はねだ廃夢回収車

田村 計

第1話

 ぐすぐすと鼻の頭を赤くして、女子高生が白い小さな箱に、夢を入れた。

 箱の中の夢は薄いブルーの綿菓子のように見える。きっちりふたを閉め、いとおしそうに箱の上から一回なでると、女子高生がそれをチカイチに差し出した。

 くったくのない笑顔で箱を受け取り、チカイチは軽トラックの荷台にのせる。荷台には、ほかにもいくつか白い箱が積み込まれていた。

「ほい、古い夢、確かに回収しました」

「あの、それで」

「分かってますって、引き換えでしょ? 手軽なものならマイナポイント、おばちゃんたちはトイレットペーパーやちり紙かな。でもアレでしょ、今流行ってるやつ」

「そういうのじゃなくって、アレ! 涙の香りのバスソルトください、交換でしかもらえないんでしょ」

「毎度あり!」

 荷台から水色の小袋を取り出すと、チカイチは女子高生に渡す。

 テレビかなにかで紹介されたらしく、この廃夢回収オリジナルのバスソルトは、女子高生の間で人気だ。使うと恋が叶うとか、新しい彼氏が見つかるとか、そんなまじないめいた噂が広まっているらしい。

「それじゃ、ご協力ありがとうございます! また不要な夢が出たら、よろしくね」

 ひらひら手を振って、チカイチはトラックの助手席へと乗り込んだ。その頭にゴツンとげんこつが降って来る。

「いって! 何すんだよ親方」

「敬語を使えって言ってるだろうが。バカタレ」

 口をへの字に曲げ、親方がアクセルを踏む。

 おんぼろの軽トラックだが、よく手入れされているからエンジン音は軽い。少し広い通りまで走ったところで、トラックは歩行者ほどに速度を落とした。助手席から手を伸ばし、チカイチは手慣れた仕草でフロントパネルのボタンを押す。

『毎度おなじみ、ピンクの小鳥が目印の、はねだ廃夢回収車です』

 やわらかい女性の声が、荷台に積んだスピーカーから流れ始める。

『みなさまの不要になりました、古い夢、半端な夢、引き取り手のない夢、壊れていてもかまいません。お声をおかけくだされば、すぐに回収にまいります』

 聞きなれたその声をBGM代わりに、チカイチは助手席で問題集を開く。

「朝っぱらから、堂々と仕事さぼんじゃねえ」

 そう親方がぼやく。

「さぼってねーだろ。いくら三月だからって、続けて声がかかるなんてないんだしさ」

 春のこの時期は、一年で一番回収量が多い。入学試験に卒業式に転勤、人生の節目に新しい夢が生まれ、同時に捨ててゆく夢が増える季節でもあるからだ。それでも、次から次に回収が必要、ということにはならない。一日に二十かそこら、多くても四十ほどの夢を回収できれば、まあまあ上等といったところだ。

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