第2話

 問題集を開くと、チカイチはそれを目で追い始める。親方がちらりとチカイチの方を見た。

「チカイチ、お前本当に試験を受けるつもりなのか」

「何回も言ってるじゃん、オレは親方の跡を継ぎたいんだって。となれば、業者の資格は必要だろ」

 廃夢回収業資格は、れっきとした国家資格だ。

 夢をエネルギーとしてリサイクルするようになってから、新しく生まれた資格だった。情報がエネルギーであるというのは、ミクロな世界ではずっと前に証明されていた話だ。それを取り出して利用する方法が見つかった結果、不要になった夢は情報としてエネルギーリサイクルの対象となった。夢というかつての情熱は、まさしく情報の熱、だったのだ。

 チカイチは、この資格取得を目指していた。

資格を取得すれば、親方のように自分で夢を処理する仕事ができる。今のチカイチはあくまで助手でしかないから、回収した夢を夢の島に廃棄することすらやらせてもらえない。だからこうして、助手席で試験勉強にいそしんでいるのだった。

「親方、なんか問題出して」

「はあ? しょうがねえなあ。じゃあ一問目、廃夢集積事業所に集められた夢は、持ち出すことができない」

「マル。個人情報および夢廃棄法の十五条。簡単すぎだろ」

「二問目。廃夢回収業者資格がないと、夢を回収できない」

「んーと、バツ。回収は誰でもできる。夢の島への廃棄は業者じゃないとできない」

「三問目。廃夢回収業者資格証は、トラックの左前に表示しなければならない」

「マル。お客さんから見やすい方、つまり歩道側に表示」

 ちらりと助手席前の資格証を見る。

 羽田翼、とかいう漫画の主人公っぽい名前が記載してあるが、これが親方の本名だ。

「バツだ。業者がトラックとは限らねえだろ」

「ひっかけじゃないか、きたねーぞ」

「ひっかけ問題に簡単にひっかかる奴が、夢を扱う業者になれるもんかよ」

 ハンドルを握ったまま、親方がタバコに火をつけた。

「ほかの仕事もしてみちゃどうだ。お前はこれしか知らないだろうが、世の中には色んな商売がある。廃夢回収なんて綿くず集めるような仕事、大した仕事じゃない」

 親方にとって、夢はぬいぐるみに詰める綿の固まりに見えるらしかった。綿菓子といい綿といい、そういうふわふわした見た目なのは間違いない。

「いっつもそうだよな、親方。オレに跡を継いで欲しくないのかよ」

「そうだよ。儲からねえからな、この仕事。どうせなら、稼げる仕事につけばいい」

 儲からないと言いながら、親方はなぜか長年廃夢回収を続けている。

「無理だよ。オレ勉強できないし、サービス業とか営業とかもできそうにないし。それにさ、オレ親方に飯食わせてもらって大きくなったから、同じ仕事がしたいんだよ」

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