第7話 氷の神殿と歌姫との出会い

氷の神殿に向かう道中、俺たちは森の中を歩いていた。


「順調ですね、ソラちゃん」


『そうね。でも油断は禁物よ』


「もちろんです。魔王軍に遭遇する可能性も——」


その時、茂みの向こうから足音が聞こえてきた。


「来ましたね……」


俺たちは身構える。現れたのは、やはり魔王軍の兵士たち。5人ほどの小隊だ。


「発見したぞ!あの青い髪の女だ!」


「金貨でパワーアップする勇者とその仲間だな!」


『あれ?私たちのこと知ってる?』


「どうやら有名になってしまったようですね」


俺は金貨を取り出そうとしたが——


「撤退だ!撤退!」


「中ボス級以下は関わるなって命令が出てる!」


「逃げろ!」


魔王軍兵士たちは、俺たちを見るなり慌てて逃げ出した。


「え?逃げた?」


『なにそれ……』


「まあ、戦わずに済むなら助かりますが」


-----



その後も道中で魔王軍の偵察兵に何度か遭遇したが、全て同じパターンだった。


俺たちを見つける→「あの金貨勇者だ!」→即座に逃走


「完全に有名になってしまいましたね」


『金貨勇者って……なんか恥ずかしい呼ばれ方ね』


「でも考えてみれば、これは困ったことになりました」


『どうして?』


「雑魚敵が逃げちゃうってことは、お金稼ぎができないってことです」


そうなのだ。昨日の買い物で金貨34枚も使ってしまった俺たちには、追加の収入が欲しかった。特に、ソラちゃんへのプレゼント代も貯めたいし。


「中ボス級なら逃げないでしょうけど……」


『でも中ボス級って、コストがかかるのよね?』


「そうなんです。赤スパや虹スパを使わないと倒せないから、コスパが悪いんですよ」


俺は頭を抱えた。


「せっかく稼ぎたかったのに……」


『健太くん、お金のことばかり考えてちゃダメよ』


「そうですね。まずは氷の神殿の封印を守ることが優先です」


気を取り直して、俺たちは神殿を目指した。


-----


夕方、俺たちは氷の神殿に到着した。


「うわあ……すごい」


神殿全体が青白い氷で覆われており、美しく光っている。まるで氷の宮殿のようだ。


『綺麗ね……でも寒い』


「防寒対策、しておけばよかったですね」


神殿の入り口に近づくと、美しい歌声が聞こえてきた。


『あ、誰かいる』


歌声の主は、神殿の階段に座って歌を歌っている少女だった。


青い髪に白いドレス……あれ?ソラちゃん?


いや、よく見ると違う。髪の色はより深い青で、ドレスのデザインも少し違う。そして何より——


「あの子……ウミちゃん?」


『ウミちゃん?』


「あー、えーっと……昔夢で見た海の歌姫です」


実際は、現実世界でソラちゃんとよくコラボしていたVtuber「海音ウミ」ちゃんにそっくりだった。ソラちゃんがお休みの日によく見に行っていた、歌の上手い子だ。


歌が終わると、少女が振り返った。


『あら、お客様?』


「すみません。私たちは——」


『あ!もしかして勇者様ですか?』


ソラを見て、少女の目が輝いた。


『私はウミ。この氷の神殿を守っています』


「やっぱりウミちゃん……じゃなくて、ウミさんですね。私は健太、こちらはソラです」


『ソラさん!素敵な名前ですね。私と似てる!』


『ウミちゃんも素敵よ』


二人が微笑み合う。現実世界でもコラボ相手だった二人が、異世界でも仲良くなるなんて不思議だ。


-----



『健太さん、ソラさん、ちょうど良かった!実は大変なことが起きてるんです』


「大変なこと?」


『魔王軍の中ボス級が、この神殿を狙ってるんです。さっきから何度も偵察に来てて……』


その時、神殿の奥から重い足音が響いてきた。


「来ましたね……」


現れたのは、全身が氷の鎧に覆われた騎士。明らかに今まで戦った敵とは格が違う。


『氷騎士ガルディア……ついに本体が来たのね』


「氷騎士?中ボス級ですか」


『ええ。一人では到底敵いません』


「分かりました。俺たちも手伝います!」


俺は金貨を取り出した。


「ソラちゃん、金貨5枚の赤スパ!」


『了解!』


ソラの魔法が氷騎士に命中するが、氷の鎧に阻まれてダメージが少ない。


「効いてませんね……」


『この敵、魔法耐性が高いのよ』


「じゃあもっと威力を……金貨10枚追加!」


でも結果は同じ。氷騎士はびくともしない。


「くそ、このままじゃ虹スパを使うことになる……」


-----



その時、ふと思いついた。


「そういえば、ウミちゃんにもスパチャできるのかな?」


『え?』


「試しに……ウミちゃん!金貨3枚のスパチャ!」


俺が金貨を投げると、ウミの体が黄色い光に包まれた。


『あら!体が軽くなって、魔力が湧いてくる!』


「やった!効果あります!」


『それじゃあ、歌わせてもらうわね!』


ウミが美しい声で歌い始める。それは戦闘用のバフ魔法の歌だった。


『~氷よ砕けて、炎よ宿れ~』

『~勇気ある者に力を与えよ~』


歌声と共に、ソラの体が金色の光に包まれる。


『すごい!力が何倍にもなってる!』


「これだ!ウミちゃんのバフ効果でソラちゃんが強化される!」


『健太くん、今よ!』


「分かりました!ソラちゃん、金貨5枚スパチャ!」


今度は効果が違った。ウミの歌で強化されたソラの魔法が、氷騎士の鎧を貫いた。


「ぐわああああ!」


氷騎士が膝をついく。


「よし!ウミちゃんにもう一度!金貨5枚スパチャ!」


『ありがとうございます!もう一曲いきます!』


『~星よ輝け、希望を照らせ~』

『~愛ある心に奇跡を呼べよ~』


さらに強力なバフ効果。ソラが光の塊のように輝いている。


『いくよ!聖なる氷結破砕弾!』


ソラの必殺技が氷騎士を直撃。氷の鎧が砕け散った。


「やりました!」


-----



氷騎士を倒した後、俺たちは神殿の中で休憩していた。


「いやあ、ウミちゃんの歌、すごかったです」


『ありがとうございます。でも健太さんの不思議な力がなければ、私一人では何もできませんでした』


「俺のスパチャが、ウミちゃんにも効くなんて思いませんでした」


『スパチャ?』


「応援にお金を添える技です。ソラちゃんだけでなく、ウミちゃんにも効果があるみたいですね」


『すごい力ね』


「今回の戦いで分かったことがあります」


俺は興奮気味に話した。


「一対一より、チーム戦の方が効率がいい!ウミちゃんのバフ効果で、ソラちゃんの魔法の威力が格段に上がりました」


『確かに。一人で戦うより、みんなで協力した方がいいわね』


『私も、お二人と戦えて楽しかったです』


「これで氷の神殿の封印も守れましたし、一石二鳥ですね」


戦利品も確認してみると、氷騎士からは金貨20枚、銀貨30枚がドロップしていた。


使った金貨:13枚

手に入れた金貨:20枚


「おお、黒字じゃないですか!」


『健太くん、またお金の計算してる』


「だって大事ですよ。これでソラちゃんのプレゼント代も少し貯まりました」


『プレゼント?』


「あ、えーっと……いつか、ですよ」


『健太さん、ソラさん、とても仲が良いのね』


ウミがにっこり笑う。


『私、お二人を見てると、とても幸せな気持ちになります』


「ありがとうございます」


『それより、これからどちらに?』


「次の封印の場所に向かいます」


『そうですか……寂しくなります』


ウミが少し悲しそうな顔をする。


「ウミちゃん、一緒に来ませんか?」


『え?』


「今回の戦いで分かりました。ウミちゃんがいれば、俺たちはもっと強くなれます」


『でも、私は神殿を守らないと……』


「封印は守れたし、当分は大丈夫でしょう。それに——」


俺はソラを見る。


「ソラちゃんも、ウミちゃんと一緒の方が楽しいでしょ?」


『もちろん!ウミちゃん、一緒に旅しましょう?』


『本当に?嬉しい!』


ウミの顔が輝く。


『はい!喜んでお供させていただきます!』


こうして俺たちのパーティーに、新しい仲間が加わった。


歌で戦う美少女ウミちゃん。きっと今後の冒険が、もっと楽しくなるだろう。


そして俺のスパチャも、二人分使えるようになった。


「これは、ますますお金を稼がないといけませんね」


『健太くん、またお金の話?』


『健太さんって面白い方ですね』


二人に笑われながら、俺は心の中で計算していた。


ソラちゃんとウミちゃん、二人分のスパチャ……


これは確実に、金策が必要だ。


でも、推しが二人に増えたと考えれば、最高の状況じゃないか。

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