているのかな)
「ん。総員。属性放出で再現する泥水に、着色を。硬直中から当て始めるよ。とはいえ、後衛は、『範囲属性攻撃(木)』による拘束狙いが中心なのは、変わらないけれどもね」
パランドゥス形は、最初から暗い半透明で、大部屋の色に近かったけれども。前回の形態変化で大部屋が色に近づき。今回の形態変化で、周囲の風景等を写影、目視が困難に。
属性要素由来着色泥水は、純雑質が品質的に壁床天井へは、付着し続けず除去が容易。
「グゥオッ、グゥオッ。ウゥ、ウウ、ウッ、ウ、フ」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「グォ、ググ、グゥ、ウォ、ウウ、ウゥ、ブォ、ブ。フ」
(硬いままか。『防御的属性纏(土・地)』は継続と。では、速度は上がらないのかな。しかし、多彩な泥水で、多少着色したところで、どの様な形態をしているのか。近接戦闘時には、気を付けないとね。まあ。基本的に、此方に背を向けているのだろうけれども)
パランドゥス形は、土・地属性のため。有利な土・地、水属性着色泥水は、仮想体力を回復させまではしないものの多少吸収され、形態回復用に仮の器を構成する一部となる。
「グゥオッ、グゥオッ。ブォ、ブ、ブ、ブ」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
(一回でも当たれば、拘束が出来てと)
「グォ、ググ、グッ、グゥ、ウォ、ウゥ、ブッ、ブ、ウゥ、ウゥ」
前衛の近接属性攻撃の後、後衛が、技能系統待機時間に関係ない、着色泥水を当てる。
「グゥオッ、グゥオッ。ウ、ウッ、ブゥ、ブ」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』、『範囲属性攻撃(木)』」
「ウォオオッ。ブォオッ。グォ、グッ、グゥ、グ、ウォ。ウ、ウゥ」
(此方に向かっていたのね)
「一割警戒。前衛は、属性放出で着色を。後衛は、『範囲属性攻撃(木)』での拘束を」
「ウゥ、ウッ、ウ、ウ、ウ、ウ。グゥオッ、グゥオッ」
「『範囲属性攻撃(木)』は一撃ずつで」
「『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』」
「ウッ、ウゥ、ウ、ウ。グゥオオッ、ブゥオオ。グォオオオオーッ。グォ、グォ、グッ、グゥ、ウゥ、ウォ、ブォ、ブ」
(一割を割ったね。洞角を移動式砲台に。ん。継続回復技能系統を、一割までとはいえ)
「後衛は時宜を見て」
「『範囲属性攻撃(木)』」
「『範囲属性攻撃(木)』」
「グゥオオォ、ブゥオオァ。グゥオッ、グゥオッ。ウゥ、ウ、グォ、グォ、ウォ、ウゥ、ブォ、ブッ、ブ、ブ」
(足りないか)
「『封印』、『封印』」
(洞角の移動式砲台は、沈黙と。ん。本体も『封印』状態ね)
「ん。しかし、『封印』するなら『封印』するで、もっと早くて良かったのではないか」
「二割弱では早過ぎて。それで。『範囲属性攻撃(木)』の拘束で、終わらせるのかな」
『防御を捨てて、更に高速化する形態変化だったのかな』
『封印』状態なので、パランドゥス形を、目視可能になっている。
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