第9話 王都への道のりと夜の闖入者


氷の神殿城下町を出発し、俺たちは次の目的地について話し合っていた。


「それで、次の封印の場所はどこでしたっけ?」


『一番近いのは天空の観測所なんだけど……』


ウミちゃんが困った顔をする。


「天空の観測所?」


『空に浮かぶ魔法の研究所なの。そこを守っているのは「星詠みの魔女アストラ」っていう、めちゃくちゃ魔力の強い魔女なのよ』


『どのくらい強いんですか?』


『魔王軍もそう簡単にはたどり着けないんじゃないかな?ってくらい強いって聞いたことがあるわ。魔法の試練とか、空中戦とか……』


「それは心強いですけど、俺たちもたどり着けるか不安ですね」


『そうなの。味方だから安全だけど、会うこと自体が難しいのよ』


「他に封印の場所はありますか?」


『王都の地下神殿っていうのもあるわ』


「王都!それなら道中も安全そうですね」


『でも王都までは結構遠いのよ。徒歩で1週間はかかるわ』


『途中で村はありますけど、全部に宿があるとは限りません』


「1週間か……長旅になりますね」


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「それなら、こういうのはどうでしょう?」


俺は提案した。


「積極的な金策は、次の村で寝床を確保してからにしませんか?」


『積極的な金策?』


「はい。雑魚狩りとか、モンスター退治とか、体力を使う稼ぎ方です」


『なるほど、野宿中に疲れてたら危険ですものね』


「そういうことです。今回は移動優先で、お金稼ぎは次の機会に」


『賢明な判断ですね』


ウミちゃんが頷く。


「でも、万一に備えて交代で見張りはしましょう。野宿だと何が出るか分からないですから」


『分かりました』


『はい!』


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歩き始めて丸一日。予想通り、途中に宿のある村はなかった。


「やっぱり野宿になりましたね」


『寒くないところを探しましょう』


ウミちゃんの案内で、風を遮る大きな岩の陰に寝床を作った。


「焚き火の準備はできました」


『私、温かいスープを作りますね』


「俺は薪集めを続けます」


暗くなる前に、それぞれ準備を進める。


『健太さん、お疲れ様です』


ウミちゃんが作ってくれたスープは、野宿とは思えないほど美味しかった。


「ウミちゃん、料理上手ですね」


『ありがとうございます。神殿にいる時から、自分で作ってましたから』


『私も手伝えばよかった……』


「ソラちゃんは魔法で火をおこしてくれたじゃないですか」


『そうだけど……』


「みんなで役割分担すれば、野宿も怖くないですね」


-----



夜になり、見張りの時間を決めた。


「最初は俺が見張ります。次にウミちゃん、最後にソラちゃんで」


『無理しないでくださいね』


『何かあったらすぐに起こして』


二人が寝袋に入り、俺は焚き火の番をしながら辺りを警戒した。


静かな夜だった。虫の声と、焚き火のパチパチという音だけが響いている。


「平和ですね……」


俺はポケットの中のブローチを触った。いつソラちゃんに渡そうか、まだ迷っている。


「サプライズで渡すか、それとも何かの記念日に……」


そんなことを考えていた時だった。


-----


「ガサガサ……」


後ろの茂みから音がした。


「え?」


俺は振り返る。最初は風で枝が揺れているのかと思ったが——


「ガサガサ、ガサガサ……」


明らかに何かがいる。しかも、だんだん近づいてくる。


「ソラちゃん、ウミちゃん……」


小声で呼びかけようとした時、茂みから何かが飛び出してきた。


「うわあ!」


それは……真っ白な毛玉?


「ぴゃー!ぴゃー!」


可愛らしい鳴き声を上げながら、毛玉が俺の膝の上に飛び乗ってきた。


「え?なにこれ?」


よく見ると、小さなウサギのような生き物だった。雪のように白い毛で、目がくりくりしている。


「ぴゃー、ぴゃー」


まるで甘えるような声で鳴いている。


『健太くん?どうしたの?』


音に気づいたソラちゃんが起きてきた。


「あ、ソラちゃん。この子が……」


『わあ!可愛い!』


ソラちゃんの目がキラキラ光る。


『何この子?すっごく可愛い!』


『どうしたんですか?』


ウミちゃんも起きてきた。


『あら、シロウサギちゃんね』


「シロウサギ?」


『この辺りに住んでる魔法動物よ。人懐っこくて、とても可愛いの』


「ぴゃー、ぴゃー」


シロウサギが俺の腕の中で甘えている。


『健太くん、気に入られたのね』


「そうみたいですね……でも、なんで俺のところに?」


『きっと焚き火が暖かくて、寄ってきたのよ』


「ああ、寒かったのか」


俺はシロウサギを優しく撫でる。ふわふわで、とても気持ちいい。


-----



「ぴゃー、ぴゃー」


シロウサギは俺の膝の上で丸くなって、眠ってしまった。


『可愛すぎる……』


ソラちゃんが目を細めている。


『このまま一緒に連れて行きましょうか?』


「え?でも……」


『シロウサギは頭がいいのよ。道案内とかもしてくれるって聞いたことがあるわ』


「本当ですか?」


『ええ。それに……』


ウミちゃんが微笑む。


『とても可愛いから、旅の癒しになるわよ』


「確かに……でも、ちゃんと世話できるでしょうか?」


『大丈夫よ。シロウサギは野生動物だから、基本的に自分で何でもできるの』


「ぴゃー……」


寝言のような鳴き声。本当に可愛い。


『健太くん、この子も仲間に入れてあげましょう?』


「そうですね……よろしく、シロウサギ」


俺は小さく呟いた。


『名前をつけてあげましょう』


「名前?」


『そうよ。せっかく仲間になるんだから』


『何がいいかしら……』


「うーん……白くて、可愛くて……」


「ぴゃー」


その時、シロウサギが鳴いた。


「ピャー……ピャー……」


「ピャーちゃん、なんてどうですか?」


『ピャーちゃん!いいですね!』


『可愛い名前ね』


「ぴゃー!」


ピャーちゃんも嬉しそうに鳴いた。気に入ってくれたようだ。


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その後は何事もなく夜が明けた。


「おはようございます」


『おはよう、健太くん』


『おはようございます』


「ぴゃー!」


ピャーちゃんも元気よく鳴いている。


『この子、本当に人懐っこいのね』


ソラちゃんがピャーちゃんを撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。


「それじゃあ、今日も王都に向けて出発しましょうか」


『はい!』


『ピャーちゃんも一緒に頑張りましょうね』


「ぴゃー!」


こうして俺たちの旅は続く。


新しい仲間も増えて、なんだか家族のような温かさを感じていた。


でも、この平和がいつまで続くかは分からない。


王都への道のりは、まだ始まったばかりだった

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推しが異世界にいたんだが? 〜Vtuberそっくりな少女と世界を救う物語〜 Textria @textria

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