第8話 深夜の賭場と危険な大勝負

氷の神殿を守った俺たちは、麓の城下町で一夜を過ごすことになった。


「寒いですね……」


『北の街だから仕方ないわね』


『でも、街の人たちは慣れてるみたいですよ』


ウミちゃんの案内で街を歩いていると、確かに寒さに負けず活気がある。


「でも、昼間より夜の方が人が多くないですか?」


『そうなの。寒いから、みんな夜は屋内で過ごすのよ』


『どんなことしてるんですか?』


『えーっと……』


ウミちゃんが少し困ったような顔をする。


「何かあるんですか?」


『実は、この街はギャンブルが盛んなの。賭場がたくさんあって……』


「ギャンブル!」


俺の目が光った。お金を増やすチャンス?


『でも健太くん、そういうのは危険よ』


「ギャンブル?よく分からないけど、ソラちゃんが危険って言うなら……」


『ウミちゃんはどう思いますか?』


『正直、ろくなもんじゃないわ。地元の人でも借金まみれになる人が多いの』


「そうなんですか……」


残念だが、二人が反対するなら仕方ない。


「分かりました。大人しく宿で休みましょう」


-----


その夜、宿の部屋で——


「すー、すー……」


『すー、すー……』


ソラちゃんとウミちゃんが安らかに寝息を立てている。


俺はそっとベッドから抜け出した。


「ちょっとだけ……金貨1枚だけなら……」


二人には悪いけど、どうしても気になってしまう。それに、お金に余裕があった方が二人を幸せにできるはずだ。


俺は静かに部屋を出て、街に向かった。


-----


夜の街は昼間とは全く違う顔を見せていた。あちこちから笑い声や怒鳴り声が聞こえてくる。


「あった……」


大きな看板に「大当り賭場『氷月』」と書かれている。入り口には屈強な男たちが立っていた。


「初めてかい、お客さん?」


「は、はい……」


「こちらへどうぞ」


中に案内されると、そこは別世界だった。大きなテーブルがいくつも並び、人々が興奮しながらサイコロやカードに興じている。


「何をお楽しみになりますか?」


「えーっと……一番簡単なやつで」


「でしたらサイコロはいかがですか?偶数か奇数かを当てるだけ。1回金貨1枚です」


「それでお願いします」


-----


「金貨1枚だけ……これで帰ろう」


俺は金貨1枚をテーブルに置いた。


「偶数に賭けます」


サイコロが転がる。結果は——


「4!偶数です!お客様の勝ち!」


金貨が2枚になった。


「おお……」


「続けますか?」


「もう1回だけ……」


今度は奇数に賭ける。結果は3。また当たった。


金貨4枚。


「すごいですね、お客様。流れが来てますよ」


「もう1回……」


気がついたら、俺はゲームにのめり込んでいた。


偶数、当たり。奇数、当たり。偶数、当たり……


「すげえ、あの客、10連勝だ!」


「マジかよ……」


周りに人だかりができ始めた。


-----


1時間後——


「金貨……150枚!?」


テーブルの上には金貨が山積みになっていた。1枚から始めて、まさかここまで増えるとは。


「お客様、すごい引きですね」


ディーラーの笑顔が少しこわばっている。


「あの……もうやめておきます」


「そうですか?まだまだ運が続きそうですが……」


俺が金貨をかき集めようとした時、背後に気配を感じた。


振り返ると、黒いスーツを着た怖そうな男たちが数人、俺の後ろに立っていた。


「……」


「……」


無言のプレッシャー。これはやばい。


「あの……帰ります」


「お疲れ様でした。またのお越しをお待ちしております」


ディーラーの笑顔が、どこか冷たい。


-----


賭場を出た俺だったが、後ろからついてくる足音が聞こえる。


「やばい……このまま宿に帰ったら、ソラちゃんたちに迷惑がかかる」


それに、絶対に怒られる。


「転移石だ!」


俺は転移石を取り出し、魔力を込めた。目的地は、以前買い物をした村。


「転移!」


青い光に包まれ、俺の姿が消えた。


-----


転移先の村は深夜だったが、まだ開いている店があった。


「すみません!転移石を2個、それとアクセサリーを……」


「こんな時間に?まあ、お客様ですし……転移石2個で金貨100枚、アクセサリーはどちらに?」


「あの星形のブローチを」


俺は以前ソラちゃんが欲しがっていたブローチを指差した。


「あ、あれですか。金貨25枚になります」


「はい、合計125枚ですね」


金貨150枚-125枚=25枚


まだ25枚も残った!


「ありがとうございました」


俺は急いで購入を済ませ、転移石の1つを使って氷の神殿城下町に戻った。


-----



宿の部屋に戻ると、まだ夜明け前だった。


ソラちゃんとウミちゃんは安らかに眠っている。


「良かった……バレなかった」


俺はそっとベッドに潜り込んだ。


手元には:

・転移石×1個(金貨50枚相当)

・星形ブローチ(金貨25枚相当)

・金貨24枚(純利益)


「すげえ……金貨99枚分の価値になった」


元手1枚から考えると、とんでもない利益だ。


「でも、もう二度とギャンブルはしないぞ……」


あの怖い人たちの顔を思い出して、俺は身震いした。


-----



「おはようございます、健太くん」


『おはよう、健太さん』


「おはようございます」


俺は何食わぬ顔で挨拶した。


「今日はどうしましょうか?」


『次の封印の場所に向かいましょう』


「そうですね。準備もできてますし」


『健太くん、なんだか今日は機嫌がいいわね』


「そ、そうですか?」


『何かいいことでもあったの?』


「いえいえ、そんなことは……」


危ない。バレそうになった。


「ただ、二人と一緒に旅ができて嬉しいだけです」


『ふふ、健太さんって素直ね』


『健太くん、優しいのね』


二人が微笑む。


俺は胸ポケットに隠したブローチを確認した。いつかソラちゃんに渡そう。でも、どうやって渡せばいいんだろう……


「賭場なんて行ったことがバレたら、どう説明すれば……」


『健太くん、何かブツブツ言ってるけど?』


「あ、いえ!何でもありません!」


『変なの』


こうして、俺の長い夜は終わった。


大金を手に入れたものの、それ以上に疲れた夜だった。


でも、ソラちゃんへのプレゼントも用意できたし、転移石も確保できた。


今度からは、もっと安全な方法でお金を稼ごう。


そう心に誓いながら、俺たちは次の目的地に向けて出発した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る