第2話 最初の冒険・村を救う


「うわああああ!」


魔王軍の兵士が振り下ろした剣を、俺は転がって回避した。


「健太くん、危ない!」


ソラが手を振ると、光の玉が兵士に命中し、奴は吹き飛んでいく。


「すげえ!ソラちゃん、魔法使えるんですね!」

『当たり前でしょ!私だって戦える!』


そう言いながら、ソラは華麗に宙を舞いながら次々と魔法を放つ。まさに天使の戦いっぷりだ。

でも敵の数が多い。俺たちだけじゃ……


「くそ!何か、何かできることは——」


その時、俺の脳裏にソラちゃん(Vtuber)の言葉がよぎった。

『皆さんの応援があるから、私頑張れます!』

応援……そうだ!でも、ただ声援を送るだけじゃダメな気がする。

俺はポケットに手を入れた。あ、そうだ。昨日コンビニで買い物した時のお釣り、500円玉が入ったままだった。


「これしかないけど……でも、これってスパチャできるかな?」


俺は500円玉を空中に掲げた。


「ソラちゃん!スーパーチャット500円!頑張れ!」


すると500円玉が青い光の粒子になって消え、ソラの体が淡く光り始めた。


『え?なにこれ……体がすごく軽い!力が湧いてくる!』

「やった!異世界でもスパチャ機能が使える!」


俺のスパチャと共に、ソラの魔法の威力が明らかに上がっている。一発で敵を複数体倒せるようになった。


『すごい!こんな力、初めて!健太くんの……なんていうの?』

「スーパーチャット、略してスパチャです!YouTubeとかで配信者に投げ銭する機能なんですが……」

『スパチャ……投げ銭?』

「要は、応援したい人にお金を送って応援することです!金額が多いほど、気持ちも強く伝わるんです!」

「俺も一緒に戦う!」


そう言って俺は……何をすればいいんだ?武器もないし、魔法も使えないし。

でも、俺にできることがある。


「ソラちゃん!右から敵が来てる!」

『ありがとう!』

「後ろ!後ろに回られてる!」

『わかった!』


俺はソラのサポートに徹した。敵の位置を教えたり、危険を知らせたり、そして——

でも500円はもう使ってしまった。お金がない。


『あれ?さっきより力が弱くなった……』

「お金がないからです……500円しか持ってなくて」


その時、俺の足元に何かが転がってきた。倒れた魔王軍兵士から落ちた、この世界のお金らしい。金貨と銀貨だ。


「これは……異世界の通貨?」


俺は銀貨を一枚手に取り、空中にかざした。


「ソラちゃん!銀貨1枚スパチャ!」


銀貨が白い光になって消え、ソラの力が少し戻った。でも500円の時ほどではない。


「金額によって効果が違うのか……」


俺は金貨を手に取った。


「ソラちゃん!金貨1枚スパチャ!」


今度は黄色い光。さっきより強い効果だ。


「ソラちゃん!金貨5枚まとめてスパチャ!」


俺が金貨をまとめて投げると、今度は赤い光に包まれた。これは赤スパだ!


『わあ!すごい力!』


ソラの最後の一撃が超強力になり、魔王軍の兵士たちは全て倒れた。


「やった!勝った!」


俺は思わずソラに抱きついてしまう。


『きゃ!健太くん!』

「あ、す、すみません!つい勢いで!」


顔を真っ赤にして離れる俺。でもソラは微笑んでいた。


『ありがとう、健太くん。あなたのスパチャがあったから勝てた』

「俺は金を出しただけですよ。ソラちゃんが強かったんです」

『そんなことない!』


ソラは首を振る。


『さっき、健太くんがスパチャ?してくれた時、心の奥から力が湧いてきたの。まるで……』

「まるで?」

『まるで、健太くんの想いが込められてるみたいだった』


繋がってる……まさか、俺の応援がソラの力を引き出してるのか?


「とりあえず、村の人たちが心配です。見に行きましょう」

『そうね!』


村に着くと、案の定大変なことになっていた。建物の半分が燃えて、村人たちが怯えている。


「大丈夫ですか!」


俺とソラが駆け寄ると、村長らしい老人が振り返った。


『おお、ソラ様!』

「ソラ様?」

『ソラ様がいらしてくださったか!助かりました!』


どうやらソラは有名人らしい。村人たちが次々と集まってくる。


『皆さん、怪我はありませんか?』


ソラが優しく声をかけると、村人たちの表情が明るくなる。


「あの子、天使みたいだ」

「ソラ様がいれば安心だ」


村人たちの声を聞いて、俺はほっこりした。現実でも異世界でも、ソラちゃんは皆に愛されてるんだな。


『村長さん、魔王軍はどちらに?』

『北の山に向かったようです。おそらく「封印の神殿」を狙っているのでは……』

「封印の神殿?」


俺が首をかしげると、ソラの表情が急に曇った。


『健太くん、急がなきゃ!』

「え?」

『封印の神殿には、この世界を守る大切なものが眠ってるの。もし魔王軍に奪われたら……』


ソラの顔が青ざめる。相当やばいことらしい。


「分かりました。行きましょう」

『でも危険よ?健太くんは普通の人間だし……』

「大丈夫です」


俺はソラの手を握った。


「俺には、守りたい推し——じゃなくて、守りたい人がいます。だから絶対に負けません」

『健太くん……』


ソラが顔を赤らめる。可愛い。


「それに、俺たちコンビなら無敵でしょ?」

『コンビ?』

「はい。ソラちゃんは戦って、俺は応援する。完璧な役割分担です」

『ふふ、そうね!』


ソラが笑顔を取り戻した。よし、これで——


「あの、お二人とも」

村長が口を挟む。


『なんですか?』

「実は、封印の神殿に行くには「試練の洞窟」を通らなければなりません。そこには恐ろしいモンスターが……」

「モンスター……」


俺は少し不安になったが、ソラを見ると彼女は決意を固めていた。


『大丈夫。健太くんと一緒なら、どんな試練でも乗り越えられる』


そう言って、ソラは俺の手を握り返した。

「ソラちゃん……」


推しにこんなことを言われたら、俺も頑張らないわけにはいかない。


「分かりました。行きましょう、試練の洞窟へ!」


こうして俺たちの最初の本格的な冒険が始まった。だが、試練の洞窟で待っていたのは、予想以上の困難だった。


ーーー


「うわあ、暗いですね……」


試練の洞窟の入り口に立つ俺。松明の明かりだけが頼りだ。


『大丈夫よ、健太くん。私が守ってあげる』

「いや、俺が守りますよ!」

『ふふ、じゃあお互いに守り合いましょう?』

「それいいですね!」


相変わらず天使すぎる。これが現実なら、俺は世界一の幸せ者だ。

洞窟の奥に進んでいくと、さっそく敵が現れた。巨大なゴブリンだ。


「うおおおお!」

ゴブリンが棍棒を振り回す。


『きゃあ!』

ソラが後ろに下がる。


「ソラちゃん、魔法お願いします!」

『う、うん!』


ソラが光の玉を放つが、さっきより威力が弱い。


『あれ?おかしい……』

「どうしたんですか?」

『さっきみたいに力が出ない……』


そうか、俺の応援が足りないのか!

「ソラちゃん!頑張って!絶対勝てる!俺が付いてるから!」

『健太くん!』


俺の声援で、ソラの魔法の威力が上がった。ゴブリンが吹き飛ぶ。


「やったね、ソラちゃん!」

『ありがとう!健太くんの応援があると、本当に強くなれる!』


どうやら俺の「スパチャスキル」は本物らしい。これが俺の異世界での能力か。そして金額によって色と効果が違うことも分かった。


銀貨1枚=白スパ(弱)

金貨1枚=黄スパ(中)

金貨5枚=赤スパ(強)


「よし、システムが理解できました!でも、お金がもっと必要ですね」

『お金?』

「はい。強い敵と戦うには、たくさんスパチャしないといけません。でも旅をしていく上で旅費も必要だし……積極的にお金を稼がないと」

『雑魚狩りね!』

「そういうことです!」


その後も、様々なモンスターが現れた。巨大蜘蛛、毒ヘビ、岩石ゴーレム……

でも俺の応援があれば、ソラは無敌だった。


「ソラちゃん、最高!」

「その調子!」

「俺の推し——じゃなくて、俺の相棒は世界一だ!」


俺の声援を受けて、ソラは次々とモンスターを倒していく。

そして、洞窟の最奥で——


『あ……』


ソラが立ち止まった。


「どうしたんですか?」

そこには祭壇があり、美しい青い石が置かれていた。


『これ……「勇者の証」よ』

「勇者の証?」

『昔から伝わる伝説の石。真の勇者だけが手にできるって……』


ソラが石に手を伸ばすと、石が光り始めた。

『きゃあ!』


光に包まれるソラ。そして光が消えた時——


「うわあ!」


ソラの服装が変わっていた。白いドレスから、勇者らしい青いマントと軽装の鎧に。


『私……勇者に?』

「めっちゃかっこいいです!」


本当だ。ソラちゃんの勇者姿、超絶可愛い。これは新衣装だ!


『でも、なんで私が……』


その時、ソラの頭上に青い光の輪が現れた。

「え?それって……」


ソラは勇者の血を引く、特別な存在だったんだ。


『健太くん、私……』

「大丈夫です、ソラちゃん」


俺はソラの手を握る。


「勇者だろうが天使だろうが、ソラちゃんはソラちゃんです。俺の大切な——」


言いかけて、俺は口をつぐんだ。「推し」と言いそうになった。


「俺の大切な、友達です」

『友達……』


ソラが少し寂しそうな顔をする。あれ?何か間違えた?


『健太くん、ありがとう。あなたがいてくれるから、私は戦える』

「こちらこそ、ありがとうございます」


俺たちは微笑み合った。でも、この平和な時間は長くは続かなかった。

洞窟の外から、爆発音が響いてきた。


『魔王軍!封印の神殿に先回りされた!』

「急ぎましょう!」


こうして俺たちは洞窟を駆け抜けた。そして神殿で待っていたのは——

俺たちにとって、最初の本格的な戦いだった。

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