第1章 出会いと煌めき
夜明け前の、ひんやりとした風が吹く夜。
空を見上げると、あの日のような星々が沢山煌めいていた。
石造りの家々の煙突からは薄い煙がのぼり、朝を迎える準備をしている。
祈りのペンダントを握り締め、少女アストラは祈りの丘に立っていた。
アストラが祈りを捧げる丘は、村の外れにある小高い場所にある。幼い頃と変わらず彼女はそこで両手を組んで、星々に向かって村人たちの小さな祈りを捧げている。
――強い祈りは命を削る。
そう言って少女を遠ざけ恐れる者もいた。
それでもアストラは、祈りをやめることはなかった。
病に伏せる子の母親からもらった指輪、農夫が豊作を願って託した種の袋、旅立つ若者が残していった鈴の欠片。
そのすべてを胸に抱きしめ、ひとつひとつ星へと渡していく。
「母の病気が治りますように」
指輪はきらりと光り、その光は空へ浮かぶ星へと宿った。
「たくさんの作物が採れますように」
種の袋はきらりと光り、その光は空へ浮かぶ星へと宿った。
「新しい自分を見つけられますように」
鈴の欠片はきらりと光り、その光は空へ浮かぶ星へと宿った。
――みんなの祈りが願い星となり、叶いますように。
少女アストラは、自分の小さな祈りを捧げながら祈り星を眺めた。
遠くの星が、アストラの祈りに応えるように煌めいた。
丘を下りる頃には、村の広場に人々が集まり始めていた。夜が明けたのだ。
石畳の上に祈り星の台が並んでいる。子どもたちは走り回り、大人たちは祭りの準備に追われていた。
今年も祈星祭が近いのだ。祈星祭とは、百年前に初代採星師ノクティオスが祈り星を名付けた夜を祝う日。
アストラは少し離れた場所から、その光景を見つめていた。
「アストラ」
背後で、杖をつく音と共に声がした。振り返ると、アストラの祖母テストリアが立っていた。テストリアは三代目採星師であり、この村の村長でもある。テストリアはアストラにとっての憧れの存在であった。
「なあに、おばあさま」
テストリアは黙ってアストラの前に袋を差し出す。中身を覗くと、干した薬草が入っていた。
「そろそろお前にも話さなければならない頃だと思ってな。これを煎じて飲みなさい。採星師は多くの人間の祈りを抱える。強く祈りすぎるとおまえは祈り病にかかり死ぬ。」
袋を渡しながら、近くの岩へと腰を掛けた。
祈り病とは、採星師がよくかかる病気だ。人々の祈りが大きくなり、それが呪いとなって体を蝕む。
採星師であるテストリアは、アストラの体を心から心配していた。
自分の体が強い祈りによって影響を受け、今すぐにでも燃え尽きて灰になってしまいそうなくらい、酷く苦しんでいるからだ。
アストラは、自分の祖母が毎晩苦しんで、もう長くは続かないことを知っていたのだ。
この孤独な日々で、アストラは毎晩考えた。唯一の心の拠り所だった祖母が居なくなってしまう恐怖に、心が打ちのめされそうだった。
少しでも、憧れた祖母の体への負担が軽くなるようにと、アストラは採星師の役割を担ったのだ。
アストラが袋を受け取ると、テストリアは杖をつき足を庇いながら、歩いて行った。
その晩、テストリアの容態が急変した。
祈り病が悪化したのだという。
アストラは、あの小高い丘へと駆けた。
「おばあさまがよくなりますように、おばあさまがよくなりますように、おばあさまがよくなりますように……」
アストラは、必死になって祈った。
アストラの頬に、一滴の雫が流れた。
頬を伝う温もりが、夜気に冷やされていく。喉の奥で震える声が、言葉にならず零れ落ちた。
その時、驚く程の閃光がアストラの前に現れた。
星に消えた祈り 月咲椿 @xv_o0ii
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