第1話 転生、そして出会い

「うわああああああ!」


気がついたら、俺は空を飛んでいた。

いや、正確には「落ちて」いた。


「なんで俺が空から落ちてるんだよ!?」


記憶を辿ってみる。確か、ソラちゃんの配信を見た後、コンビニに夜食を買いに行って、帰り道で大型トラックが……


「あ、死んだんだ俺」


妙に冷静に現状を把握する俺。でも冷静になってる場合じゃない!今まさに地面に激突しそうだ!


「誰か助けて——」

『大丈夫?』


突然、空中で俺の体が止まった。いや、誰かに抱えられている?

恐る恐る顔を上げると、そこには——


「え……ソラ、ちゃん?」


青い髪、白いドレス、キラキラした瞳。間違いない、俺の推しVtuber「星空ソラ」ちゃんにそっくりな少女が、俺を抱きかかえて空中に浮いていた。


『あ、意識が戻ったのね!よかった〜』

「え、ええええ!?本物のソラちゃん!?なんで!?どうして!?」

『ソラちゃん?私の名前、知ってるの?』


少女は首をかしげる。その仕草まで完璧にソラちゃんそっくりだ。


「あ、あの、貴女は……」

『私はソラ!この辺りの森を守ってるの。あなたは?』

「た、田中です!田中健太!」

『健太くんね!覚えた!』


にっこりと笑うソラ。俺の心臓が爆発しそうだ。推しが三次元にいる!しかも俺を抱きかかえている!


『ねえ健太くん、あなたってもしかして「異世界人」?』

「異世界人?」

『うん!時々、別の世界から人が転移してくるって聞いたことがあるの。みんな空から落ちてくるのよ』


なるほど、つまりここは異世界で、俺は転生したということか。ラノベでよくあるパターンだ。


でも問題は——

「え、あの、ソラちゃん、俺、空中にいるんですけど……」

『あ、そうね!降ろすね!』


ふわりと地面に降り立つ俺。改めてソラを見つめる。身長は俺より小さく、推定150センチくらい。年齢は十八歳前後だろうか。


「本当にソラちゃんそっくり……」

『ソラちゃんって、誰のこと?』

「え、あ、えーっと……」


まさか「あなたにそっくりなVtuberがいるんです」なんて言えるわけない。


「昔、夢で見た天使の名前です」


我ながら上手い嘘だ。


『天使かあ……嬉しいな!』


ソラは頬を赤らめて微笑む。可愛すぎて死にそうだ。


『それより健太くん、お腹空いてない?』


言われてみれば、確かに空腹だ。転生って体力を消耗するのだろうか。


「はい、実は……」

『じゃあ私の家に来る?手料理で良ければ、ごちそうするよ!』

「えええ!?いいんですか!?」


推しの手料理だと!?これが異世界転生の特典か!?


『もちろん!困ってる人を助けるのは当然でしょ?』


そう言って、ソラは俺の手を引いて歩き始める。

手が、繋がってる……推しと手が……


「あの、ソラちゃん」

『なあに?』

「ありがとうございます」

『ふふ、どういたしまして!』


こうして俺の異世界生活が始まった。まさか推しそっくりな少女と一緒に過ごすことになるなんて、神様もなかなか粋なことをしてくれる。


『健太くん、ここが私の家よ!』


そんなこんな考えてる間に、森の奥にある小さな木造の家。まるでおとぎ話に出てくるような可愛らしい建物だ。


「一人暮らしなんですか?」

『うん!でも寂しくないよ。森の動物たちがお友達だから』


家の中に入ると、確かに小さなリスやウサギが駆け回っている。まさに森の妖精みたいだ。


『はい、これ私の手作りシチュー!』

「うわあ、美味しそう……いただきます」


一口食べて、俺は感動した。これは確実にソラちゃんの味だ。いや、そんなもの知らないけど、きっとこんな味のはずだ。


「美味しい!すごく美味しいです!」

『本当?よかった〜!』


ソラの笑顔を見ながら食事をする。これが夢でないなら、俺は世界一幸せな男かもしれない。


「あの、ソラちゃん」

『なあに?』

「この世界のこと、教えてもらえませんか?俺、何も分からなくて」

『もちろん!』


ソラは少し真剣な表情になった。


『この世界は「アルカディア大陸」って呼ばれてるの。人間や精霊、魔法使いなんかが住んでる世界よ』

「魔法使い……」


さっき空を飛んでたし、魔法があるのは間違いないか。


『でもね、最近困ったことがあるの……』

「困ったこと?」

『「魔王軍」っていう悪い奴らが、あちこちの村を襲ってるのよ。森の動物たちも怖がってる』


魔王軍。これまた典型的な異世界ファンタジーの敵役だ。


「それは大変ですね……」

『私、実は——』


その時、家の外から大きな爆発音が響いた。


『きゃあ!』


ソラが俺の腕にしがみつく。推しとの距離がゼロに!でもそれどころじゃない状況らしい。


『魔王軍よ!もうこんなところまで!』

「え!?」


窓から外を覗くと、黒い甲冑を着た兵士たちが森を燃やしながら近づいてくる。


『健太くん、危険よ!急いで逃げましょう!』

「はい!」


俺たちは家の裏口から森の奥へ逃げ込んだ。でも足音が近づいてくる。


「こっちだ!逃がすな!」

「クソ、追いつかれる!」


前方に崖があった。もう逃げ場がない。


『健太くん……もう逃げられない』

「仕方ない……戦うしかありませんね」


推しを、ソラちゃんを守りたい。現実世界でも、異世界でも、俺の気持ちは変わらない。


『健太くん……』


ソラが俺を見つめる。その瞳に、何かが宿っているのを感じた。


「行きましょう、ソラちゃん。俺たちの力を合わせれば、きっと——」


だが、俺はまだ知らなかった。ソラの真の正体と、俺自身に眠る不思議な力について。

それを知るのは、この戦いの最中だった。

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