番外編「リアとセラフィーナの休日」

 あるよく晴れた、風の穏やかな日のことだった。

(たまには、二人で息抜きでもしてきたらどうだ)

 ユウマの思考が、唐突にリアとセラフィーナの脳内に直接響いた。声帯を震わせるのすら面倒になった彼の、新たなコミュニケーション手段である。

「ユウマ様! わたくしたちのために……!」

 リアは感激に目を潤ませた。いつも自分たちのことは後回しで、ユウマの世話を焼くことばかり考えていたので、その気遣いが心に染みたのだ。

「ふん。どうせ、我々がいない方が静かでよく眠れるとか、何か企んでいるに違いない……」

 セラフィーナは腕を組み、疑いの目をベッドに向ける。長年の付き合いで、彼女はこの怠惰な主人の行動原理をよく理解していた。

(新しい安眠枕の素材配合を試したいから、集中したいだけなんだが)

 ユウマの本当の動機はセラフィーナの推察通りだったが、もちろん彼はそれを思考に出さない。

 彼は二人のために、万能な土くれゴーレムを一体、執事兼荷物持ちとして自動生成し、さらに、中から食料や飲み物、その他必要な道具が無限に出てくる魔法のピクニックバスケットまで用意してやった。

「まあ、せっかくの提案だ。ありがたく受け取っておこう。行くぞ、リア」

「はい、セラフィーナさん!」

 結局、二人は連れ立って、数ヶ月ぶりに森の外の街へ買い物に出かけることにした。

 街は平和そのもので、活気に満ち溢れていた。リアは市場に並ぶ珍しい香辛料や、見たことのない野菜に目を輝かせている。セラフィーナは、偶然、騎士時代の同僚と再会し、昔話に花を咲かせていた。

 道中、チンピラに絡まれるという小さなトラブルもあったが、セラフィーナが柄を抜く前に、その鋭い眼光だけで相手を震え上がらせて追い払ってしまった。元王国最強の威厳は、まったく衰えていない。

 二人はカフェでお茶を飲み、ウィンドウショッピングを楽しみ、久しぶりの「普通の女の子」のような休日を満喫した。

「楽しかったですね、セラフィーナさん」

「ああ。たまにはこういうのも悪くないな」

 夕暮れ時、たくさんの土産物をゴーレムに持たせ、二人は満足して我が家へと帰ってきた。

 しかし、帰宅した二人が見たものは、リビングの中央に鎮座する、奇妙な物体だった。

 それは、ベッドでありながら、無数のアームが取り付けられ、表面が生き物のように滑らかに動く、謎の発明品。そして、その上で、ユウマがこれ以上ないほど気持ちよさそうな顔で眠っている姿だった。

 ベッドは、ユウマの寝息に合わせて最適なリズムで優しく揺れ、アームに取り付けられたハープが自動で心地よい子守唄を奏でている。

「……これは、いったい……」

 リアが呆然と呟くと、セラフィーナがため息交じりに答えた。

「おそらく、『自動で子守唄を歌い、最適な揺れで眠りへと誘うリビングベッド』とでもいったところだろうな。我々を追い出したのは、これを作るためだったというわけだ」

「あはは……。やっぱり、ご自分のためだったのですね……」

 リアは呆れながらも、楽しそうに笑った。

「まあ、こいつらしい」

 セラフィーナも、口元に笑みを浮かべている。

 なんだかんだ言っても、このどうしようもなく怠惰で、けれどどこか憎めない主人のいる日常が、二人にとっては何よりの宝物なのであった。

 その日の夕食。三人が囲む食卓には、リアが街で買ってきた新しい食材を使った絶品の料理と、二人の穏やかな笑い声、そして、夕食をとりながらも半分眠っているようなユウマの姿があった。

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