第38話 処女の価値
離れて過ごすようになって、私たちの「共同研究」は新たな段階に入っていた。ビデオ通話は週に二、三回のペースで行われる。スマホの画面越しでも、私の指示は怜の身体と心を確実に支配した。私は言葉や呼吸、音といった、視覚情報に頼らない愛撫の技術を磨いた。怜は、それによって得られる繊細で、しかし抗いがたい快感に、深く、深く溺れていった。
ある日の深夜、怜からの着信があった。画面に映る怜はいつもと変わらない黒髪のボブで、だがその瞳だけが熱に浮かされているように潤んでいる。彼女は静かに、しかし少しだけ荒い呼吸を繰り返しながら、私の指示を待っていた。
「今日は電話越しに、私があなたを感じさせてあげる」
私がそう言うと、怜はゆっくりと頷いた。彼女はただ私の声に耳を傾ける。私はスマホのマイクに向かって囁き始めた。それはまるで、彼女の部屋に私が実際に存在しているかのように、優しく、そしてねっとりとした甘い言葉だった。怜の身体に私の言葉が直接触れているような錯覚を覚えた。
「怜の、その透き通るような白い肌に、私の指先が今触れているの……どう? 感じる?」
私の言葉に合わせて、怜は自らの身体に手を這わせる。私の声に導かれるまま、彼女のすらりと伸びた指が、彼女自身の滑らかな肌をゆっくりと撫で上げていく。画面越しでも、その動きの一つ一つが、私にはたまらなく官能的に見えた。
「そうだ、もっと深く……そして優しく……。そこは、怜の一番敏感な場所よ」
怜の身体は私の声に忠実に反応した。彼女の普段は引き締まっている腹部に、うっすらと鳥肌が立つのが画面越しにはっきりと見て取れた。彼女の息遣いが乱れていく。
「……んん……っ……」
そのくぐもった熱い吐息が、スマホのマイクを通して私の鼓膜を直接震わせた。私はその怜の生の反応に、言いようのない征服感を感じていた。私は怜の身体の全てを知っている。そして怜は私なしではもう快感を得ることができない。私たちはもう離れることができない。
快感の嵐が過ぎ去った後、怜はまだ荒い呼吸を繰り返しながら、私に静かに問いかけてきた。
「……ねえ、月乃」
私は怜の次の言葉を待った。彼女は少し間を置いて、まるで学術的な疑問を解決しようとするように、淡々と、しかしその声の奥にはかすかな熱を宿して続けた。
「膣内の性感については、未だデータが採取できていない。……処女であることが研究の障壁になっている」
その言葉は、私の心の最も深い暗い場所に、火を点けた。
処女。それはあのAVの男たちですら、決して踏み込むことができなかった最後の聖域。怜の純粋さの象徴。私が焦がれてやまない最後の宝。怜はそれを単なるデータ不足と淡々と語っている。だが、その言葉は私の中に新たな、そして究極の独占欲を呼び起こしていた。
怜の全てを私のものにする。その最後の聖域を私だけが手に入れる。
私は、その狂おしいまでの欲望に、身体が震えるのを感じた。画面の中の、怜の潤んだ瞳が、私を見つめている。私の新たな、そして最後の欲望に、彼女は気づいていない。
私はその夜、怜に何も答えなかった。ただそのスマホの冷たい画面越しに、怜の潤んだ瞳を見つめていた。その瞳の奥にある快感への渇望が、私の歪んだ欲望をより一層強く掻き立てていた。次の冬休み。私は怜を完全に私のものにする、完璧なシナリオを練り始める。
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